第21話:何でそんな事を言うのよ……(桜視点)

 私はその言葉を聞いても意味が理解出来ずに身動きが取れなくなってしまった。だって……。


(え……? きょ、今日のお弁当も美味しくなかったの……?)


 そ、そんなわけない。だって今日のお弁当はいつもよりも濃いめの味付けにしたし、それに悠斗の大好物ばかりを入れたんだよ?


 それに私も悠斗と同じお弁当を今日のお昼に食べたけど、いつもより濃い味でご飯がとても進むお弁当だったと思う。


 そしてそれこそが悠斗の食べたいと思っていたお弁当のはずなのに……。


(それなのに……どうして悠斗はそんな事を言うのよ……?)


 いや、100歩譲ってマズかったという感想は私と悠斗で味覚が違うのだからそれは認めてもいい。だって人それぞれで好き嫌いは異なるわけだしさ。


 でも流石にいつもと同じで薄味なんて事だけはない。だって絶対にいつもよりも濃い味になっていたはずなんだから。


 だから私はどうしても悠斗のその言葉を受け入れる事が出来なかった。


「でも前にお弁当の写真を見して貰った時にはマズそうな雰囲気は全然しなかったけどな。普通に彩り良くて凄く美味しそうだなって思ったんだけどなー」

「いやいや、桜の弁当は見た目だけで中身はマジで不味いんだよ。食ったらマジでドン引きレベルで酷いからな?」

「ふぅん、そうなんだ? でもそれなら水島さんに味付けとか作り方を変えて欲しいって言えばいいじゃん?」

「いやいや、アイツは俺の言う事全然聞かない子供っぽい所があるから無理だよ。だから俺が大人な対応をしていつも黙って桜の作る飯を食ってるってわけさ」

「へぇ、それは大人な対応だな。文句を言わずに黙々と食べるって何だか武士みたいでカッコ良いな」


 何だかまた私に対して失礼な事を言ってた気もするけど、でも今の私には悠斗に声をかける勇気が一切出てこなく……そのまま無言で悠斗達の話を聞き続けていった。


「はは、そうだろう? あ、でもさぁ……今日はちょっと無性に学食のカレーが食いたくなったからさ……だから今日は桜の弁当を食わずに学食に行っちゃったんだよなー」

「え、弁当あるのに学食行ったのかよ? それじゃあ水島さんのお弁当はどうしたんだよ?」

「あはは、そんな決まってんだろ? 部室のゴミ箱に全部捨てたわ」

「……っ!?」


 私は悠斗のその言葉を聞いて今日一番の衝撃を受けていった。しかし悠斗達は私の存在に気づく事もなくそのまま話を続けていった。


「えっ、マジかよ? あはは、もったいねー。ってかそんな事をするくらいなら俺に水島さんの弁当をくれよー。俺も水島さんの手料理とか一度で良いから食ってみたいんだからさ」

「いやいや、マジで不味いんだから変な好奇心を出すのは止めとけって。むしろお前みたいなヤツの腹を壊させないためにわざとゴミ箱に捨てたって所もあるんだからな? あはは!」


(……そ、ん……な……)


 そんな酷い会話を聞いて私は目の前が真っ暗になりそうになってきた。


 で、でも……もしかしたら今の会話は全部嘘かもしれないよね……? だって、本当にゴミ箱に捨てたなんて証拠はまだ無いし……!


(そ、そうだよね……! 流石にそんな酷い事をするわけ無いよね……! ほ、本当はちゃんと食べてくれたんだよね……!)


 私は頭が真っ暗になりかけながらも踵を返して悠斗達に見つからないように早足でとある場所に向かって行った。もちろんとある場所とは男子バスケ部の部室だ。


 男子バスケ部の部室は私が所属している女子バスケ部の隣にあるので、男子バスケ部の部室が何処にあるかは私もちゃんと把握している。だから私は迷う事なく真っすぐと男子バスケ部の部室に向かって行った。


◇◇◇◇


 それから数分後。


「はぁ、はぁ……」


 私は男子バスケ部に到着する事が出来た。そして今日のバスケ部は休みの日なので部室の中には誰もいなかった。


「よ、よし……それじゃあ……」


 という事で私は早速出入口の近くに置かれているゴミ箱の方に移動し、そして私は覚悟を決めてそのゴミ箱の中身を確認していった。するとその中には……。


「う、そ……な、んでよ……」


 そのゴミ箱の中には……今朝、私が悠斗に渡したお弁当箱の中身が全てぶちまけられていた。


 豚の生姜焼きに卵焼き、きんぴらごぼうに大根の煮物など……全部悠斗の大好物ばかりだ。しかも全て悠斗のために濃い目の味付けにして入れてあげたのに……それなのに……。


「ひどい……ひどい、よ……ぐすっ……」


 それなのに……一口も食べずに全部ゴミ箱に捨てちゃうなんて……酷すぎるよ……。

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