消息不明
「……イザナミ様」
突然倒れたイザナミ様を私は介抱していた。
とは言え、倒れた原因も分からない為、布団を敷いて寝かせることしか出来ることはなかった。
しかも、ここには私たちしかいないため、どうしたらいいのかもわからない。
「様子はどうだ?」
「あ、朱鷺坂先輩。ダメそうです、なんだかずっと苦しそうで……。朱鷺坂先輩の方は?」
「誰もいねぇ。どうなってんだ? 最初にここに来たときは、何人か見かけたのに」
朱鷺坂先輩はイザナミ様が倒れたことを神子の人たちに伝えに言ったのだが、どうやら今この屋敷には私たち以外誰もいない様だった。
「ヤナギさんは?」
「いや、いねぇ。それに遥翔もミコトの姿も見なかった」
「どこに行ったんだろう。和泉先輩は?」
「あいつはまだ探してる。なぁ、凪ならイザナミの状態分かったりしねぇのか?」
「無理だね。機械ならともかく、人体は専門外だ。しかも、神とくればなおさら」
「凪に分かんねぇんじゃ、アタシたちじゃもっと分かんねぇな。……おい、イザナミの左手何かおかしくねぇか?」
朱鷺坂先輩に言われ、包帯の巻かれていたイザナミ様の左手を見ると、真っ黒に染まっていた。
「え? なにこれ……?」
禍々しさを感じる左手。それが気になって触ろうとした時だった。
「さ、触るなっ!」
イザナミ様が振り絞った叫び声を上げた。
「! イザナミ様、意識が……」
「はぁはぁ……、大きい声を出して、すまぬ。だが、この左手には、いやわらわの体にはもう触らぬ方がよい」
起き上がる体力もないのか寝たきりのまま、イザナミ様は視線だけこちらに向けていた。
「すまぬが、そこに入っている薬を取ってもらえぬか?」
イザナミ様はかろうじて動く右手で部屋の隅にある戸棚を指差した。
私はすぐに戸棚の引き出しを片っ端から開けて、薬らしきものを探す。
「あ、これですか?」
それっぽい袋に入っている薬を見つけ、イザナミ様の元に持っていく。
「ああ、それじゃ」
イザナミ様は私から受け取った薬を飲んだ。
「ふう~……」
薬のおかげなのかイザナミ様はだいぶ楽そうになっていた。
「あのイザナミ様、その左手は一体……?」
「その説明は後じゃ。それよりも、ヤナギのやつはおらぬのか?」
「あ、その、ヤナギさんも他の神子の人たちもいないみたいで……」
「なんじゃと……?」
神子の人たちがいないことはイザナミ様にとっても想定外のことらしく驚いた顔をしていた。
「ミコトのやつは?」
「ミコトちゃんの姿もないみたいです」
「何がどうなっておるのじゃ?」
「おい! 大変だ! これを見てくれ!」
困惑の空気に包まれていたその場を荒らすように、和泉先輩が慌てて大広間に入ってきた。
「どうしたんですか?」
「これだよ、これ」
和泉先輩がそう言って見せつけて来たのは、一本の木刀だった。
「こりゃ、遥翔の木刀じゃねぇか」
「そうだ、廊下に落ちてるのを見つけたんだ」
戸惑いの表情を見せる和泉先輩と朱鷺坂先輩。
「あの、それってただ天道先輩が落としただけなんじゃ。あの人鈍いから落としても気づかなさそうですし」
「いや、それはないよ」
真剣な表情でパソコンを高速で叩いている網嶋先輩は私の言葉を否定した。
「あの遥翔がその木刀を落とすはずがない。ましてや、それに気づかないなんてことはもっとない」
「ああ、そうだな。人に触られるのも嫌がるほどのもんだ。それが落ちていて、遥翔の姿が見えねぇとなると」
「これはまずいかもしれないね」
「凪、場所の特定!」
「もうやってるよ」
長年の付き合いからか、具体的なことを言わなくともとんとん拍子で話が進んでいく。その様子を私は茫然と見ているしか出来なかった。
「イザナミ、確認したいことがある」
「な、なんじゃ」
網嶋先輩は手を止めて、イザナミ様に声をかけた。
「僕たちにミコトを探すように指示した後、ヤナギと言う男に僕たちの後をつけるように命令したな」
「何故それを……?」
「その反応からするに、あれは盗聴されているのに気づいていなかったみたいだね」
と、盗聴って網嶋先輩いつの間にそんなことを……?
網嶋先輩は再びパソコンを高速で叩き始めた。
「恐らく、遥翔たちは渋谷にいる」
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