第22話:何で勝手に誕生日プレゼントを他人にあげちゃうのよ!(桜視点)

 その日の夜。


 今日も私はいつも通り晩御飯を作りに悠斗の家にお邪魔していた。


「……」


 でも私は終始かなり暗い表情のままで晩御飯を作り続けていっていた。


 正直に言えば悠斗の家に行く事すらちょっとキツかったんだけど……でも流石に何の連絡も無しにご飯を作りに行かなくなったら悠斗も心配すると思ったので、私は放課後に受けた悲しい気持ちを押し殺して悠斗の晩御飯を作ってあげていた。


「あ……そ、それじゃあ……晩御飯出来たよ……」

「あぁ、わかったー」


 それから少しして晩御飯を作り終えた私は、リビングのソファで寝転んでいる悠斗を呼んでダイニングテーブルの方に座らせてった。


「よし、それじゃあ早速食べようぜ。いただきまーす」

「う、うん、いただきます……」


 という事で私達はいつも通り二人きりで晩御飯を食べ始めていった。晩御飯を食べ進めていくと、途中で悠斗はこんな話を私に振ってきた。


「あ、そうだ。そういえば今日は何で先に帰っちゃったんだよ? 俺は桜の事をずっと待ってたんだぜ?」

「え? あ、あぁ、それはその……ごめんなさい、ちょっと考え事をしてたら普通に帰っちゃったのよ……」

「ふぅん、そうなんだ? まぁそれなら別に良いんだけど……あ、でもそのせいで今日は桜に弁当箱を渡すの忘れたままだったよな? ま、とりあえず弁当箱は台所に置いといたからさ、後はいつも通り洗っておいてくれよなー」

「え……? あ、あぁ、うん。まぁ、それはいつもやってるから別に良いんだけど……でも、せっかく台所にまでお弁当箱を持って行ったんならそのまま水につけて置いてくれてもいいんじゃないの?」

「えー? いやいや、台所に弁当箱を置いといただけでも十分偉いだろー?」

「いや、別にそんなに偉くは……って、まぁ、いいよ。うん、わかったわよ……」


 いつもの私なら軽く言い合いをする場面ではあったと思うんだけど、でも今日は流石にそんな事をする気力もなかったので、私はそのまま悠斗の言葉を受け流していった。


◇◇◇◇


 そしてそれから数十分後。


 ご飯を食べ終えた私は台所に向かって食器類やお弁当箱などの洗い物をどんどんとやり始めていっていた。


「……ぐすっ……」


 でも悠斗のお弁当箱を洗い始めたその瞬間に……ふと部室に置いてあったゴミ箱の事を思い出してしまい、思わず涙が出そうになってきてしまっていた。


「ぐすっ……いつも私のご飯が美味しくないって言ってるのは知ってるけどさ……でも何も一口も食べずにゴミ箱に捨てなくてもいいじゃないのよ……」


 私は零れ落ちそうになっていた涙をひたすらと我慢していきながら洗い物を続けていった。


 そして洗い物を全て終わらせた私はそのままリビングの方に戻っていった。するとそこでは悠斗がいつも通りソファに座りながらスマホを弄っていた。


「ふぅ、洗い物が終わったわよ……って、あ、あれ……?」

「んー、お疲れっすー」


 私は洗い物が終わった事を悠斗に報告していくと……悠斗が手に持っているスマホにアクリルキーホルダーが付いてない事に気が付いた。


「ん? どうしたよ桜?」

「い、いや、えっと……その、悠斗のスマホに付けてたアクリルキーホルダーはどうしたのよ? 昨日までは付いてあったよね?」

「え? あー、あれか?」


 私は悠斗のスマホを指差しながらそう尋ねていった。アクリルキーホルダーとはもちろん私が誕生日にプレゼントしてあげたあのゲームのキーホルダーの事だ。


「えっと、その……ごめん! あれ仲の良い後輩にあげちゃったわ」

「……は?」


 悠斗は突然とそんな事を私に言ってきた。でも私はその言葉をすぐに理解する事が出来なくて呆然と立ち尽くしてしまった。


「え……えっと? あ、あれ? い、いやでもさ、悠斗だってその作品が好きなんでしょ? そ、それなのに後輩にあげたって……ど、どういう事よ……?」

「あぁ、まぁ俺も好きなんだけどさ、でもめっちゃ仲の良い後輩があのキーホルダーが物凄く欲しいって羨んでたからさー……だから今回はその後輩にキーホルダーを譲ってあげる事にしたんだよ。はは、実はあのモンスターって俺の後輩がめっちゃ大好きなモンスターだったんだよなー」


 悠斗は私に対してそんな弁明をしてきたんだけど……でも私にはその弁明の意味がちっとも理解出来なかった。


「え、えっとさ……そもそもアレって私が誕生日にプレゼントとしてあげたものなんだよ? そ、そんな特別な物なのに何でそんな簡単に誰かにあげちゃうのよ?」

「ん? いや、まぁ確かに誕プレなのはそうなんだけどさ……でも別にあのキーホルダーってそこまで特別な物じゃないだろ? 普通に家電量販店とかデパートとかで買える普通の商品なんだよな? それならまた同じのを買えば良いだけなんだからそんないちいち言わなくても良くないか? はは、ってかそれなら今度の土日にでも一緒に家電量販店に行って買いに行こうぜ? な、それで何も問題ないだろ?」

「なっ……!?」


 あまりにも酷い発言を受けてしまい私は絶句してしまった。だってあのキーホルダーは私と冴木君が何時間もかけて並んで買ってきた商品だっていうのに……それなのに……。


「ふ……ふざけないでよっ! あのキーホルダーは悠斗のために頑張って買ってきた物なんだよ? そ、それなのに……そんな簡単に他人にあげちゃうなんて……」

「え? いやいや、そりゃあプレゼントをくれた気持ちは凄く嬉しいけどさ、でもあれって何処でも買える普通の物だろ? だからまたいつでも買えるんだし別によくねぇか? ってかそんな声を荒げる必要だって全然ないだろ?」

「……っ……」


 私はあまりにも酷いと思って悠斗にそう言ったのに、でも悠斗は何がいけないのか良く分かってないようだった。


 そしてそんな悠斗の酷い態度を見た瞬間に……私の感情が一気に失っていった感じがしていった。


「……もういい。帰る」

「え? なんでだよ? 今日は前々から一緒にテスト勉強するって約束してたじゃん?」

「……今日はもういい。やらない」

「は、はぁ? いやなんで……って、おい、ちょっと待てって!」


 私は悠斗に呼び止められそうになったけど、でも私はそれを無視してすぐに自分の家へと帰っていった。

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