数日前
ここ数日知らない電話番号から何度も連絡がかかってくる。何回もかかってくるということは知り合いだろうか?
恐る恐る応答ボタンを押す。
「もしもし……」
「あっもしもし? やっと繋がった」
聞いたことのない声でやはり間違え電話だと思い、切ろうとする。
「わたし、わたし! 松原結那の友達の緑川菫だよ! 片桐さんだよね? 覚えてる?」
私は松原結那という名前を聞いて心臓が雑巾絞りされたみたいに苦しくなった。
「片桐ですけど、何か用ですか?」
「そんな冷たくしないでよ。ちょっと話したいことがあるから、会えない?」
「会えないです」
松原結那に関わる人間と関わりたくない。
「片桐さんの気持ちもわかるけど、お願いだよ! なんでも奢るから! お願い!」
そういって、緑川さんは引いてくれなさそうだった。
「はぁ……わかったよ」
「じゃあ、今片桐さんの家の近くいるから早く出てきてね」
「今!?」
そういうとすぐ切られた。
せっかくの休みの日なのに嫌なことを思い出して最悪の気分になる。
「結那……」
私が高校の頃に好きになり、今も愛している人。
彼女と結ばれることはもうないだろう。
高校の頃に振られてしまったからだ。
自分に自信がないとか色々な理由をつけられたけど、結局、私と付き合うことが無理だったんだと思う。最後に恋人として彼女と触れ合いたいその思いすら拒否られてしまったのだから……。
私は支度をして家を出ることにした。
鏡を見るとだいぶ髪が伸びたなと思った。
高校の頃は短い髪にしていたけど、もう短くする必要も無い。
『凪砂の短い髪、凄い似合っててきれい。私すごい好きだよ』
私よりも綺麗でかわいい女の子にそう言われた。過去のことをこれ以上思い出すのはやめよう。
外に出るとすぐ近くに緑川さんはほんとに居て少し怖いと思った。
「ストーカーで警察呼んでもいいですか」
「ストーカーじゃないわよ。ちゃんとした仕事。同窓会の委員なの私。だからあなたの住所も電話番号も知ってたわけ。そこの喫茶店でゆっくり話したいんだけど」
私たちは近くのこじんまりとした喫茶店に入った。
「で、要件は」
「急がない、急がない。あっすみませんー! コーヒー二つください」
目の前の女性は何故かとても楽しそうだ。
「それで本題に入るんだけど、片桐さん今度の同窓会来てよ」
急な話で驚いてしまう。
「なんで」
「まあ、隠しても無駄だから言うけど、結那が来るから」
その言葉に心臓が飛び跳ねそうになる。
「結那が来ることと私が同窓会に行くこと関係なくない」
「関係あるよ。まあ、細かいことは気にせず遊びに来なよ」
全く目の前にいる女性の意図が掴めない。
結那の親友ということは私のことも知っているはずで、なのになんで私を結那と会わせたがるのだろう。
「私は誘ったけどさ、最終的な判断は自分でしてね。ただケジメをつけるいい機会になると思うよ?」
「なんで」
「まだ、結那のこと好きって顔してるもん」
その言葉に胸がズキズキと痛んだ。
「もう十年よ。あんたも馬鹿ね。私たちは人間なんだから歳も取るし、過ぎた時間は取り戻せないのよ。そろそろちゃんと前向きなさいよ情けない。でも、今日あなたと会えてよかった」
高校が一緒だったとはいえ、話したこともない人にそんなことを言われて腹立たしく思った。
文句を言おうと思った頃には緑川さんは居なくなっていて、机には私の分と合わせたコーヒー代が置かれていた。
腹が立っているのは自分に対してだった。
この十年間、結那のことを調べて会いに行ってケジメをつけることなんていくらでも出来たのに行動に移せなかった。
緑川さんの言う通り、私の時間は十年前のあの時からずっと止まっている……
それなら、どんな思いをしても最後に結那に思いを伝えるべきだ。
彼女にはもう恋人がいて、もしかしたら結婚しているかもしれない。ただ、そうだったとしても最後にもう一度伝えたい。
結那のことが好きだ、と。
その日は一日布団にこもって無駄な時間を過ごす予定だったけど、久しぶりに隣町まで歩いて外の空気をたくさん吸って、結那との思い出をたくさん思い出す日になった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます