第36話:はぁ、仕方ない……桜に謝るか(悠斗視点)

 とある日の夜。


「え、あのキーホルダーってかなりレアな商品だったのかよ!?」


 俺は何となくモンコレの関連商品のまとめサイトを見ていってたら、桜に貰ったあのキーホルダーがかなり人気の高いレア商品だという事実を今知っていった。


 それでフリマアプリで値段を調べてみたらなんと数万円以上の値段で売買されていたので、俺は普通にビックリとしてしまった。


「う、うわ……これはちょっと桜に悪い事をしちゃったかもなぁ……」


 あんな些細な事で怒るなんて大人げなさすぎるだろっていつも思ってたんだけど、でも確かにこれは桜も怒るわな……。


 でも後輩の薮下に快くあげてしまった手前、実は高価な商品だったから返してくれっていうのは流石に情けなさすぎて出来ないしな……。


「うーん、どうしよう……まぁ一度ちゃんと桜にしっかりと謝った方が良いよな……」


 俺はため息を付きながら桜にLIMEを送っていく事にした。流石にこれだけ高価な物を後輩にあげた事にちょっと負い目を感じてしまった。


―― 悠斗:少し電話で話したい事があるんだけど、空いてる時間を教えてくれないか?


 という事で俺はため息を付きながらそんな内容のメッセージを桜に送っていった。するとたったの数十秒後に桜から連絡が返ってきた。


―― 桜:今なら空いてるよ。そっちも大丈夫なようなら今すぐかけてきていいよ?


 桜も今から通話が出来るとの事だったので、早速俺は桜に電話をかけていった。


『もしもし? 悠斗?』

「あ、お、おつかれっすー……」

『うん、お疲れ様。でもどうしたのよ、急に? 何か私に用?』

「あぁ、いや、ちょっと話したい事があってな……」


 電話をかけるとすぐに桜との通話が始まった。なので俺は桜に向けてしっかりと謝ろうと思ったんだけど……でも……。


(う、どうしよう……上手く言葉が出てこないな……)


 そりゃあそうだ。


 だって俺と桜は小学生の頃からずっとお互いに冗談を言い合ったり、煽りあったりするような仲だったんだぞ? だからその……俺は桜に真面目に謝ったりした事が今まで全然なかったんだ……。


『どうしたのよ? そんなに言いにくい用件なの?』

「あっ、い、いや、その……いや、えぇっと……あ、そうだ! そ、そういや夏休みのバスケ部の合宿があるよな? 良かったらさ、合宿所まで一緒に行かね?」

『うん、そんなの別に全然構わないけど……って、え? そんな数週間後の話をするために電話してきたの?』

「えっ? あっ、い、いや、そういうわけじゃないんだけど……え、えぇっと……」

『? 本当にどうしたのよ? ……って、あ、そうだ。それじゃあせっかくだし私も悠斗に話したい事があるんだけどさ、良かったら私の話を聞いてもらっても良い?』

「え? あ、あぁ、いいよ? 一体どうしたよ?」


 俺が桜に向けてちゃんと謝罪が出来ずにいると、ふと急に桜がそんな事を言ってきた。なので俺は先に桜の聞きたい事を尋ねていく事にした。


『うん、いや実はその……これは私の友達の話なんだけどね。その友達が男の子に誕生日プレゼントを渡そうとしているんだけど、でもどんなプレゼントを渡そうかで悩んでいるらしいんだ』

「……え? それで?」

『うん、それでその友達は男の子はどんなプレゼントを貰うのが嬉しいか知りたいらしくてさ……だから悠斗に男子目線の意見を教えて欲しいんだよね』

「は、はぁ? いや、それってどう考えても……」


 いやそれってどう考えても“俺”と“桜”の話だよな? それに大抵の場合「これは友達の話なんだけど……」って冒頭に付ける時ってほぼ確実に自分の事を話す時だしな。


(でも何で桜はそんな事を俺に尋ねてきたんだろう……って、あ、もしかして!)


 あぁ、もしかして……桜はまた俺に誕生日プレゼントを渡そうと思っているって事か!


 まぁ確かに桜に貰った今年の誕生日プレゼントはもう後輩の薮下にあげちゃったしな。だから桜としてももう一度改めて俺に誕生日プレゼントを渡したいって思っているんだな!!


(なるほど、まぁそういう事なら……よし、それじゃあ俺も知らない振りをしながら答えてあげる事にしてあげよう!)


 そう思って俺は桜にアドバイスを送ってあげる事にしていった。


「んー、まぁやっぱりアレじゃね? その男子が普段使い出来そうな物をプレゼントするのが良いんじゃないか? うん、多分それが一番喜ばれると思うなー」

『普段使い? でもアンタ私が誕生日プレゼントにあげたペンを捨てたんでしょ? あれも普段使い出来るプレゼントだったはずだけど?』

「うぐっ!? そ、それは……で、でも! そ、そういうのじゃなくて、もっと俺が普段から使うような物を渡してくれれば良かったんだよ! だって俺って全然勉強とかしないタイプだろ??」


 桜から痛烈過ぎる言葉を貰ってしまったので、咄嗟に俺は逆ギレ気味にそんな言葉で返してしまった。


 流石にちょっと大人げない気もしたけど、でもこれ以外に言い返せる方法がなかったんだから仕方ないよな……。


『あー、まぁ確かにそう言われてみれば悠斗は全然勉強しないタイプだったもんね。そっかそっか、相手視点に立って考える事が大切って事か。うん、なるほど! それは良いアドバイスだね!』

「え? あ、あはは、そ、そうだろ……?」


 そしてこんな逆ギレ気味な発言をしたら流石に桜もブチギレると思って内心ビクビクとしてしまったんだけど……でも桜はそんな俺の対応を聞いても特に怒った様子を見せずに納得したような声を出してきた。


『うん、わかったわ。ありがとう悠斗。そのアドバイスを参考にさせて貰うわね。あ、そうだ。それで結局悠斗の言いたい事って何だったのよ?』

「え? あー……」


 そして桜は改めて俺に向かってそんな事を尋ねてきた。


(うーん、どうしようかな……)


 でも俺としては咄嗟に去年の誕生日プレゼントについて逆ギレ気味な対応をしてしまった気まずさがあったので、今すぐに桜に謝るのはちょっと難しいなと思った。


 それに俺が桜に謝りたい事って今年の誕生日プレゼントについてだしさ……という事で俺は……。


「え、えっと……いや、ちょっとド忘れちゃったわ、あ、あはは」

「え、そうなの? でもいきなり電話してきたんだから結構重要な話だったんじゃないの? 今日はまだ私は時間あるから思い出すまで付き合うわよ?」

「あー、いや、大丈夫だよ。どうせくだらない内容のはずだしさ。ほら、俺達の話す内容っていつもくだらない事ばかりだろ? あはは」

「は、はぁ? いや私からはくだらない話なんて全然してないからね? くだらない事を話してるのは悠斗の方だけでしょ? ふふ、まぁ別にいいけどさ」

「あ、あはは、確かにそうかもな。ま、それじゃあまた思い出したら改めて伝える事にするわ」

「そう? うん、わかった。それじゃあ思い出したらいつでも言ってね」

「あぁ、わかった。それじゃあまたな」

「うん、またね」


 そう言って俺達の通話は終了していった。結局ダラダラと喋ってしまい桜に素直に謝るという事が出来なかった。


(うーん……ま、でも普通に桜と話せて楽しかったし、今日の所はこれでいいか)


 それによく考えたら俺は既に一度はちゃんと誕生日プレゼントの事についてしっかりと謝ってたよな?


 だったら今更誕生日プレゼントの事についてもう一度謝らなくたって別にいいよな?


 だって俺達はこんなにも仲が良いんだしさ。今更謝らなかったくらいで仲が悪くなるなんて事も無いに決まってるもんな!

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