第43話 巡礼3
琵琶湖の湖西道路に出るには比叡山を越えるか、小浜から来る鯖街道を通り途中越えから丁度琵琶湖大橋に出るが、いつも通り自宅近くから比叡の山麓を通り琵琶湖に出た。この道はいつもながら峠の手前付近ではヘアピンカーブの連続だが、深紗子はいつもの新車でなく、四十年前の車でも難なく登り切って流石の父も感心した。
車は湖岸に出て琵琶湖に沿って北の敦賀へ延びる国道百六十一号線で一本道になったところで、深紗子は運転を「此処からは大丈夫でしょう」と兼見に代わることにした。
軽い食事を摂るかと琵琶湖大橋付近にある道の駅へ入るように娘に言った。
社長は輝紅さんが和食が食べたいと言うと、深紗子はナポリタンかスパゲティを希望した。駐車場に入って個人規模の店ばかりが並んでいた。
「道の駅では大きなレストランはないが、色んな店が有るから、お前達とは別々にそれぞれ好みの物がある店にしょう」
父のひと声で駐車場から二組に分かれて昼食を摂ることになる。店の前の空いた駐車場に「此処ならどの店からでも解るだろう」と車から降りてそれぞれの好みの店へ向かう。先ずは後部座席の社長と輝紅さんの二人が、先に降りた後に鍵を掛けて兼見と深紗子の二人が続いた。社長と輝紅さんは食べ物がすんなり決まったが、だいたい社長は昼の軽食はだいたい深紗子さんと同じ物を食べていた。好みが変わったのか、それとも輝紅さんに合わしているのか。結構独善的な社長がそこまで合わすかと、どうも腑に落ちない。
「
「どうして?」
「今朝、呼ばれて社長室に行くと、まあ、初対面じゃないが四十年振りとは思えないほど輝紅さんと
「そうね、
食事が終わると、急に
「それはひょっとして輝紅さんと行く予定が出来たからか」
そこでこぢんまりした洋食店に入った。この道の駅はどうやらこの時間は表の駐車場を見て解ったが空いていた。バイトの女の子も直ぐに注文を訊きに来た。その子に聞くと午前中は素通りされて、夕方の帰り時に寄る車が多いらしい。奥琵琶湖パークウェイから彦根城を見て、琵琶湖大橋を渡って此処へ立ち寄る客が多かった。なるほど俺たちは琵琶湖の向こう側まで行かずに途中で折り返すからこの遅い時間は空いていたのか。
注文を訊いたバイトの女の子は説明してコップを置くと奥に下がった。
「つまりこの社長が云う巡礼は、夕べ決めたのか」
「どうもそうらしいの」
「どんな話をしたんだろう」
「さあ、それはこれから解るんじゃないの」
今朝の社長室の話からすると、失踪の解除の宣告に深紗子さんの結婚披露を利用する算段なら、社長の頭の中には他にも候補に挙がっていたようだ。最終的には前に居る人が決めたが、もっと時間があれば俺でなくてもいいのか。と考えるまもなく注文の品が出そろった。
「さっきの話だと、社長は四十年前の失踪から復活した現在の姿を報せるための手段として深紗子さんの結婚を利用しょうとしているって聞いたけれど」
「初耳ね、いつ」
「さっきの社長室で輝紅さん相手に、何かそんな風なことを云ってた」
「ふーん、お父さん、今ごろ何考えてるんだろう。あたしはまだ決めたわけないのに」
兼見はフォークに絡めたスパゲティを口へ運ぶ前に元の皿に落としてしまった。
「ちょっと待って! なんてことを云うんですか」
そんなに驚く事はないでしょう。まだ招待状も全部出してないし、今はじっくりとチェックしているところだ。これにはスパゲティどころではなくなった。ご心配なく。お父さんは誰に出すかを考えてるだけだ。それはあたしのあずかり知らない処だ。
「それは間違いないんでしょうね」
「そうよ、さっきあなたが事務所で父から聞いた通り」
「それじゃあ、式と披露宴は予定通り行われる。これは君の意志とは関係なくおこなわれるのに間違いはないんですね」
兼見は今更ながら念を押すのが馬鹿馬鹿しくなるが、此処はこの人と合わせておかないと、あとでとんでもないことを言い出す。
「そうね。式と披露宴は予定通りかも知れないけど、相手は変わるかも知れないわよ」
「エッ! それはないでしょう」
「お父さんに言わせれば、内の会社にはあなた以上の人は居るって聞いてるでしょう。でも決めるのはあたしですから」
とテーブルのナポリタンを食べて深紗子は珈琲を頼んで「ご心配なくあなたも早く食べたら」と言い添えて、深紗子の恋のチェックをひとつ終えてひと息つけた。
叔父さんからの依頼の結果を伝えるのに
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