神の子探し
「手分けしてか?」
「そうです」
天界から戻ってきてさっそく神の子であるミコトを探そうと走り出した時、私は先輩たちを引き留め、そう提案した。
「わざわざ、全員で一緒に動く必要もないですし、手分けした方が効率的だと思うんです」
「うん、まぁ、確かにその通りではあるな」
異世界と言ってもここは私たちがいた世界の渋谷と何ら変わりない。迷子になることはないだろう。
けれど、朱鷺坂先輩は首を横に振った。
「手分けするっつっても、連絡手段がねぇだろ。異世界なんだから、スマホは使えねぇだろ」
「え? でも、さっき網嶋先輩、パソコンをネットに繋いでませんでした?」
「あれは僕だから出来ただけで、スマホは使えないよ」
「あ、ホントだ」
私はポケットからスマホを取り出して、使えないことを確認する。
「ん? それじゃあ、さっきネットに繋がってたのは?」
「だから、それは僕だから出来たことで、君たちじゃ無理だよ」
「? 説明になってませんが」
私のツッコミに対し網嶋先輩は何も答えず他の先輩たちも特に疑問に思っていないようだった。
え? なに? 私がおかしいの?
と、腑に落ちず不満げな顔をしていると、急に天道先輩が大きな声を上げた。
「そんなことよりもだ、一ノ瀬!」
「な、何ですか、急に」
「今、スマホをどこから取り出した?」
「どこって、ズボンのポケットからですけど……」
「どうして、胸から取り出さないんだ!? その胸は飾りか!?」
「ちょ! 何言ってるんですか!?」
「そうだそうだ! せっかくの巨乳が泣いてるぞ!」
天道先輩に同調するように和泉先輩は声を張り上げた。
この人たちは何言ってるんですか!?
胸の谷間に物を収納するなんてフィクションの世界の話ですって!
「お前は自分がどれほど素晴らしいものを持っているのか、その自覚はあるのか?」
「す、素晴らしいって、べ、別にこれはそんな誇るようなものでは……」
私は顔を真っ赤にしながら自分の胸元を必死で隠そうとするが、それは逆に胸を強調してしまった。
「誇れるものではないだと……!」
「おいおい、マジかよ。こいつ、本気で言っているのか……!」
バカ二人は驚きのあまりお互いの顔を見合わせた。
「お前……、よく紗月の前でそんなことを言えるな。よく見ろ、この荒野を! これを見てもまだお前は自分の胸が誇れないとでも言うつもりか!」
和泉先輩のその言葉に天道先輩は涙を流しながら、うんうんと首を縦に振った。
その刹那だった。今の今まで目の前にいたはずの和泉先輩の姿が消えていた。そして、代わりに強く握りしめられた朱鷺坂先輩の拳があった。
「ぺんぺん草くらい生えてるわ!」
少し視線を先に向けるとそこには、意識を失い倒れている和泉先輩の姿があった。
「アンタも何か言いたげだったなぁ、遥翔ぉ?」
「いいえ! 何もありません!」
天道先輩は涙目になりながら、全力で否定した。
「そうか、そうか。なんでもないか……、んな訳ねぇだろ!」
「がはっ!」
後ろから背中を思いっきり殴られ天道先輩はエビぞりになりながら、倒れた。
いや、あれ背骨折れてません……?
「んで? 今度はアンタだ」
天道先輩をのした後、朱鷺坂先輩の標的は私へと切り替わっていた。
「え、ちょ、なんで、私まで!?」
「アンタ、さっき誇らしくないって言ってたなぁ? それだけの胸しといてよぉ!」
朱鷺坂先輩は遠慮なく私の胸を鷲掴んだ。
「い、痛い、痛いです! 痛いですって、朱鷺坂先輩!」
「これで誇らしくないなら、アタシは何だ? 生きる資格すらないってことか? ああん?」
「い、いえ、そんなことないです……。わ、私はこの胸を誇らしく思います……」
「自慢してんじゃねぇよ!」
「どうしろと!?」
どの選択肢を選んでもバッドエンドであることを悟った私は、朱鷺坂先輩に締め上げられながらツッコミを入れた。
「きゃあああああああああああ!」
そして、それが引き金になったのかこの後、私はとんでもない目にあった。
そうとんでもない目に…………。
「「「スミマセンデシタ」」」
朱鷺坂先輩にこってりと絞られた後、私たちは地べたに正座して土下座した。
どうして、私まで……。地雷投げつけられた気分なんだけど。
「それで、気は済んだかい? そろそろさっきの話の続きをしたいんだけど?」
成り行きを黙って見守っていた網嶋先輩は、少し落ち着いてきた朱鷺坂先輩に訊ねた。
「ああ、今日はこの辺で勘弁してやる」
やっと解放された私たちはふぅとため息をついた。
「連絡手段についてだが、これを使おうと思う」
そう言って網嶋先輩がカバンから取り出したのは、小さな片耳イヤホンと小さなわっかのようなものだった。
「何だ、この首輪みたいなやつ」
「それはチョーカーだよ。首に巻いて。こっちのイヤホンは左右どちらでもいいからつけて」
私たち全員にイヤホンとチョーカーを一組ずつ渡し、網嶋先輩自身もそれをつけた。
天道先輩もそのわっかのようなものを手に取り、適当に触っていじった。
「あ、切れた」
だが、どこをどう触ったのか分からなかったが、一部分が千切れ、わっかのような形状から一本の線へと変わった。そして、多分、そこは切れちゃいけない部分。
この人、ホント、機械に弱すぎる。
網嶋先輩が代わりのチョーカーを取り出し、朱鷺坂先輩が天道先輩につけてあげていた。
「何ですかこれ?」
チョーカーを首に巻き付けながら、私は網嶋先輩に訊ねた。
「これは無線機だよ。首のチョーカーで音を拾い、イヤホンでそれを伝える。ネット回線や衛星通信を使わずに、専用の信号をこれ自体が発しているから、この異世界でも問題なく使えるはずだ」
「でも、それって結構、通信距離短いんじゃないんですか?」
「そうだね、大体半径十キロ程度が限度かな」
「なにそれ、すご。これ、普通に売ったらお金になりそうですけど……」
相変わらず常識はずれなことをサラッと言ってくれる。
「あ、それと自動翻訳機能も付けておいた。さっきの黒ギャルみたいに分からない言葉使われても聞き馴染みのある言語に変換してくれる」
さらにぶっこんで来るんですか。
「アンタが何作ろうが、アタシはもう慣れたから驚かねぇが、にしてもよくこんなもん持ってたな」
「ああ、それは、今日異世界に行くから、念のために持って来てくれって遥翔に頼まれたからね」
「なんでこういったことには、考えが及ぶんですかこの人は。もっと他のことに頭を使った方がいいのでは?」
と皮肉を込めていったのだが、何故か天道先輩はドヤ顔だった。
「そんな自慢気な顔されても、別に私は先輩のこと褒めてませんからね」
「まったく、お前は本当に素直じゃないな~」
「そうですね。素直に言いますと、私、先輩のこと人間として、軽蔑しています」
「ツンデレか?」
「どこをどう聞いたら、そんな言葉が返ってくるんですか!?」
「おい、一ノ瀬。あんまり、遥翔に色目使うんじゃねぇよ」
朱鷺坂先輩がため息交じりに私を窘めた。
「どこをどう見たら、私が色目使ってるように見えたんですか!?」
「あのな、女の魅力は胸だけじゃねぇよ」
さっきまで怒っていたくせに、朱鷺坂先輩は何故か自虐を始めた。
「これは別に色目を使ってるわけじゃ……」
こっちも大きいことは結構気にしていることなんですが。
「それ、紗月が言っても説得力ねぇだろ」
学習能力のない網嶋先輩は余計なことを言って、また朱鷺坂先輩に殴り飛ばされていた。
「……、君たちがいると話が全然進まない」
そんな中、網嶋先輩は一人ぼやいていた。
その君たちに私は入ってませんよね? 大丈夫ですよね?
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「渋谷だけに限定されているとは言え、たった5人で人が多く行き交う中から一人の女の子を探すとかもう無理ゲーなのでは?」
手分けしてミコトと言う少女を探すことになった為、私は今一人で渋谷の街中を探索している。
ちなみに天道先輩は絶対迷子になるから、と朱鷺坂先輩が言っていたので、彼らは2人で探索している。
「一通りPARCOを見て回ったけど、ここにはいなさそうね……」
流し見程度だが、和服を着たそれらしい少女の姿は見かけなかった。
今更ながらに思ったけど、渋谷って渋谷駅周辺よね? 渋谷区とかだったら新宿の方まで探さなきゃだけど……。
嫌な考えが頭を過ったが、面倒になるだけなのですぐさまその考えを捨てた。
「そう言えば、ミコトちゃんの情報って和服と長い黒髪くらいしかないんだよね……」
どうせ人探しをするならもっと詳しく聞いておくべきだった。趣味とか分かるだけでも、探す範囲を絞ることが出来る。
「オタク趣味だったら、アニメイトとかゲーセン探すのに……。でもまぁ、神様がオタク趣味ってことはないか。さて、次はどこに行こうかな。ここからだと無難に東急ハンズとかかな?」
適当に次のあたりをつけ、探す場所が被らないように無線機を繋げ先輩たちに伝える。
『こちら凪。了解。どうぞ』
網嶋先輩から返事が返ってきたが、何やら後ろが騒がしい。
何かの曲が流れているようだ。
無線を通してここまではっきり聞こえるってどんな大音量で流しているのだろう。
てか、そんな場所あったっけ? CDショップとか?
『こちら紗月。りょー……あ、やべ、間違えた。二連続で入れちまった。どうぞ』
「え、あの、朱鷺坂先輩? 何してるんです?」
『いや、問題ない。予約取り消した。どうぞ』
どうぞ、じゃないんですが……え? なに? ホント何してるの?
しかも、網嶋先輩と一緒で後ろから大音量で音楽が流れているんだけど?
『こちら篤史。現在、間奏に入ってます。どうぞ』
「だから、何の話!?」
和泉先輩の方も何故か後ろから音楽が聞こえていた。
もしかして、みんな同じ場所にいる……?
『あ、遥翔がジュースこぼした。どうぞ』
『なにしやがんだ! 靴にかかったじゃねぇか!! どうぞ』
『おい! 見ろ! 90点台行ったぜ! どうぞ』
「どうぞ、じゃないんですけど!?!?!? 皆さん何やってんですか!?」
間違いない。これは絶対みんな一緒にいる。
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