第2話

翌日、理沙は真紀と葵の家庭環境について調べることにした。教員用のパソコンで二人の生徒情報を開く。真紀の父親は数年前に亡くなり、母子家庭であること、葵は両親が離婚し、父子家庭であることが記されている。


「なるほど、二人とも家庭環境が少し複雑なのね……」


理沙は思わず呟いた。教師として、生徒の家庭についてあれこれ詮索するのは気が引けるが、真紀と葵のためを思えば、これも必要なことなのだ。


放課後、理沙は二人を別々に職員室に呼んだ。まずはやってきた真紀に、理沙は穏やかに尋ねる。


「真紀、お母さんとの関係はどう?」


真紀は一瞬戸惑った様子を見せたが、小さな声で答えた。


「母は、体が弱くて……でも、優しくて私のことを想ってくれています。でも時々、私のことを姉だと勘違いすることがあって……」


理沙は真紀の言葉に、胸が締め付けられる思いがした。病気がちな母親を、真紀は一生懸命支えているのだろう。


「そうだったのね。真紀はお母さんの支えになっているのね。でも、無理はしないでほしいの。いつでも先生に相談してね」


優しく微笑む理沙に、真紀は「はい……」と小さくうなずいた。


続いて職員室に現れた葵は、やや不機嫌そうだ。


「葵、お父さんとの関係はどうなの?」


理沙の問いかけに、葵は顔をしかめる。


「うるさいのよ、父さんは。勉強しろの、塾に行けのって。私の進路のことばかり考えてさ。私の気持ちなんて、全然わかってくれない」


葵の言葉には、父親への反発心が表れている。過干渉な父親に、葵は窮屈さを感じているのだろう。


「葵、お父さんは葵のことを想って、厳しくしているのかもしれないわ。でも、葵にも葵の考えがあるはずよね。もっとお父さんと向き合ってみたらどうかしら」


諭すように話しかける理沙に、葵は「わかったわよ……」と渋々ながら頷いた。


二人との面談を終えた理沙は、改めて生徒たちと向き合う難しさを感じずにはいられなかった。真紀と葵、二人の心の奥にある想いに寄り添うには、もっと時間をかけて関係を築いていく必要があるのだ。


「私にできることは……きっとあるはず」


理沙は静かに呟くと、二人への想いを胸に刻んだ。生徒との信頼関係を築くという、教師としての使命を果たすために。夕暮れが差し込む職員室で、理沙の瞳は静かに輝いていた。

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