作戦会議

「とにかくじゃ、ミコトたちのことはわらわに任せるのじゃ」

「任せるって、神の力は使えないんだろ? どうやるんだよ」

「その為の神子じゃ。ヤナギは他の神子たちに追わせる」

「それは無理かもしれないね」


 網嶋先輩は首を横に振った。


「他の神子がどこにいるか。把握しているかい?」

「いや、場所の把握は出来ていないが、それが何だというのじゃ?」

「さっきも言った通り、今この屋敷に僕たち以外誰もいない。その意味が分かる?」

「あ、そっか。ミコトちゃんたちのところに行ってもらおうにも、どこにいるか分からないから頼めないってことですね」

「まぁ、それもそうだが、それ以前の話さ。問題なのは、どうして誰一人ここにいないのかってことだよ」

「何が言いたいのじゃ?」


 もったいつけて結論をなかなか言わない網嶋先輩に対して、イザナミ様は少し苛立っていた。


「何故いないのか。この場合考えられる可能性は二つ。一つは裏切ってヤナギの元についていった。もう一つが、もう既にヤナギの手によって倒されている」

「なっ! どちらもあり得ん!」


 自分の神子を信じているイザナミ様にとっては信じられない話だった。


「あくまでこれは最悪の可能性さ。絶対にそうだとは言い切れない。だけど、僕たちは味方に神子は誰一人としていないという想定で動いた方がいい」

「え? でも、それって……」


 網嶋先輩のその言い方だと、今ミコトちゃんたちを助けに行くことが出来るのは……。


「今ここにいる僕たちだけで何とかするしかない」

「それは無謀じゃ!」


 イザナミ様は怒鳴り声を上げた。


「相手の戦力が分からぬのじゃぞ? たった四人で何とか出来るはずが無かろう!」

「戦力は分かっている。武装した人間が三十人程度、ヤナギを含めてね。彼らが全員神子かどうかの判断は僕には出来ないけど。ちなみに場所は渋谷ストリームの屋上、いや、今すぐにでも飛び立とうとしている」

「どうして分かるんですか?」

「言っただろ? カメラに写っているものならどこにあるものであろうが、見ることが出来るって」


 凄すぎてどういう反応をしたらいいのか分からない。と言うか、この人、頼もしすぎる。


「じゃから、お主たちだけでは無理だ」

「どうして?」

「相手は三十人もおるのじゃぞ? たった四人で何が出来る」

「たった三十人程度なら、アタシ一人で十分だけど?」


 確かに、朱鷺坂先輩なら一人でイケなくもない気がする……


「も、もしそうだとしてもじゃ。ヤナギがおるのじゃぞ? 相手は神子じゃ。神子相手にただの一般人が勝てる訳なかろう」

「紗月はただの一般人じゃないし大丈夫だろ。それに神子とかと戦ったことあるし。全然余裕だったぞ」


 失礼かもしれないけど、和泉先輩の言葉に私は同意。あの人をただの一般人のくくりには入れてはいけない気がする。

 それに実際に50人くらいいた神子相手に勝ってるし。


「それは神子でも神秘を持っておらんかったから勝てただけじゃ」

「神秘?」

「なにそれ?」

「また、新しい概念出てくんのかよ」

「神秘とは神性を持った神子が稀に獲得する異能のことじゃ。わらわの神子で神秘を持っておるのはヤナギだけじゃ。じゃから、他の者には勝ててもヤナギには勝っておらぬだろう?」

「って言っても、どのみち神の使いっパシリには変わりないだろ? こいつは魔王だぞ? 悪魔の王。神の手下なんて相手にならないって」

「僕は天災だと思ってたけど」

「え? 私はてっきり死神かと……」

「お前ら好き勝手言ってくれるな。後で覚えてろよ」

「「「…………」」」


 朱鷺坂先輩にすごまれ、私たちは目をさらして口を閉じた。


「まぁ、何にしてもだ……」


 朱鷺坂先輩は長い髪を一纏めにし、ヘアゴムでとめてポニーテールにする。そして、和泉先輩の元に近づく。


「あんたが出来る出来ないって言うのは別に構わねぇよ。好きに言ってもらっていい。だがな……」


 和泉先輩から木刀を奪い取り、イザナミ様にそれを向けた。


「遥翔になんかあったら、アタシがあんたを殺す」

「……っ!」


 その緊迫した雰囲気に、その殺気に私とイザナミ様は息を呑み、冷や汗をかいた。けれど、網嶋先輩と和泉先輩はそれに対して慣れているのか、いつもと変わらない自然体だった。


「……分かったのじゃ」


 イザナミ様はその気迫に負けて、朱鷺坂先輩の言う通りにすることに決めたのだった。


「行くのはアタシ一人でいいよな」

「いや、一ノ瀬も連れて行ってくれ」

「なんで!?」

「それと、これも渡しておこう」


 私を無視して網嶋先輩は懐から何かを取り出した。

 それは網嶋先輩の手から離れると勝手に飛んでいき朱鷺坂先輩の肩に止まった。


「これは?」

「小型のカメラを搭載したドローンだ。蚊ぐらいのサイズだから見つかりづらいし、使い勝手がいい。これで、紗月の状況はこちらでモニターできる。遥翔の場所はこちらで把握するから、道案内は一ノ瀬の指示に従ってくれ」

「はいよ」

「いや、待って! 私が道案内!? 何の話!? 船の内部構造とか知らないんだけど!?」

「これからあの船が異世界に行かないようにハッキングを仕掛ける。その際に、ついでに内部の構造マップを取得しておく。それを元に最適なルートを見つけてくれ」

「だから、なんで私!?」

「リアルタイムで変わる戦況に対応できるのは、一ノ瀬の得意分野だろう?」

「やだやだやだ! あんな危険なところに行きたくない!!!!」

「ごちゃごちゃ言うな。ほら、さっさと行くぞ」


 不満を垂れる私の首根っこを掴んで大広間の外に連れ出そうとする。


「じゃ、俺様は何をすればいいんだ?」

「ああ、篤史には――」


 そんな会話が少しだけ聞こえたが、私は朱鷺坂先輩に地上へと連れてかれた。

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