第3話
真紀と葵に寄り添おうと努める理沙だったが、なかなか二人の心の扉は開かない。それでも理沙は、粘り強く二人に話しかけ続けた。放課後の教室で、休み時間の廊下で、時には昼食をともにしながら。少しずつ、真紀と葵の表情に変化が表れ始める。
「先生、この前の数学の問題なんですけど……」
「江口先生、この本おもしろいですよ。先生も読んでみません?」
真紀と葵から、少しずつ話しかけられるようになった理沙は嬉しさを隠しきれない。
そんなある日、理沙は二人を放課後の教室に呼び出した。真紀と葵が不思議そうな顔で教室に入ってくる。
「二人とも、ちょっと話があるの。先生ね、実は昔……」
理沙は、自分の過去を語り始めた。高校生の頃、理沙は母親を病気で亡くしたのだ。悲しみに暮れる理沙を支えてくれたのは、担任の先生だった。その先生の導きがあったからこそ、理沙は再び前を向いて歩き出せたのだ。
「だから私は教師になることを決意したの。あの時の先生のように、生徒の支えになりたいって」
理沙の話を聞いた真紀と葵は、驚きに目を見開いている。
「先生も、私と同じような経験を……」と真紀。
「先生にも、そんな過去があったなんて……」と葵。
二人は、理沙の胸の内を知り、これまでとは違う目で先生を見つめ始めた。
「私は母を支えることしかできないけど、先生みたいに強くなりたいです」
「父さんとの関係、もう一度考えてみようかな……」
真紀と葵の言葉に、理沙は温かな気持ちになる。自分の過去を話すことで、生徒たちとの距離が縮まったのを感じた。
「二人とも、先生はいつでも味方よ。一緒に乗り越えていきましょう」
理沙が二人の手を握ると、真紀と葵はうなずき返した。教室に差し込む夕日が、三人を優しく照らしている。生徒と教師という垣根を越えて、一つの絆で結ばれた瞬間だった。
理沙は、教師としての喜びを噛みしめた。生徒と心を通わせることの尊さを、改めて実感したのだ。窓の外には、鮮やかなオレンジ色に染まる空が広がっていた。
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