第6話:水島さんと一緒にベンチで休んでいく
という事で俺は水島さんに後ろから近づいて声をかけていった。
「お疲れさま」
「えっ? ……って、あ、あぁ、佐伯君。うん、お疲れさま」
すると水島さんは一瞬嬉しそうな声を出して俺の事を見てきたんだけど、でも俺の顔を見るとまたちょっとだけ暗い表情へと戻っていった。
(あぁ、まぁやっぱりそういう事か)
きっと水島さんは川崎に見つけて貰いやすいように、わざとこの見つけやすい校庭付近のベンチで座って川崎の事を待っていたんだ。
でも声をかけてきたのは川崎じゃなくて俺だったので、水島さんはその事をちょっとだけガッカリとしてしまったんだろう。
(ま、でもこの様子を見ていると、やっぱり水島さんとしてはもう一度ちゃんと謝ってくれたら全部許すつもりだったんだろうな)
それなのに川崎はそんな事もわからずに水島さんに謝るつもりも追いかける事もしなかったというオチだ。
(はぁ、全く……アイツはしょうがないヤツだな)
俺は心の中でそんな事を思いながらも、水島さんに向けて優しく声をかけていった。
「お疲れさま。良かったら隣に座ってもいいかな?」
「え? あ、うん、もちろん良いよ?」
「うん、ありがと。それじゃあ失礼して……よっと」
という事で俺は水島さんの許可を貰ってから水島さんの隣に座っていた。
「あ、そうだ。あと、はいこれ、お土産だよ」
「え? あ……」
そう言いながら俺はさっき自販機で買ってきたココアを水島さんに手渡していった。
「え、あ、ありがとう? あ、でもごめん、私今サイフ持ってないからお金渡せないんだ……」
「はは、別に気にしないでいいよ。これは俺からの奢りだからさ」
「え? い、いや、それは流石に申し訳ないからちゃんと払うよ」
「いやいや、全然気にしないでいいよ。ほら、俺は水島さんの隣を座らせて貰ってるんだしさ。だからこれはこの場所代って事でいいよ」
「い、いや、でも……」
水島さんはそう言って頑なにココアの代金を支払うと言ってきた。中々に律儀な女の子なんだよな、水島さんって。
「うーん、あ、わかった。それじゃあさ、良かったら今日はこのまま昼休みの話し相手になってよ? ほら、俺ってまだ引っ越してきて一ヵ月しか経ってないじゃん? だからまだ話し相手が少なくてちょっと悲しいんだよね……」
「あ、冴木君……」
完全に嘘です。この男はたったの一ヶ月の間に全クラスメイト達と仲良くなっています。
まぁでもそんな事は水島さんにはわかりようもない事実だし、とりあえず俺はちょっとだけ曇りがちの表情をしながらそう言ってみた。
「……うん、わかった、それじゃあ私で良かったら話相手に立候補するよ! それに私もちょっと気分転換に色々と話とかしたいなって思ってたしさ!」
すると俺の言葉を聞いた水島さんは、一転して満面の笑みを浮かべながら俺に向けてそんな優しい言葉を投げかけてくれていった。
(はは、やっぱり水島さんは凄く優しい女の子なんだよな)
まぁ正直な話、優しい水島さんならこう言えば了承してくれると思ってはいたんだけど、でもまさかここまで予想通りの反応をしてくれるとはね。
「うん、そっか。それなら良かったよ。あ、それじゃあ改めて……はい、ココアどうぞ」
「うん、ありがと、冴木君。それじゃあ早速飲ませて貰うね」
俺からココアを受け取った水島さんはゆっくりとココアを飲み始めていった。
「んく、んく……ぷはぁ。うーん、やっぱり甘い物を飲むと気分がスッキリとするね!」
「はは、それなら良かったよ。前に水島さんは甘い物が大好きだって言ってたからココアを選んだんだけど、それが正解だったようで安心したよ」
「あー、確かに前に冴木君とそんな話をしたよねー……って、えっ!? そんな他愛無い話を覚えてくれてたの? あはは、それは嬉しいなー。何だか私の話をちゃんと聞いてくれてるって感じがしてさ」
「あはは、そんなの当たり前だよ。ってか友達の話はちゃんと聞くのが普通でしょ?」
「いやいや、そんな事ないよー! だって悠斗なんて私の話をしょっちゅう聞き洩らしてるんだからさぁ……」
そう言うと途端に水島さんは渋い顔をしだしていっていた。
「そっか。あ、もしかしてさっきの川崎との喧嘩もその事が原因だったりするのかな?」
「え……? って、あぁ……もしかして、さっきの教室での悠斗とのやり取りを見られちゃってたのかな?」
「はは、そりゃあ流石に教室の中であんな大喧嘩をしてたらついつい見ちゃうって」
さっきの教室で起こった喧嘩の件について尋ねてみると、水島さんは少しだけ恥ずかしそうな顔をしてきた。
「あ、あはは……冴木君にも見られてたのはちょっと恥ずかしいなぁ。あ、でもあれは全然喧嘩とかじゃないから安心してよ。ただアイツの事を注意をしてただけだからさ」
「あ、そうだったんだ。でも水島さんがあんなにも大きな声を出して怒るなんてちょっとビックリしちゃったよ」
「い、いや、そんなに怒ってたつもりはないんだけど……で、でもそっか。冴木君をビックリとさせちゃって本当にごめんね……」
「ううん、そんなの全然大丈夫だよ。でもいつも凄く優しい水島さんがあんなにも怒っている所なんて初めて見たからさ……だから俺は水島さんの事が凄く心配になっちゃったんだよ。だから何があったのか良かったら教えてくれない?」
「そ、それは……」
俺は心配そうな表情をしながら水島さんにそう尋ねていってみた。
「え、えっと、その……い、いやまぁ……きっと冴木君もそんなしょうもない事でって思っちゃうくらい些細な事だから全然気にしないで大丈夫だよ!」
「いやいや、そんな事はないでしょ。優しい水島さんが怒るって事は結構な原因があるって事でしょ。それにそういうモヤモヤとする気持ちはちゃんと口に出した方がスッキリすると思うし俺で良かったら愚痴に付き合うよ? それにほら……俺達は友達なんだからさ、こういう時くらいは素直に頼ってほしいよ」
「さ、冴木君……」
さっきも水島さんは気分転換に色々と話したいって言ってたし、多分色々と鬱憤が溜まってるんだと思う。
だからそんな鬱憤を俺に向かって吐き出して貰えるように、俺は真剣な表情をしながら再度水島さんに向けてそう言ってみた。
「……うん。それじゃあ、その……良かったら私の愚痴を聞いて貰っても良いかな?」
「うん、もちろん良いよ。あ、俺の口はめっちゃ固いから気軽に色々と愚痴って良いからね?」
「ふふ、わかった。それじゃあ……ちょっとだけ愚痴らせて貰うね」
すると水島さんは俺が本気で心配してるのをわかってくれたようで、少しだけ笑みを浮かべながら水島さんは俺に向かってそう言ってきた。
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