黒ギャルさんの正体
「ふ~、歌った歌った~」
私はコップを片手にドリンクバーに向かいながらスキップしていた。
「随分と上機嫌だな」
「あ、朱鷺坂先輩!」
うわ~、どうしよう。今の見られてた?
ドリンクバーの前で朱鷺坂先輩と出会ってしまった。
ちょっと今、鼻歌歌ってたし、なんかちょっとはずい……。
「初めて友達が出来た子供みたいだったぞ」
「な! は、初めてだなんて失礼な! 私にだって友達の1人や2人や3人や4人や5人や……」
「いなかったんだな」
「え!? あ、いや! 今の間はちょっとあれだったんです! 何と言うか、その……」
「今更隠さなくても知っているぞ。アンタがぼっちなの」
「うぐっ」
た、確かに私はボッチだけど、大学でボッチなのはほとんどこの人たちのせいなんだけど……。
「彼女とは仲良くできそうか?」
「それはもちろんです! 私が今まで見てきた人の中でみこたんほどいい人を見たことがありません! 出来ることなら、と、友達になってみたいなと思っていたり、いなかったり……」
「なんだ、アンタの中じゃ、まだ友達じゃなかったんだな」
「その辺はそのちょっと複雑な事情があるんです……」
ボッチにとって友達とは特別なもので、例え仲が良くでも素直にその人のことを友達とは呼べないんです。
あの子と仲いいね、友達? って聞かれても知り合いって答えちゃうんです。そういう人間なんです私たちって。
「ま、なんでもいいけどよ。あいつのことまだみこたんなんて呼び方してんだな」
「別に呼びたくて呼んでるわけじゃないですよ。でも、彼女はみこたんとしか言ってなくて、本名知らないし……」
「あ? 知らない? まさかと思うが、まだ気が付いてないのか?」
「へ? 何のことですか?」
「何のことって、これだよ」
そう言って、朱鷺坂先輩が差し出してきたのは一枚の写真。
「これって、イザナミ様の娘のミコトちゃんですよね? それが何か関係あるんですか?」
「はぁ~、こりゃやっぱ、全く気が付いてなかったみたいだな」
…………………あ。
少し考えて朱鷺坂先輩の言いたいことが分かった。
「もしかして、みこたんがミコトちゃんって言いたいんですか? 確かに名前は似てますが、見た目は全然違うじゃないですか。みこたんは化粧バリバリの金髪黒ギャルで、ミコトちゃんは黒髪で清楚な和服に身を包んだ大和撫子ですよ? 似てるところなんて皆無じゃないですか」
「ま、ぱっと見は分からないよな。けど、そのみこたんの化粧が一般的とは違うんだよ」
「そりゃまぁ、黒ギャルですからね、一般的な化粧とは全然違うと思いますけど」
「いや、そういうことじゃねぇ。化粧をする目的が違うって言ってんだ」
「?」
「化粧ってのは他人に良く見られようとするためにするものだろう? けど、彼女の化粧はどこか、他の人に自分だと分からないように……そうだな。変装? みたいな感じで化粧をしてんだよ」
「朱鷺坂先輩がその違いに気づけることは一旦置いておきましょう」
深堀しても私じゃついていけない話だと思うから。
「もし、朱鷺坂先輩の言うことが本当だったとしても、みこたん=ミコトちゃんになる証拠ってあるんですか?」
「あるよ。化粧で顔を変えるには限界がある。顔の骨格までは変えられないからな。顔の輪郭、鼻の形、顎、目と口の位置などを総合的に合わせて、彼女がミコトだと判断した」
「いや、あの、シレっと言いましたけど、2つの顔を見て、そんなのが同じって断言できるってどんな眼してるんですか。てか、それ証拠になるんですか?」
「本人に聞いたら素直に肯定したぞ」
「あ、直でもう確認済みなんですね。それにしてもよく認めましたね」
家出してるって言うから、適当に誤魔化すのかと思ってた。
「親にバラされたくなかったら、正直に答えろって言ったら教えてくれた」
「脅してるじゃないですか!?」
「それと言いふらさないことを条件にカラオケも奢ってもらってる」
「くそ野郎ですね!!!!」
彼女がなんでカラオケ代払ってくれたのか分からなかったけど、朱鷺坂先輩のせいだったんだ。
どうりでおかしいと思った。
「とにかく、見つかったなら早くイザナミ様のところに連れていかないと」
「それはダメだ。黙ってるって約束したからな」
「そこは律儀なんですね!」
女の子脅して財布代わりにしてる時点で、好感度は上がらないですけど。
「それにイザナミって神が言う通りに、あの子を連れ戻しても意味があんのかって話だ」
「意味、ですか?」
「アタシたちが言われるがままに連れ帰ったところで、あの子はまた家出すんだろ。だったら、無理やり連れていくんじゃなく、あの子の足で帰るようにした方がいい。家出するってことはそれなりの理由があんだろ。興味本位ってだけじゃそう何度も家出なんかしねぇだろ。それに――」
朱鷺坂先輩は少し間をおいてから再び口を開いた。
「帰りたくない場所ってのもあるもんだ」
「は、はぁ……」
「あ? なんだ、そのマヌケ面は」
「い、いや、そのなんかすごくまともと言うか、真面目なことを言っていたので、その……」
「はぁ? アタシが真面目なこと言うのがそんなに意外か?」
「あ、いや、そのえっと、そのなんて言うか……」
「アタシのことなんだと思ってたんだよ」
「人の心を捨てた鬼かと……あ」
しまった! 余計なことを言ってしまった。
私は慌てて両手で口を覆う。
これは絶対に怒られる。
ボコボコに殴られると思った私は反射的に目を閉じたが、一向に殴ってるくる気配がなかった。
「そこは、まぁ自覚してるからいいけどよ」
意外にも朱鷺坂先輩は私の言葉を肯定し、怒鳴ったりはしなかった。
「実際にアタシは喧嘩好きだし、昔っから気に食わないやつは拳で黙らせてきたからな。それに目つきも悪いし、金髪だからそう思われても仕方ないしな」
朱鷺坂先輩は特に気にした素振りもなく、事も無げにそう言った。
だけど、このまま会話を終わらせたら、私が嫌なこと言っただけで終わってしまう。絶対家に帰った後、寝る前にこの会話思い出してひたすら後悔するんだぁ。
とりあえずなんとかフォローしておかなければ。
「で、でもですよ。確かに意外でしたが、歌ってる朱鷺坂先輩の方がもっと意外でしたよ」
「ん? そうか?」
「はい、もっとロックな歌を選曲するイメージでしたけど、結構その、恋愛系と言うか、乙女的なのが多かったですよね。後、その歌声がなんて言うか、すごく可愛かったです」
朱鷺坂先輩の歌声は滅茶苦茶萌え声でとても可愛らしかった。しかも、無理やりに出しているわけではないので、あざとい感じもせず、歌自体も上手かったのでとても聞きやすかった。
「いや、別にアタシはロックの方が好きだぞ」
「え? じゃあ、なんで?」
「遥翔があの歌手の声が好きって言ってたから」
「……あー、えっと」
「あの歌手の曲、ムズイから新曲出るたびに30時間は練習しなきゃだから大変なんだぞ」
「……それってぇー、天道先輩に頼まれたりとか?」
「アタシが勝手にやってるだけだ。いつでも遥翔にカラオケ誘われてもいいようにな」
「ソウナンデスネ」
なんか肌がべたつく感じあるけど、梅雨の時期だからだよね。
あー今日は湿度たっけぇなぁ。
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