異世界観光
「な、なんか違和感が……」
初めてブラをつけたミコトちゃんはムズムズしていた。
「いや~、異世界っていいもんだな~」
朱鷺坂先輩はニマニマと満足げな顔をしていた。
別に異世界じゃなくても買えますけどね。
って言うか、お金使えないの忘れてた。普通にミコトちゃんに払ってもらっちゃった。
「で、何でお前も買ってんだ?」
「ほ、ほっといてください!」
天道先輩は目ざとく私が持っている袋を見てツッコんできた。
「エロいやつか」
「見んな!」
袋を覗き込もうとしていた天道先輩の顔面にグーパンを食らわした。
「んが!」
天道先輩はのけぞり、鼻を抑えた。
「それより、今度こそは服を見に行くんですよね? ほらほら、行きますよ」
これ以上、詮索されても面倒なので、勢いで誤魔化す。
「え? 服に興味ないけど」
「は? 何ってるんですか? 先輩が服みたいって言ったから来たんですよ?」
「いや、普通に下着の店に入りたかっただけだぞ」
「…………」
「一ノ瀬、言いたいことも分かるが、そんな泣きそうな目でこっち見んな」
体をプルプル震わせながら天道先輩を指さす私を朱鷺坂先輩は冷たく突き放した。
「行く場所決まってないなら、これからあーしに付き合ってよ」
「いいぞ」
そして、私たちはこれからミコトちゃんに色々と連れまわされた。
――ボウリング場。
「見ろ! 必殺バックショット!」
「技名叫んでもガターは回避、出来ていませんよ」
「未熟だぞ、遥翔。ボウリングとはこうやるんだ。トルネードスピン!」
「あ~あ、和泉先輩も変な回転かけるからガターじゃないですか」
「…………っ!」
「ミコトちゃんすご。綺麗なストライク。後、集中力ヤバ。ガチじゃん」
「おらぁ!」
「朱鷺坂先輩はなんでオーバースローで投げてるんですか!? 野球じゃないんですよ!」
「ストライクとればいいんだろ?」
「だから、野球じゃないんですって!」
「……うん、出来た」
「出来たじゃないです。網嶋先輩は何やってるんですか」
「スコアの改ざん」
「そう言う機能があるのは知ってます。なので、それ自体には文句ないです。でもなんで私のスコアと天道先輩のスコアを入れ替えるんですか!」
「遥翔が一ノ瀬よりいい点にしてくれと頼んできたから」
「このイエスマンが! 天道先輩の言うこと何でもかんでも聞きすぎです!」
――タワレコ。
「あ、これいっちーが好きなアニメのアルバムじゃん?」
「そう! これ最高なんだよ! 歌詞の原作理解度高すぎてむしろ本編まである。しかも、このアルバムの曲順がマジエモくて、あ、アニメ全話見た? じゃないとネタバレになっちゃうんだけど、見てないならアニメ見た後にこの曲順見てみて、マジヤバいから。考察系のサイト見るのもいいかも、大体ほとんどの人が解釈一致してるし、それでも新しい視点とかあったりしてそう言うのに気付いた時が人生の最高潮って言うか、生きててよかったって感じで…………あ」
「ふ~ん、そんなに良いなら、あーしも買おうかな」
「クソオタク語りしてしまったのに、引かないなんて……。みこたんマジ天使。ギャルしか勝たん」
「お客様、困ります! レコーダーを解体しないでください!」
「なんか向こうの方、騒がしくない?」
「ほっとこ。あれは知らない人たちだから」
――渋谷スカイ 展望デッキ。
「たっかーーーい!」
「ここいいでしょ。あーしのお気に入り。年パス入ってる」
「へぇ、ここ年間パスポートとかあるんだ」
「ふはははは、この地は我のものだ」
「あ、ずりぃ。遥翔、その端っこの場所変われ」
「おい、篤史。遥翔の写真撮ってんだから、横から入ってくるな」
「風は強いがこのハンモックはいい。作業が捗る」
「中身子供の先輩たちも気に入ったぽいね」
――ラーメン屋
「う、うめぇ……。これが異世界の料理か!?」
「いや、これなら私たちの世界にもありましたよ」
「蒼、お前はさぁ、旅行先でお見上げ買おうとしたときに、『これなら通販で買えますよ』とか言っちゃうタイプか?」
「どういう意味です?」
「こういうのはどこで食べたかが重要なんだろうが!」
「えぇ~、そんな怒鳴ることですか?」
「こっち替え玉お願いしまーす」
「紗月、それで七個目」
「さっつん、すごい食べるね……」
――ゲームセンター
「おい、これやろうぜ。ゾンビ倒すやつ」
「私、コインゲームのほうがいいんですけど」
「あーし、これ得意だよ? プロってるよ?」
「オラぁ!!!」
「うお! お前が殴ったら、パンチングマシーンが壊れるぞ」
「んなことしねぇよ。手加減はした」
「壊せないとは言わないんだね」
「あの、網嶋先輩? なにしてるんですか?」
「見てわからないのか?」
「筐体を分解してるように見えるんですが、気のせいですよね?」
「異世界の機械構造はどうなっているのか気になってね。この基盤、どう思う?」
「ストップストップ! なんで中身取り出してるんですか! 店員さんがすごい形相でやって来たんですけど!?」
「はぁはぁ……網嶋先輩のせいでひどい目にあった……」
店員に追われ、渋谷中を逃げ回ってようやく振り切れた。
「だはははははっ!! めっちゃ怒ってたな」
天道先輩がお腹を抱えて笑い転げていた。
「笑い事じゃないんですが? 後、網嶋先輩はところかまわず、分解しないでください!」
「怒られたら新しいの買えばいいだけだ」
と、悪びれた様子もなくそう反論してきた。
この金持ちめ!
「んで、次はどこ行くんだ? アタシは丼ものが食いてぇんだが」
さっきラーメン食べたばかりでしょうが。この人の胃袋どうなってるの? カー〇ィ?
「そしたら、次は……」
「ミコト様!」
ミコトちゃんの言葉を遮って叫ぶ声が後ろから聞こえた。
後ろを振り向くと見覚えのある顔の少年がこちらに駆け寄ってきた。
「あ、サイくんじゃん」
「姿が全く異なっていて最初は分かりませんでしたが、やっと見つけました。早くお戻りください! イザナミ様が心配しています」
私たちの元にやって来たのはイザナミ様の部下であるサイトだった。
「嫌に決まってるしょ。何度も言ってるじゃん。あーしは帰らない」
「あーしに神になれとか言わなかったら、帰ってあげてもいいけど?」
「そ、れは……」
ミコトちゃんの言葉にサイトは困ったように言い淀む。
「では、今回も無理やり連れて帰るとします」
「へ?」
いつの間にかミコトちゃんの背後に立っていたのは長身の男、ヤナギだった。
ヤナギは無理やりミコトちゃんを掴んで、肩に担ぐ。
「ちょ! なにするの! はーなーしーてー!!!」
捕まったミコトちゃんはバタバタと暴れまわる。
しかし、そんな抵抗も虚しくヤナギに気にした様子はない。
この状況はかなりまずいんじゃなかろか。
ミコトちゃんを見つけたのに報告もせず遊び歩いていたんだから、怒られても仕方ない。
というか、怒られるだけで済むのかな。魂とか、取られたり? え? さすがにないよね? ないって信じたい!
「いやぁ~、ちょうどさっきこいつ見つけたところでよう。今、報告しようと思ってたんだよ。ホントだぜ?」
「ひどい!」
当たり前のように天道先輩はミコトちゃんを裏切った。言い逃れする気だ。
ミコトちゃんはショックを受けて涙目になってるし。
でも、ごめん。今回ばかりは天道先輩のほうにつく。だって、お仕置きとかされたくないもん。
「はい、ミコト様を見つけていただいて、ありがとうございます。主がお礼としたいとのことなので、一緒に来ていただけますか?」
「え~、お礼~? いいのか~?」
そんなことを言いながらも、天道先輩はそのお礼に期待してニヤニヤしていた。
お礼が私たちにとっていいものなのか分からないが、貰えるものなら貰っておこうの精神で私たちはそのままイザナミのいる空の上へと向かった。
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