12年後
「松原さん! 企画書のチェックお願いします!」
「はーい、そこ置いておいて?」
「はい! あと、相談が少しあるんです今日の夜とかいいですか?」
「今日の夜は先約があるの、ごめんなさいね。急ぎであれば今聞くけど?」
「実はここでは話しにくくて……」
「それなら裏で話そ」
そう言って私は後輩の相談に乗り、仕事にすぐ戻ってきた。
「松原先輩、人気者ですね」
「ふざけないでよ全く」
「おー怖い怖い。ほんと、変わったよね結那」
菫が嬉しそうに微笑んでいる。
「そうかな?」
「うん。前は何も断らないイエスマンだったじゃない。今日の夜は私でも空けてもらえない用事なのですか?」
いたずらっぽい顔で菫が聞いてくる。
「はい、無理ですね」
私もいたずらっぽい顔で答える。
「たまには私にもかまってよね〜」
「わかったわかった。じゃあ、定時なので私は帰ります」
私はバタバタと帰る準備を始めた。
「ほんと、明るくなったわね……」
菫が何か言っている気がしたけれど、急いでいたのでそのまま会社を出ることにした。
別に早歩きにしたって大して着く時間が変わらないことも分かるけれど、早歩きでいつもの道を歩く。帰り道にあるケーキ屋さんに寄って二つケーキを買った。
家に帰ると片桐が出迎えてくれる。
「ただいま」
「おかえり」
今日は片桐と再開して付き合ってから十二年記念日だ。
私たちはもう四十歳になる。
高校生の時よりも、顔に皺が増え、若々しい感じでは無くなったのかもしれない。
ただ、歳を重ねて老いるその姿さえも愛おしくて、私の記憶に収めたい。
片桐にもそう思っていて欲しい。
私が初めて恋をしたのも最後まで恋をするのも片桐凪砂だけだ。
今日も伝えたい。
「凪砂、愛してるよ――」
「私も愛してるよ、結那」
片桐は優しく私を包み込んで、温かい部屋に案内してくれた。
最初も最後も片桐さん 雨野 天遊 @rainten7777
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