碧と翠

初めに読む

プロローグ「花火」

期末テストが終わり、夏休みになった。

蝉の鳴き声が響く中、クーラーの効いた翠(みどり)の部屋では、3人の勉強会が開催されていた。


「疲れた。」


そう呟いたのは碧(あお)だった。普段口数の少ない彼だったが、苦手な数学のワークを相手にしていたこともあり、珍しく声を上げた。


「大丈夫か?碧。少し休憩にするか。」


難しい顔をした碧をみて、翠はそういうと立ち上がり、飲み物のオーダーを聞いた。同じく宿題に行き詰まっていた彼女は、キラキラした顔で麦茶を注文した。


「碧は?いつものコーラでいいか?」


翠が提案すると、彼の顔も見ずに碧はこくりと頷いた。その仕草を見て翠は部屋を出て行った。


翠の部屋で行われる勉強会は、彼らが中学生の時から続いている。彼女らは幼馴染であったが、翠だけ学年が一つ上である。そのため、定期試験や夏休みの宿題があるたび、二人の勉強を見てあげるために、彼の部屋で勉強会が開かれるのだ。今は、夏休みの宿題をしている。


よって、二人の趣味嗜好もおおよそ見当がつく翠は、勉強会の開催前に飲み物やお菓子を用意しているのだ。



翠が部屋にいない間、少しの沈黙が続いた。先ほどまで響いていたシャーペンや赤ペンのこすれる音がなくなり、彼の部屋にある時計の針の音がよく聞こえた。


碧がスマホを取り出して、アプリゲームを始めた。昔彼女が教えたパズルゲームだった。スルスルと指を滑らせて、器用にパズルを解いている彼を横目に、彼女は痺れてきた足を伸ばすために姿勢を変えようとした。


すると思わず体勢を崩し、ゲーム中の碧の方にぶつかってしまった。それにより、彼も軽く体勢を崩した。そのまま彼は指が思わぬ動きをして、パズルのコンボが切れてしまった。


碧のスコアがいつもより低くなってしまった。彼女は謝罪をしたが、彼は「別にゲームだから」とそっけない態度ではあったものの、許してくれた。



しばらくして翠が戻ってきた。トレーにはコーラが一つと、麦茶が二つのっていた。


「せっかくだし、気晴らしにコンビニでアイス買いに行かないか?」


飲み物を配り終えた翠が提案した。このまま一休みして宿題をするよりも、一度外に出て散歩をする方が気も紛れるのではないかとのことだった。


「こんな暑いのに外出るのかよ。」


碧は少し嫌そうな顔をしたが、アイスを食べたかった彼女はニコニコして賛成した。その様子を見て「仕方ないな」と言いながら、彼は立ち上がった。



***



外は予想以上の暑さだった。サングラスや日傘をさす人々とすれ違った。ちょっと出るだけだから大丈夫だと思ったが、やはり日焼け止めを塗ってくれば良かったと彼女は少し後悔した。


「ほら、お前は日陰側な。」


そう言って翠が彼女の肩を寄せて、日陰側を譲った。すると先ほどの直射日光が当たりにくくなり、少し体感温度が下がった。感謝を述べると、翠は眩しそうに笑った。


コンビニに向かう道のりで、彼女たちは花火大会のチラシを発見した。幼い頃からよく3人で見に行ったおなじみの花火大会だった。


「今年もこの日なんだなー。確か天気予報では晴れるみたいだから、綺麗に花火が見られそうだ。」


翠が言った。それをきいて彼女もうんうんと頷いた。去年は彼女と碧が受験だったので、会場には行かずに、家の近くから見たものだ。


「最近テレビ中継も増えたし、どれくらい混むんだろうな。」


碧が言った。近年テレビ中継も増え、直接足を運ばなくても気軽に見ることができる。しかし、迫力を考えれば直接いく方が良いし、何よりテレビの宣伝で、観客が増加することは間違い無いだろう。



そんな話をしていると、コンビニについた。入った瞬間に一気に冷え込む感覚が、いかにも夏場であることを伝えた。


彼女たちは各々アイスを選んでいた。すると彼女は花火セットを見つけた。花火大会もよく見に行ったが、同じくらい手持ち花火もした。最近はできる場所が限定されているが、彼女たちが幼い頃は、家族も含めて皆でやったものだ。


「最近、いろんな種類の花火増えたよな。これなんかまるで打ち上げ花火みたいだし。」


翠が指差した花火セットをみて、驚いた。昔なら手持ちだけしかなかったのに、今はこんな花火もできることにワクワクしたのだ。


「もう一種の花火大会じゃん。」


碧がそう言った。その通りかもしれないと感心した彼女の顔を見て「さすがに冗談だけど」と、彼が呆れた。


そんな話をしていたら、碧と翠との花火の思い出が蘇った。それは…


【選択肢】

A「火の粉が飛び散って、靴に穴が空いたこと」→選択ルート①(https://kakuyomu.jp/works/16818093075927510526/episodes/16818093075952921819)に進む

B「大きな音に驚いて、泣いていたこと」

→選択ルート②(https://kakuyomu.jp/works/16818093075927510526/episodes/16818093075953582696)に進む

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