合流
「ぐぬぬ……お、重い……!」
私の目の前には押しても全然びくともしない扉。
全体重を乗せながら強引に押すと、少しづつではあるが扉が徐々に開いていく。
「こっの!!!!」
最後の一押し。
ガチャン!
勢いよく扉が開き、体重を前に乗せていた私はそのまま転げ落ちる。
「いててて……」
擦りむいた膝から血が流れるのを見て、私は顔をしかめた。
「もう、最悪……」
零れ落ちそうになる涙をこらえて前を向く。
そして、そこには……。
「お~来た来た。おっせーぞ、一ノ瀬」
「能天気に何を。大体、先輩が捕まったりしなければこんなことにならなかったんですよ」
「いいからいいから、さっさとここ開けてくれ」
この人、絶対自分が悪いなんてこれっぽっちも思ってない。誰がどう見たって先輩のせいに決まっているのに。ホント、信じらんない!
「ごめんね、いっちー」
逆にミコトちゃんは申し訳なさそうにこちらを見ていた。
うん、そうだね。私は先輩を助けに来たわけじゃない。ミコトちゃんを助けに来たんだ。先輩はそのついで。うんん、このまま放置していったほうがいいんじゃないかな。主に私の平穏のために。
「おい、お前。今、失礼なこと考えてただろ」
「先輩を置いて、ミコトちゃんだけ助けよ」
「口に出してんじゃねぇ! ホント、失礼な後輩だな!」
「なんですか! 先輩のせいで私がどれだけ苦労させられてると思ってるんですか!」
「ちょ、ちょっと二人とも、言い争ってる場合じゃないんじゃない? 早くここから出ないと」
「そうだった。えっと、これはどうやって開けたらいいんだろう」
牢屋にはもちろん鍵がかかっていた。
そして、当然私は鍵なんか持ってない。
「でも、これ鍵ってあるのかな?」
この牢屋は南京錠のような鍵穴はなかった。
『一ノ瀬、スマホを檻に近づけてくれ』
インカムから網嶋先輩の指示が飛ぶ。
「えっと、これでいいんですか?」
その指示の意図が分からなかったが、とりあえずスマホを檻に近づけてみる。
すると、カチャっと音が鳴り、檻の扉が自動で開いていく。
「なんで!?」
『一ノ瀬のスマホを通して、牢屋の電子ロックを解除した』
「いや、いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや!!!! あり得ないですよ!?」
なんてことないように網嶋先輩は言うが、普通に考えて不可能だ。
遠隔でハッキングなんて才能どうこう以前に技術力の問題であり得ないって私でも分かる。
ましてや、この檻は私たちの世界とは違う世界で作られたもののはずだ。未知の機器相手にこうもあっさりハッキング出来るなんて、意味分からないんですが?
「よーし! やっと出れたー!!!」
天道先輩は網嶋先輩のハッキングに対して何の疑問も持っていないようだった。
ついでに、網嶋先輩は私の疑問に答えるつもりがないのか通信を切ってしまった。
まぁ、今この人たちの異常性について問いただしている時間がないのは確かだ。
聞くべきことは帰ってから聞くとしよう。
「んじゃ、あいつをぶっ飛ばしに行くか」
「はい?」
「お、俺の夜桜じゃん。ありがとな」
天道先輩は私が持ってきた木刀を見ると嬉しそうにかっさらっていった。
「じゃなくて! そんな木刀はどうでもいいんです! それよりも誰をぶっ飛ばすって!?」
「誰って、決まってんだろ。あのスーツを着たノッポ野郎だよ」
天道先輩が指していた人物は今回の事件の黒幕であるヤナギさんだった。
「ぶっ飛ばすって……先輩は今の状況分かってます!?」
「分かってる。――だから、ぶっ飛ばすんだろうが」
天道先輩の放った言葉に私は何も言えなかった。
だって、今の天道先輩にはいつものようなおちゃらけた雰囲気はなかったから。
静かに、けれど確かな怒りがその瞳に灯っていた。
「一ノ瀬、あいつの場所分かるか?」
「……えっと、マップには一応載ってるけど」
他の敵兵はオレンジの点で表示されているが、ヤナギさんだけはこれ見よがしに赤い点で記されていた。
多分、天道先輩の行動を読んで網嶋先輩が事前に分かりやすく表示させていたのだろう。
「はるとん、どうして? どうして、はるとんが戦うの?」
ミコトちゃんは不安げに天道先輩を見つめる。
手は震え、今にも泣きだしそうな表情で彼女は天道先輩に問う。
「ムカつくから」
「え?」
天道先輩の答えはシンプルだった。
それ以外に何があるんだと言わんばかりの物言いだった。
「一ノ瀬、さっさと案内しろ」
多分、今の天道先輩に何を言っても自分の言葉を曲げないだろう。
だから、私は仕方なく先輩を案内することにした。
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