第7話:うんうん、そっかそっか、それはアイツが悪いわー
それから数分後。
「……って事があったのよ!」
「へぇ、なるほどね」
水島さんに先ほどの二人の口論の原因を教えて貰った。と言ってもその原因はさっき川崎に教えて貰った通りの内容だった。
川崎は毎日晩御飯を水島さんに作って貰っているのに、今日は晩御飯は要らないという連絡を直前まで言うのを忘れて怒られたという話だった。
「話を聞いてる限りだとそれは川崎が悪いね。毎日水島さんが晩御飯を作りに来ているのを知っているのに、それを蔑ろにしてるってのはちょっと酷いなー」
「で、でしょ! やっぱりそうだよね! しかも今日は悠斗の食べたいご飯を作ってあげようと思って休みの日に食材を事前に買っておいたっていうのにさー……」
「あ、そうなんだ。せっかく川崎の食べたいご飯を作るための準備をしていってたのに、唐突に要らないって言われるのは悲しいよね。ってかそれくらい事前に言っといてくれれば良いのにね」
「本当にそう! 悠斗はいつもギリギリになってそういう事を言ってくるのよ! しかも悠斗はいつも私がご飯を作ってあげてるのに感謝の言葉一つもくれないのよ? 少しくらいは感謝とかして貰いたいわよ、全くもう……!」
そう言うと水島さんは少し怒った表情をしながらココアを飲み進めていった。
「いや、それは本当に悲しいよねー。あ、ちなみになんだけどさ、それ以外にも何か川崎に約束を破られた事とかはあったりするの?」
「そんなのしょっちゅうよ! 前にも私の家で一緒に宿題をやろうって約束したのに、やっぱり友達と遊ぶって言って約束をすっぽかしたりもされたしさぁ……あっ、あとそれにさ……!」
そんな感じで水島さんはプリプリと怒りながら川崎に約束を破られた話を次々と俺に教えていってくれていった。どうやら思っていた以上に鬱憤が溜まっていたようだ。
(なるほど、そういう事か)
今の水島さんの話を聞いて少しだけ川崎の事がわかった気がした。
多分川崎は水島さんの事を仲の良い幼馴染だと思っているからこそ、川崎は何をしても水島さんは許してくれると思っているんだろう。
(だから水島さんとの約束を平気で破ったりするし、ご飯を作って貰っても感謝の気持ちを全然伝えなかったりするんだろうな……)
昔から“親しき中にも礼儀あり”という言葉があるのに、どうやら川崎はそれをわかっていないようだ。
そして今の話を聞いて川崎に「幼馴染の事を大切にした方が良いぞ」って注意してあげるのが友達としての優しさかもしれないけど、でも別にそんな事を諭してやるつもりはない。というかそもそもさ……。
(そもそも女の子に毎日ご飯を作って貰ったり、家に招待をされてる時点でどう考えて脈ありなのに……何で川崎はそれを理解出来てないんだ?)
俺が今の川崎と同じ状況になっているのなら速攻で水島さんに告白するけど、まぁでも川崎の事はどうでもいいか。俺は俺のやり方で水島さんと仲良くなっていこう。
「なるほどね。やっぱり水島さんの話を聞いてる限りだと水島さんが怒るのも無理はないよ。でもあんまりそういうストレスは溜め込み過ぎない方が良いよ? ストレスを溜め込み過ぎるとメンタルとかに支障をきたすかもだしさ……」
「あぁ、うん、確かにね。でも私はストレス解消っていう事なら、ほぼ毎日部活で運動してるからそれで大丈夫かな?」
「あ、なるほど、そういえば水島さんって女子バスケ部だもんね! 確かに運動をするのはストレス解消に良いっていうよね」
「うんうん、そうなんだよね! あとは家の近くに大きな公園があるからさ、土日休みにはそこの公園で早朝にランニングをしてるんだ! それもストレス発散になってるのかもしれないなー」
「へぇ、そうなんだ! 朝にランニングをするのはめっちゃ気持ちよさそうだね! なるほどー、それはちょっと気になるなー」
「うんうん、朝に走るのってすっごく気持ち良いよ! あはは、良かったら冴木君もやってみなよ! すっごくオススメだからさー」
(よし、きたな)
俺は水島さんからその言葉が出るのをずっと待っていたんだ。だから俺はそのまま水島さんにとある事を伝えていってみた。
「あぁ、うん。いや実は俺も家の近くにも大きな公園があるからそこでランニング始めてみようかなって思ってるんだよね。押野公園っていうんだけどさ」
「へぇ、そうなんだ……って、えぇええっ!? 冴木君って押野公園の近くに住んでるの!? 実は私もその押野公園でいつも早朝にランニングしてるんだよ!」
「え、そうなのっ!? へぇ、それはすごい偶然だね!」
「うんうん、本当にそうだね!」
(よし、計画通り)
俺は笑みを浮かべながらも心の中ではそんな事を思っていっていた。
実は水島さんが休みの日にランニングをしているというのは以前に川崎から教えて貰っていたんだ。ちなみにその時の川崎との会話はこんな感じだった。
『あ、そういえばさ、いつも川崎は水島さんの事を脳筋ゴリラだとか言ってるけど、何か脳筋ゴリラっぽいエピソードでもあんのかよ?』
『あぁ、そんなのもちろんあるぜ! アイツさー、平日は毎日バスケ部でガッツリ運動してるのに、土日の早朝には近くの公園でいつもランニングをしてるんだぜ? 週7で走りまくってるとかヤバイよなww マジでゴリラ過ぎだろ?w』
『へ、へぇ、そうなんだ……』
というような会話を川崎とした事があったんだ。
そしてその時、俺は水島さんと仲良くなる方法を見つけたと思った。それはもちろん土日の朝に水島さんと一緒にランニングをするという方法だ。
という事で俺はいつか良いタイミングを見つけたら、水島さんにランニングを一緒にしたいと言うつもりだった。そしてその絶好のタイミングが今まさにやって来たのだ。
「あ、それじゃあさ、良かったら今度の土日休みに一緒にランニングしない? 俺ランニングは初心者だからさ、普段からランニングをしてる水島さんと一緒に出来たら凄く助かるんだけど……」
「あぁ、うん! そんなのもちろんいいよ! 私も朝に一緒に運動出来る友達がいて嬉しいもん! 一緒に走ろうよ!」
俺がそう提案してみると水島さんは満面の笑みを浮かべながら良いよと言ってきてくれた。そしていつの間にか先ほどの怒った様子はもう一切なくなっていた。
(うん、やっぱり水島さんは怒ってる顔なんかよりも笑顔の方が良いな)
俺はそんな事を思いながら水島さんと一緒に満面の笑みを浮かべていった。
「はは、そっか、それなら良かったよ。それじゃあ今度の土曜日に一緒に走ろうね」
「うん、わかったよ! それじゃあ後で具体的な時間と集合場所についてはLIMEで伝えるね」
水島さんは笑いながらそう言ってきてくれた。もちろん俺は水島さんとは既にLIME交換はしていた。そして俺達はいつもドラマとかの感想とかLIMEで話している仲だったりもする。
「わかった。それじゃあ改めて、これからもよろしくね、水島さん」
「うん、こちらこそだよ。冴木君」
という事で俺達は今度の土曜日の朝に一緒にランニングをする約束を交わしたのであった。
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