第5話:水島さんと川崎がいつも通り痴話喧嘩をしてる

 月曜日のお昼休み。


「だ、だから悪かったって言ってんじゃん!」

「……ん?」


 今日もいつもと同じように教室の中で川崎と水島さんの二人は痴話喧嘩をしていた。でも……。


「ふん、嘘ばっかり! どうせ反省してないでしょ! もう知らないわよ!」

「えっ!? あ、ちょっ、待ってくれよ……!」


 でも今日の水島さんは川崎にそう言ってそのまま教室から出て行ってしまった。流石にいつもよりちょっと怒っているというのは俺でもわかる。


(今日は一体何をしたんだ、アイツは?)


 でも水島さんの事を怒らせていた川崎はというと、水島さんを追いかける事もせず頭をポリポリと搔いているだけだった。


 いやここはどう考えても水島さんの後を追いかける場面だと思うんだけど、アイツは何をしているんだ?


 まぁでも今の俺には状況が全くわからないので、まずは川崎に話しを聞いてみる事にした。


「よっす。何だか今日も凄かったな?」

「うん? ……って、あぁ、冴木か。はは、今日も恥ずかしい所を見られちゃったな」


 俺はいつも通り気さくな感じでそう話しかけていくと、川崎は少しだけ恥ずかしそうにしてきた。


「それで? 今日は何が原因で水島さんと喧嘩してたんだよ?」

「ん? あぁ、いや……実は前にも言ったんだけどさ、俺は今一人暮らしをしていて、それで桜がいつも俺ん家に晩御飯を作りに来てくれてるんだ」

「へぇ、そうなのか。幼馴染の女の子の手料理が食えるなんて男としては最高のシチュエーションじゃん。はは、俺も水島さんの作る手料理とか食べてみたいなー」

「あはは、そんな最高のシチュエーションでも何でもないってー! だってアイツの作る飯って全然美味しくねぇんだもん」

「え、そうなのか? でも前に水島さんに聞いたら料理に色々なこだわりとがあるっぽくて凄い料理上手そうな感じがしたけどな?」


 前に水島さんから趣味の料理について聞いた時には、昆布とかカツオ節とかを使ってちゃんと一から出汁を取ってるっていう話を聞いたりした。


 それ以外にも沢山のこだわっている話を聞いていたので、俺は何となくだけど水島さんは料理が上手なんじゃないかなって思っていた。


「いやいや、桜は料理のうんちくだけ沢山持ってるだけなんだよ。だって桜の作る料理っていつも超薄味でクソ不味いんだぜ? あはは、だから多分アイツって味音痴なんだよなー」


 川崎は笑いながら水島さんの料理をそんな風に評価してきた。まぁでも俺が色々と言ってしまうと何か拗れそうだから深く追求するのは止めておこう。


「ふぅん、そうなんだ。それで? その水島さんが毎日ご飯を作りに来てくれるって話からどうやってさっきの口論に繋がったんだよ?」

「あぁ、いや実はさー、今日は友達と夜遅くまで遊ぶ予定を立ててたんだけど、それを桜に言うのをすっかりと忘れちゃっててさ。それでついさっきその事を桜に報告したんだよ」

「は、はぁ? それで?」

「そしたら桜がそんな大事な事はもっと早くに言えってこの馬鹿野郎! ……って、ブチギレながら教室から出て行ったって訳だよ。いやそんなしょうもない事で怒ってくるとかアイツマジで子供過ぎるよな! あはは!」


 川崎は笑いながらそんな事を言ってきた。まぁ俺は川崎の話に合わせる事にした。


「え、えぇっと……はは、そりゃあ災難だったな。でも水島さんが怒ってるのは事実だろ? 追いかけてあげなくていいのかよ?」

「ん? いや、別にいいだろ。だって俺はもうしっかりと謝ったんだぜ? だからもう俺は悪くないだろ」

「え?」

「それにアイツだってそんな馬鹿じゃないんだから、どうせすぐに怒りも収まってすぐに教室に戻って来るよ。だから冴木もそんな気にしなくて大丈夫だって。ってかこれが俺達のいつもの光景だからさ、あはは」


 川崎は本当に自分には非がないと思っているような雰囲気だった。


「そっか。まぁ川崎が気にしてないって言うんなら別にいいよ」

「ん? あぁ、俺は全然気にしてないぜ? って、あ、そうだ。せっかくだし良かったらこのまま一緒に昼飯食わねぇか?」

「えっと……あぁ、いや、俺は今からちょっと職員室に行く用事があるから今日は遠慮しとくわ。また今度誘ってくれよ」


 川崎に昼飯を誘われたけど俺は咄嗟に嘘をついてそのお誘いを断っていった。だって俺にはこの後すぐにでもやらなきゃいけない事があるからさ。


「そうなのか? わかった、それじゃあまた今度一緒に昼飯を食おうな?」

「あぁ、わかった。それじゃあせっかくだしその時は水島さんとの何か面白いエピソードとか俺に聞かせてくれよ」

「あはは、そんな桜の面白エピソードなんて沢山あるぞ! それじゃあ今度昼飯を食う時にそんな笑える面白エピソードを紹介してやるよ」

「はは、ありがとう。それじゃあその時を楽しみにしてるな。じゃあちょっくら職員室に行ってくるわ」

「あぁ、わかった」


 こうして俺は川崎と別れて教室から出て行った。


(ふぅ、それにしてもアイツは馬鹿なのか?)


 あんなにも最強すぎるラブコメの主人公体質だというのにそれを活かしきれてないとか残念過ぎるだろ……ま、別に良いんだけどさ。


「よし、それじゃあ水島さんを探すとするかな」


 という事で俺はそんな最強のラブコメ主人公体質を持っている川崎の代わりに水島さんの後を追いかける事にした。


「えぇっと、水島さんは何処に……って、あ、いたいた!」


 俺は静かに一人でゆっくりと出来そうな場所を探して学校の中を歩いて回ってみると、一階の校庭近くのベンチで水島さんが佇んでいるのを見つける事が出来た。


「よし、それじゃあ早速……」


 という事で俺は近くにあった自販機で甘いココアを二つ購入してから、俺は水島さんの方へと近づいて行った。

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