プロデュース・オンマイオウン
大福吉
第1話 変革の兆し
何故、俺は生きているのだろうか。
つまるところ、死ぬのが怖いだけに過ぎない。
死にたくないから生きているとも言える。
両親には申し訳ないが、生まれてこなければ苦しむことがなかったのにとすら思う。
日本という恵まれた環境に生まれたということは自覚している。
だが、それとこれとは話しが別だ。
何処から道を違えたのか。何時になったら救けてくれるのか。何故、親は、社会は、仏は神は俺に手を差し伸べてくれないのか。
いや、自分からその手を振り切ったのかもしれない。
手を差し出さなければ、掴んでくれる人はいない。
ただそれだけのことなのかもな。
結局、俺は何がしたいんだろう。
「やるゲームねえなー。小遣いはもう使い込んだから無いし、無料のやつでも探してみるか」
独り言をつぶやきながら、家でゴロゴロとスマホをいじり朝の時間をつぶす。
ふと、アイドル育成ゲームの広告に目がつく。
「現実のアイドルはヤることヤっているんだろうな。モテるし、金あるし、陽キャだし」
俺がアイドルを好きじゃない理由はそこにあるのかもしれない。
「プロデューサーも人受けが良いんだろうな。人に好かれない奴がアイドルを育てられるはずがないしな」
その時、ある考えが脳裏をよぎる。
「こんな俺でもプロデュースされたら変われるのかな」
そんなことを思ったが、頭の片隅に潜む理性が凶器のような論理で殴りかかってくる。
そんな風に自分のことを他人任せにして上手くいったことが今まであったか?
……ない。
今まで勉強も部活も学校生活も受験も日常生活も何もかもにおいて敷かれたレールの上を歩いて来た。
それで今はどうだ。
カノジョもいなければ友達もいない。勉強はサボりがちで、授業すら真面目に受けず、常に赤点ギリギリ。部活には入っておらず、コミュ力も低い。高校受験には失敗した。入れたのはボーダーフリーの自称進学校。深夜までゲームをしているせいで生活リズムは不安定で昼夜逆転気味。終始寝不足で集中力に欠ける。
レールの上を歩いていたというよりは、いつ沈んでもおかしくない泥舟に乗船していたというほうが正しい。
変わりたいなら、人に頼らず自分で変えろよ。
それができたら苦労しないが、そう思わない限りは自分の船の舵を他人に握らせたままだ。
いくら良い船でも他人の機嫌一つで簡単に沈められる。そいつが良い舵取りだったらいいが、人生というものを何百周もできるわけがなく、熟練者など一人もいない。みんな尽く人生初心者なのだ。
他人に耳を傾けるのも、他人に任せるのも自由だが、それはあくまでも自分の意志に基づいて行わなければならない。
知らんおじさんに道端で唐突に服を脱げと言われて裸になるようなものだ。知らんおばさんに無担保無利子無期限で大金を貸しているようなものだ。
そんなことはあり得ない。あり得ないことだが、そのあり得ないことをやってしまっていると等しい。
馬鹿らしい。
実に馬鹿らしい。
「俺の人生は俺が主人公だ。こんなクソみたいな物語は俺自身で書き換えてやるよ」
そう自分に言い聞かせると、胸の内に言いようもない熱さがマグマのように地下深くからこみ上がってくる。
いつの間にか瞑っていた目を開くと、スマホが映し出す時間に目が移る。昔から何か考え事をすると目を瞑ってしまう癖は変わらない。
「……もうこんな時間か。学校に行かないと」
全くもって行きたくはないが、このレールから外れる覚悟はない。行くしかない。
いや、有り難く利用させてもらおうかな。
別に、失敗しても死ぬわけではないし、失敗したとて、今よりも状況は悪くならない。
人間関係なんてもともとあってないようなものだしな。
要するに、失敗しても大したことにはならないから、安心して失敗しろということだ。
俺に対して俺が説得する構図になってしまったが、案外悪くはない。大人って奴は無意識にこんなことをしているのかな。
そんなことを考えながら身支度を整え終え、家を後にする。
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