第3話:悠斗と一緒に晩御飯を食べていく(桜視点)

 その日の夜。


「ふんふんふ~ん♪」


 今日も私はいつも通り悠斗の家に行って晩御飯を作っていっていた。


 今現在、悠斗のご両親は長い間海外に出向に行っているので、今はこの家には悠斗が一人で住んでいるんだ。


 でも悠斗には家事能力が全く無いので、そんな悠斗の代わりに幼馴染である私がいつも晩御飯を作ってあげているんだ。


 もちろん学校に持って行くお弁当も私が毎日用意してあげている。


「ほら、晩御飯出来たよー! 早くこっちに来なさいよー」

「あぁ、うん、わかったー」


 という事で晩御飯を作り終えた私はテーブルの上に料理を並べながら、リビングのソファに寝転んでいる悠斗を呼んでいった。


 ちなみに今日の献立は焼き魚とほうれん草のお浸し、冷奴にわかめの味噌汁という純和風なラインナップだ。やっぱり日本人たるものこういうご飯が一番良いよね。


「よし、それじゃあ食べましょう。いただきます」

「あぁ、いただきますー」


 そうして悠斗がテーブルに着席してくれたので、私達は手を合わせてから晩御飯を食べ始めていった。


「もぐもぐ……あ、悠斗さ、実は今日の料理は出汁をちょっと変えたんだけどわかる?」

「え? あ、本当だ、確かにちょっと風味が違うかも? うーん、でもやっぱりいつもと同じで味薄すぎじゃないか? なぁ桜さー、これもっと濃く味を調整出来ないのかよー?」

「いやいや、これくらいで丁度良いでしょ? 素材本来の味がわかって美味しいと思わない?」


 悠斗に味が薄いと言われたので私はそんな事ないとすぐに反論していった。


 実は私は子供の頃から料理は結構やっているんだ。理由は単純に昔から料理を作るのが好きだったからだ。


 もちろん最初の頃は料理を作るのは下手だったと思うけど、でも今では栄養バランスをしっかりと考えるようになったし、ちゃんと自分で出汁を取るようにもなっていた。


 だから今の私の作る料理はそこそこに美味しい方だとは思うんだけど、でも何故か悠斗の口にはあんまりあわないようだ。うーん、ちょっと悔しいな。


「いや、まぁ確かに桜の言う素材の味ってのはわかるけどさぁ……でも俺だって今は育ち盛りの高校生なんだぜ? だからこんな質素な魚料理じゃなくて、もっとスタミナのつく味の濃い肉料理とか作ってくれよー」

「はぁ、全くもう、色々と注文が多過ぎでしょ。毎日作ってあげてるんだから素直に喜んでよね」

「いやそれはもちろんわかってるんだけどさぁ……」


 私がそう言うと悠斗は文句を言いつつも焼き魚を食べ進めていった。そしてそのまま魚をモグモグと食べながら悠斗は笑いながらこんな事を言ってきた。


「はは、でもこんだけ薄味の料理ばっかりだとさ、桜と結婚する将来の旦那が可哀そうだよなー。だって毎日こんな薄い味の料理を食わなきゃいけないんだろ? あはは、俺だったら絶対に嫌だわー」

「はぁ? いや何言ってんのよ? そういう悠斗こそ毎日濃い味付けの料理ばっかり食べていったらどんどん太っていっちゃうわよ? ふふん、そしたらきっとすぐに悠斗は奥さんにお愛想つかされちゃうんだろうねー?」

「あはは、あいにく様だけど俺は全然太らないタイプだから大丈夫だよ。それに放課後には男子バスケ部でしっかりと運動してるし、消費カロリーの方が多いから大丈夫に決まってんだろー?」


 悠斗は笑いながらそんな事を言ってきた。まぁ確かに悔しい事に悠斗はかなりほっそりとしている体型なんだよね。


「はは、だから桜は俺の体重の心配なんてしてないでさ、料理の腕をもっと向上させる方法を考えていった方が良いんじゃないかー? まぁでもその前に桜は彼氏を作る所から始めないといけないか、あはは!」

「うぐっ……それを言うなら悠斗だってそうでしょ。そっちこそずっと彼女居ないクセに!」

「ぐっ……そ、それはまぁ……って、い、いや……やっぱりこの話題は止めようぜ。お互いに不毛だって……」

「そ、そうね……」


 私達はため息をつきながらそう言っていった。だって私も悠斗も今までに誰かと付き合ったりした事は一度も無いんだもの。だからこれ以上この話題を続けていくのは不毛だよね……。


「あ、でもさ……私が誰とも付き合えない理由って絶対に悠斗にも原因があると思うんだけど?」

「え? ど、どういう事だよ?」

「いや、アンタ私の事を色んな所でゴリラ女だっていつも言ってるでしょ? そのせいで他の生徒達から私が本当に凶暴な女なんじゃないかって怖がられている節があるんだけど??」

「え、マジで?? あはは、でもすぐに怒って手を出しちゃう脳筋な所があるんだからゴリラってのは本当の事だろー? ……って、あれ? でも急にそんな事を気にするなんて……ひょっとして誰か好きなヤツでもいんのか?」

「え……えっ!? い、いやそんなの……い、いないけど……」


 私はそう言いながら慌ててプイっと顔を背けていった。いや誰か好きなヤツがいるかなんて、そんなのもちろんいるに決まってるじゃん……。


(と、というか……もしも好きじゃなかったら毎日ソイツのためにご飯なんて作りに来ないわよ!)


 でも当の本人はその事に全く気がついていないようだ。多分仲の良い幼馴染だから毎日ご飯を作ってくれてると思ってるだけなんだろうな。このニブチンめ……!


「あ、あぁ、なんだよ、ビックリしたなー。あはは、でも好きなヤツがいないんだったら別に良いじゃん。これからも気にせず脳筋ゴリラを続けていってくれよな。って、あ、そうだ、そういえば今日の件だけどさ、新しく出来たケーキ屋さんにはいつ行くよ?」

「え? あぁ、うん、そうだね! そういえば悠斗が奢ってくれるんだよね!」


 すると話は唐突に変わって今日の朝にした会話に飛んでいった。今日の朝に悠斗は私にケーキ屋さんを奢ってくれると言ってくれたんだ。


「うーん、そうだね……あ、それじゃあ来週の金曜日の放課後とかどうかな? 悠斗はその日は空いてる?」

「あぁ、余裕で空いてるよ。それじゃあその日に食べに行こうぜ」

「うん、わかった。それじゃあ来週の金曜日によろしくね。ふふん、悠斗のお金でケーキが沢山食べれるなんて幸せだなー!」

「お、おいおい……そりゃあ奢るつもりではいるけどさ、でもあんまり高いのばっかり頼むなよ?」

「あはは、もちろんわかってるわよー」


 という事でそんな約束をしていった後はまたいつも通り他愛無い話を続けながら晩御飯を食べ進めていった。

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