第5話 補い合う
真鈴とは中学からの仲になる。
入学式の時に、黒髪ロングで瞳の大きなアイツに一目惚れした。
カッコつける余裕なんてなくて、
入学式後の下校時間に真鈴の手を引いて校舎の影に連れ込んで強引に、不器用に、キスした。
そう…とっぱじめから。
真鈴はそんな僕の頬を思い切り叩いた。
でも何故か、直後僕に同じ事をした。
唇を離すと、
『付き合うよ。今から。』と真鈴に言われ、
『はい!』と笑顔で答えた。
それが僕らの始まり。
真鈴は誰から見ても完璧だった。
でも僕だけは知っていた。本当は潔癖で、僕以外の人の持ち物とかに触れたり、本当は給食でさえも他の人が触ったもので食べたくなかったり、
後ろへ回していくプリントに触れたくなかったり、馴れ馴れしく名前で呼ばれたくなかったり、
何より、中学一年生にして完全にSだった。
そんな完全に見えて不完全な彼女が僕は愛しくてたまらなかった。
一度別れてからもずっとくっついて歩いていた。
休みの日も僕がくっついていた。
部活がある日は終わるとすぐ会いに行った。
弱小のサッカー部だった。
ドロドロになって会いに行っても、真鈴は毎回僕を思い切り抱きしめてくれた。
言葉は特別なかったが、痛いくらい伝わってきた。でも、そのうち部活で時間が作れなくなって、ある日爆発した。
顧問に直接、
『辞めます。』と伝えると、
『なんで?』と当然の如く聞かれ馬鹿正直に答えた。
『俺は、部活の時間より真鈴と帰って真鈴と勉強してた方が楽しいです。真鈴といる事が幸せです。』と。すると顧問は、
『お前らのことは知ってるけど、部活ない日とか休みの日に会えんじゃないのか?』と少し笑われた。けど僕はまた真面目な顔で答えた。
『今しか出来ない事があるんです。分かりますか?僕らは一回もSEXしてないんです。でも、それ以上に大切なことがあるって思って離れたくなくてずっとそばいるんです。なんなら別れてます。元に戻ってません。でも、あいつから離れたくないんです。だから辞めます。すみません!』
と言って僕はまた真鈴の家に走った。
『真鈴!!部活やめてきた!!これでずっと一緒にいれる!!』と言うと、
『そこまでしなくても』と苦笑いしてたが、
『俺は真鈴といる方が大事なんだ!!真鈴といたいんだよ!!』と言うと、
『わかったから。声でかい。』と怒られた。
すると、真鈴のお母さんがきて、
『なに、部活やめたの?真鈴に会いたくて?そこまで?』とお母さんも笑っていた。
『うん。俺、真鈴との時間の方が大事。一緒に勉強したりしてた方が楽しいから。』と言うと、
『私は別にいいけど、子供はまだやめてね。』と言った。
すると、真鈴が即答した。
『大丈夫。こいつ、嫌いだから。』
『え?』
『こいつ、Hが嫌いなの。したくないって。』
『またぁ。年頃なのに。』
『…本当。俺、苦手で。その、ちゃんとするのが。』
『そういう事。だから、心配いらないよ。あたしも作る気ないし。』というと、
『ならいいけど。』と言って去って行った。
不思議と真鈴の母親には好かれていた。
2回目くらいに行った時からなぜか真鈴と同じように接してくれた。
度々、ご飯をよばれることもあったが細かく好みを聞いてくれたり、苦手なものを聞いてくれたり…。本当に優しい人だった。
実は僕自身も食へのこだわりが強く、食べられるもの食べられないものが多く、それを真鈴から聞いていた。
そんな風に真鈴の家と僕の家と行き来していた。
――――――そんなある日。
僕は真鈴の家で寝ていて、起きるとパニックを起こしていた。
『真鈴…。真鈴は?…真鈴どこ…??』
まるで子供が母親を探すようにさまよっていると、部屋を出て階段から足を踏み外して落ちてしまった。
すると、真鈴とお母さんが飛んできた。
『大丈夫??』
『怪我してない?』
僕は子供の様に大声で泣いた。
この時中学2年生。
驚くお母さん。
でも真鈴は直ぐに僕を抱きしめてくれた。
『どうした?嫌な夢見た?』と聞いてきた。
『真鈴いなくて、起きたら真鈴いなくて。』
と泣きながら答えると
『ごめんね。下でママと話してたから。ごめんね。怪我は?ない?立てる?』
幸い怪我はしていなかった。
立つこともできた。
こんなことがこの後何度も起きた。
でも大体は僕が寝始めて30分ほど経つと真鈴がそばに居てくれる。
目覚めたら横にいてくれるようにしてくれるおかげでパニックにならなくて済んでいた。
でも、ある日リビングで僕が寝てしまってその間に真鈴が買い物に行くということがあった。
いつものように真鈴の部屋じゃなくて、真鈴のベットでも無いとこで寝てたのでいつもより目覚めるのが早くてやはりパニックを起こした。
でもお母さんが居てくれて僕を抱きしめてくれた。
『大丈夫。真鈴、買い物行っただけだから。すぐ帰るからね。』
暫くは『真鈴、真鈴は?ねぇ、真鈴は?…』と寝ぼけながら聞いていたが、
お母さんに包まれていつの間にかまた眠っていた。
その数分後、真鈴が戻ると僕は眠っていて、
『瀀騎、大丈夫だった?』と聞くと、
『ううん。起きたよ。真鈴探してた。でも、そのうち寝たよ。大丈夫。暴れるわけでもなく、いい子だったよ。』
『ごめんね。』
『あんたは悪くないでしょ。…でも大変ね。こんなんだと。学校でもあるんでしょ?』
『慣れた。』
『え?慣れた?』
『うん。こういう生き物だから。あたしが居ないと生きていけない生き物。そう。「犬」。ちゃんとあたしの言うこと聞ける犬。可愛いよ?こんなんでも。』
『…あんたは強いね。あたしなら無理だわ。』
『可愛くない?だって自分のこと探すんだよ?抱きしめてあげたらまた寝るし。他にこんな奴居ないよ。見た事ある?』
『まぁね…。うん。確かに可愛かった。ママが抱きしめてトントンしてあげたら寝た。小さい時のあんたみたいだった。』
『でしょ?可愛いの。だからいいの。…あんま言いたくないみたいだし聞かないけどお母さんと色々あったみたい。あんまり家に居たくないたいだし。…あたしと別れたのもそれが理由。』
『え?別れたの?いつ??』
『あぁ。ママに言ってなかったね。ごめん。去年の秋くらいかな。こいつが「家の事で迷惑かけたくないから別れる」って。「気にしない」って言ったのに聞かなくてさ。』
『そうだったんだ…。まだ付き合ってると思ってた。』
『ずっと一緒にいるからね。確かに別れてはいるけど、私も瀀騎も、離れる気は無い。ママだから言うけど、あたし、こいつ離す気ないから。めんどくさいけどねー。色々こまかいし。でもそれは私も同じ。潔癖だし。でもこいつはそれを理解してくれてる。それも大きいんだよね。』
『……うちの子にしちゃう?』
『え?…どういう事?』
『さぁ?どういう事だろうね?』
『……「結婚」してもいいってこと?』
『さぁ?この子ならうちの子でもいいかなって思っただけ。』
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