第2話:幼馴染の男の方に話を聞いてみる
という事で俺は水島さんがちょうど廊下に出て行ったタイミングでその男子生徒に話しかけてみた。
「よっす、お疲れさま」
「ん? ……って、あぁ、冴木君か。どうかした?」
「いやちょっとクラスの男子と話がしてみたいなって思ってさ。あっ、そういえば名前は……?」
「あ、ごめんごめん。そういえばまだ自己紹介をしてなかったな。俺の名前は川崎遥斗って言うんだ。改めてよろしく」
「あぁ、ありがとう。俺はホームルームの時に自己紹介したけど冴木佑馬って言うんだ。こっちこそよろしくな。お互いにタメで話そうぜ」
「あぁ、わかった」
こうして俺達はお互いに自己紹介をしていった。川崎に話しかけてみた第一印象としては気さくで普通の男子生徒といった感じだ。
「それで? 冴木は俺に何か用か?」
「あぁ、いや実はさっきの喧噪が気になってさ。何だか物凄い大喧嘩だったな?」
「え? ……って、あー、もしかしてさっきのやり取りを冴木にも見られちゃってたのか?」
「そりゃあ、あれだけ大きな声で口論してたら思わず見ちゃうって。でもすぐに仲直りしてたようだし、相手の女の子とはすっごく仲が良さそうな感じだったな?」
「あぁ、まぁ何だかんだ言ってもアイツとは幼馴染の関係だからなぁ……って、いや冴木はアイツの事も知らないよな。アイツの名前は水島桜って言うんだ。見た目は普通なんだけど中身は脳筋ゴリラだから注意しろよ、あはは!」
俺が先ほどの女の子の話題を軽く出していくと、川崎は笑いながら彼女の本名を教えてきてくれた。
水島さんの名前は桜って言うんだな。よし、これはちゃんと覚えておこう。
(でも……流石に幼馴染の女の子に対して脳筋ゴリラとか言うのは酷すぎじゃないか?)
川崎が笑いながら水島さんを見下すような発言をする理由は全然わからないんだけど……まぁでも情報収集のためにも、俺も笑いながら川崎の話に合わせていく事にした。
「はは、そうなんだ。でも水島さんの事をそういう風に言うなんて、ひょっとして何か脳筋ゴリラなエピソードでもあったのか?」
「あぁ、もちろんあるぜ。桜とはしょっちゅう口論をする事があるんだけどさ、アイツ不利になるとすぐ手を出してくるんだよ。しかもアイツって女子の中ではそれなりに身長高い方じゃん? だからそれも相まってアイツが手を出してくる姿は迫力があってもう完全にゴリラなんだよな、あはは」
「……ふぅん?」
確かに水島さんの身長は160センチ台前半くらいはありそうに見えた。だから女子の平均よりかはちょっと高いとは思うけど、でも別にゴリラと形容される程の身長でもないような気はするんだけどな?
ま、でもとりあえず今はツッコミは入れないでおいとくか。
「なるほど。水島さんが手を出してくるのはちょっと意外だな。ってかそんなにしょっちゅう口論する事なんてあるのか?」
「え? あー、まぁ一応な……実はさ、俺、今は両親が海外に出向してるから実家に一人で生活してるんだ」
「へぇ、それって今は一人暮らしをしてるって事か? それだと毎日夜遅くまで遊び放題で楽しそうだな。はは、それはちょっと羨ましいな」
話を聞けば聞くほど川崎は本当にラブコメの主人公みたいな状況になっているようだ。というか一人暮らしは普通に羨ましいな。
「いや、最初は俺もそう思ってたんだけどさ……でも俺の家の隣には桜が住んでるんだよ。だから両親が出向で居なくなってからは、桜が毎日俺の家に来るようになっちまったんだよ」
「はは、そう言う事か。つまり川崎がちゃんと一人暮らしが出来ているのかどうかを水島さんがチェックしてきて、それが口論の原因になってるって事か?」
「あぁ、まぁそんな感じだ。今日も脱いだ靴下はちゃんと広げてから洗濯箱に入れろとか、テストが近いんだから夜更かしせずにさっさと寝ろとか……まぁそんな感じの事で言い争ってたってわけなんだ」
「あぁ、なるほどな」
川崎と水島さんの口論の原因はわかった。うん、これは確かに痴話喧嘩だな。周りの生徒が止めようとしない理由もわかるわ。
「まぁ二人の口論の原因は何となくわかったけどさ、でもそうやって川崎の事をしっかりと注意してくれるなんて水島さんはめっちゃ良い子じゃん。川崎はちゃんと水島さんに感謝した方が良いんじゃないか?」
「えっ!? い、いやいや全然アイツは良い子なんかじゃないって! 毎日毎日俺に対して口煩く色々言ってきて本当に迷惑してんだよ。マジで俺の母親かよってくらい煩く注意してくるんだぜ? マジでしんどいからな……」
「はは、そっかそっか。でもそんだけお互いに裏表なく言い争いが出来るってのは仲の良い証拠だよなー。あ、って事はさ……もしかして二人は付き合ってんのか?」
という事で俺は一番気になっていた部分を川崎に尋ねていってみた。さてさて、本人はどんな反応を示すのかな?
「え、俺と桜が付き合ってるのかって? あはは、そんな訳ないじゃん。ってかあんな凶暴な脳筋ゴリラ女が誰かと付き合えるわけないだろー」
「そうなのか? それにしては川崎とめっちゃ仲良さそうじゃん? だから普通に二人は付き合ってんのかなって思ったんだけどさ」
「あはは、傍からしたらそう見えるかもしれないけど、でも俺とアイツはただの幼馴染だよ。それ以上でもそれ以下でもないさ」
川崎は笑いながらそう言ってきた。うーん、これだけでは本心でそう言ってるのかどうかはちょっとよくわからないな。それじゃあもう少しだけ踏み込んでみるか。
「へぇ、そうなんだ。川崎は別に水島さんとはただの幼馴染の関係でしかないんだな? ふぅん、それじゃあさ……俺、水島さんの事をちょっと狙ってみようかな?」
という事で俺は水島さんを狙ってみたいと発言してみた。もちろんこれは嘘ではなく本当だ。
そもそも本当に付き合ってないんだったら俺が水島さんに告白する権利は当然あるからな。ってかあんな可愛い女の子と付き合える可能性が1%でもあるんなら全力で行動するに決まってるじゃん。
「あははーって、えぇぇえぇっ!?」
「うわっ、ビックリした。どうしたよ川崎?」
「い、いやその……あんな女は絶対にやめとけって! 冴木はめっちゃイケメンなんだからあんな脳筋ゴリラ女となんか釣り合ってないぞ! 冴木はもっと可愛くて優しい女の子を狙った方が絶対に良いって!」
俺がそんな発言をしてみると、大きく笑っていた川崎は一転してとてもビックリとした表情をしながら俺の事を全力で止めてきた。
「はは、俺の事をイケメンって評価してくれるのは嬉しいけどさ、でも女の子の事を脳筋とかゴリラとか酷い言葉で形容するのはあんまり良くないと思うぜ?」
「い、いやいや! だってマジで桜は脳筋ゴリラ女なんだから仕方ねぇって! だってアイツ女のクセに図体はデカいしすぐ手は出るし、それに洒落っけも全然なくてジーパンとかロングシャツとか男っぽい恰好ばっかりするし、もうマジで女として終わってるからな! だから冴木もあんなゴリラ女なんてやめといた方が良いって!」
「……はは、そっかそっか。わかったよ」
川崎による全力の説得を聞いて俺は笑いながら顔を頷いていった。
まぁでも今の一連の話を聞いた事によって、本当は川崎は水島さんの事が好きなんだと言う事を理解する事が出来た。そして水島さんの事を酷く言っている理由もわかった。
(はは、わかるよ……川崎の気持ちは)
ようはあれだ。コイツのやってる事は好きな女の子にちょっかいをかけたり意地悪をしたくなるっていう、まぁよくある男子心理からきてるんだろうな。
そしてもしもその好きな女の子が他の誰かに狙われそうになったらさ、とりあえずその誰かに好きな女の子の悪口をどんどんと吹聴したくなるもんだよな。
だってその好きな女の子の駄目な所を沢山知って貰えれば、もしかしたらその女の子の事を諦めてくれるかもしんないしな。
(はは、でもさ……それは小学生のガキがやる事だぜ?)
もちろん川崎がそんな事をしてしまう気持ちは男の俺からしたら十分に理解できる。でも好きな女の子に意地悪をしたり悪口を言ったりしても良いのは小学生低学年までだ。
それ以上の年齢になっても好きな女の子に意地悪をしたり悪口を言ったりするのはただのダサい男に成り下がるから絶対にやらない方がいいぞ。
(まぁでもさ、川崎が水島さんと付き合うつもりがないって事を口に出して言うなら……俺が水島さんと付き合っても何の問題も無いって事だよな?)
本当は好きなのに水島さんの悪口ばかりを言ってしまう川崎の気持ちを汲み取って、俺は水島さんの事は狙わない……なんていう程俺は優しくはない。
(というか少し頑張ればすぐに付き合えるはずの距離感なのに、それなのに付き合おうとする努力を全然しないヤツの面倒なんて俺は見る気ないからな)
そして実際にこの二人は本当に付き合ってないのだから、付き合う努力をしない川崎の代わりに俺が水島さんを狙ったとしても何の問題もないだろ?
(よし、それじゃあまずは水島さんと仲良くなれるように頑張っていくとするかな)
という事で俺はこの日から水島さんと付き合うために日々努力していく事を決めていった。
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