オタクに優しいギャル
というわけで、先輩たちに聞き出したその場所の前まで来た。
そこは駅前にあるありふれたカラオケボックスだった。
「てか、カラオケボックスで何してるんですか!? 人探しは?!」
指定された部屋に入った瞬間、私はそうまくしたてた。
「暑い」
「疲れた」
「飽きた」
「一ノ瀬に任せればいいやと思った」
「て、おい! 誰ですか。最後言ったの!? 私に丸投げする気満々じゃないですか!?」
いやまぁ、そんなこったろうとは思ってましたよ! ましたが!
今はそのことは置いておこう。
それよりも、ここに来て新たな問題を発見してしまった。
「あなた、誰ですか!!!!!???!?!?!?」
マイクを持って美声で歌っている少女。
明らかに私の知っている人物ではない。恐らく先輩たちが見つけた現地人だろうけど。
チョイスがちょっとあれなんですが……。
セーラー服に黒い肌。金色の長い髪にウェイブがかかっており、化粧はドゲツい。
……ってあれ待って。この人って確か……。
「どもども、さっきぶり~」
「え、あ、はい、どうも……ん? さっき?」
………………あ!!!
そこで私は思い出した。
この世界に来てすぐにこんなテンプレ黒ギャルを見たことを。
「あーしのことはみこたんでよろ」
「み、みこたん……?」
それはあだ名か何かですか?
自分のあだ名を自分で言うとか痛々しすぎるんですけど?
というか……。
「なんでこの人と一緒にいるんですか?」
私は天道先輩の裾を引っ張り、彼女に聞こえない声で囁いた。
「なんでって、そりゃお前、あれだよ。俺たち金ねぇじゃん?」
「ええ、まぁそうですね」
この世界と私たちの世界の貨幣は全く一緒だった。
けど、私たちが勝手に持ち込んだお金はこの世界のこの日本で発行されたものでないため、偽札扱いされてしまう恐れがあるため、この世界では私たちのお金は使わないようにしていた。
「でも、カラオケ入るには金いるじゃん? だから」
「……は、え? だから? だから何ですか? 連れてきたんですか?」
「そうだ」
えっと、つまり、ここのカラオケ代は全部彼女に払ってもらおうとかそういう魂胆ってこと?
「最低ですね!? いいんですか!? 彼女は了承したんですか!?」
「おう、ちょうど暇してたから、いいって言ってたぞ」
暇とかそういう問題じゃないと思うんですけど。初めて会った人にいきなりカラオケ代奢ってくれって言われて気前よくお金出してくれるギャルとか存在するんですか?
ギャルってもっとこう男に金をせびる生き物じゃないんですか?
「どしたの? いっちーも歌わないの?」
「ん? いっちーって? もしかしなくても私のこと?」
「だって、一ノ瀬っしょ? だから、いっちー」
「あー……」
いっちー呼びにも引っかかっているんだけど、
「なんで私の名前知ってるの?」
「はるとんから聞いたに決まってるっしょ」
「は、はるとん……?」
もしかして、天道先輩のあだ名? 分かりづら。
「ほらほら、後から来た人優先。いっちーは何の曲歌うの?」
「えーっと、私は……」
みこたんからデンモクを渡され、いつものように持ち歌を検索して予約する。
「……はっ! つい無意識で入れてしまった!」
しかも、よりにもよってマイナーなボカロ曲。
隣にはテンプレのような黒ギャル。
絶対、バカにされる!?
「あ、この人知ってる! マルPでしょ? あーしもこの人の曲好き!」
え……?
「マルコボーロPを知っているの……?」
「もちもち。この前もアニメのop作ってたよね」
「う……うぅ……」
「ふぇ? どしたん? 急に泣き出して」
「う、ううん、なんでもないの……」
そっか、いたんだ。
幻想だと思ってた。
フィクションの世界にしかいないと思ってた。
でも、いた。
確かにここにいたんだ。
オタクに理解あるギャルが。
「ガチ泣きウケる。よし、今のうちにこの顔撮って」
「任せろ。グルチャのアイコンにしとくわ」
天道先輩と和泉先輩が悪ふざけで私の顔をパシャパシャ撮っているけど、今はそんなことどうでもいいくらいに気分がいい。
「あ、あの、この曲とか一緒にデュエットしてくれたりは……」
「いいよいいよ。みんなで来てるんだし、一緒に歌った方が楽しいしょ」
ふわぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー、神。
勇気を振り絞って頼んでみてよかった。
わぁ~ドキドキする。デュエットとか人生初だよ!!
カラオケとか一人で行くような場所だと思ってたのに!
やっぱギャル最高だなぁ!!!!!!!
何か忘れてるような気がするけど、ま、いっか。
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