第24話 薪美志茂宗3
四十年前の三月三十一日、この日の朝、いよいよこの日は家族には東京に行き、大学の寮に入って
これで集落に於ける守り神としての重要性を頭で知っていても、肌で感じたことの無い聡に浸透させた。それにより更に鈍感な愛について、延々とその尊さ、重さ、生きる糧の精神性を懇々と説いた。だから神社を継ぐよりも愛は尊いと言えば納得したが
妹の
そして翌朝には納得してくれたはずの
「此処から見る景色はいつ見ても飽きないなあ」
「この下があなたの生まれた集落ですもの」
「だが道路が出来るまではここへ登ってくるのは一苦労だったけれど、今はバイクで十分、歩いても三十分はかからない。楽になったもんだ」
「でもこの下の集落は千年以上も続いているのね」
耀紅はあんな小さい集落が、良くも悪くもならないで今も代々受け継いできたのに感心した。此の集落に住む人々の誇りのようなものを、文化というか、絶え間ない努力の偉大さというか、それに畏敬の念を抱いても不思議でない。
「あの近くでは
「多分あの地形に有るんじゃないのかなあ。三方を山で囲まれた小さな集落では地理的にも経済的にも価値がなかったのだろう」
確かに田畑は少なく、若狭に抜けるにも北陸地方に行くにも、どの街道も集落を通っていない。つまり行き止まりの集落では、豪族や大名は目もくれないのだろう。それだけに一族の結束力が強くて今日まで続いている。
「俺も不思議に思っているけれど、それときみを好きになるのは別問題だ」
「それは嬉しいけど、ひょっとしたらそんな考えに振り回されずに来れたから存続できたと思うとちょっと辛いでしょう」
いつ戻ってくるか解らない人の為に、此処では精一杯笑みを絶やさなかった。それが今では耀紅の愛の断片になった。
次に行ったのはメタセコイアの並木道だ。此処は耀紅が最初のデートに是非見せたいと連れて行ってくれた場所だ。北近江にもこんな場所があったなんて、あの浅井さんですら知らなかったのか、教えてくれなかった。いずれ早かれあの集落から離れる人には、そこまで気が回らなかったのかも知れない。此処は耀紅の家から近かった。それでもバイクを走らせた。
「ねえ、早く迎えに来てよ」
あどけなくフォークに絡ませたスパゲティを、頬と目許一杯に笑みを膨らませて言ってくれる。それに応えたいと「ああ、夕食はもっと豪華にしょう」と言った。
「ダメ! これから幾ら要るか解らないでしょう。それに今晩は幾ら大阪でも野宿は危ないから早めに行って泊まるところを探さないと良くないわよ」
「出来るだけ耀紅とは長く居たいんだけど……」
「それじゃあ尚更早く仕事と住むところを見付けて迎えに来てよ」
それが一番彼女が望んでいることだとその時は感じた。
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