神様、初めまして。
走ってきたのは私たちより年が低そうな少年。
「ヤナギさん、ストップです!」
少年は和服男の知り合いらしい。まぁ見ればわかるけど、少年の方も和服を着ているから仲間か何かなのだろう。
それよりも止めに入ったということは、私たちの味方? もう私の命の危機は去った?
「イザナミ様が彼らを連れてこいと」
「イザナミ様が? 何故だ。こいつらは侵入者なのだろう?」
「はい。ですが、敵意がないことは分かったとイザナミ様が」
「敵意がない? うちの部下どもを一網打尽にしたのにか?」
「それはこちらから仕掛けたからじゃないですか! それに彼らは命を狙われたというのにこちらのメンバーを誰一人殺していないみたいですし」
「なんだ、ただの腰抜けの集まりか」
「そうっす、そんな腰抜けどもなら別に危険はないからとイザナミが言ってました」
ふむふむ、イザナミとな? とても聞き覚えのある名前なんだけど。
「なんだと!!!! 黙って聞いていれば誰が腰抜けだ!」
「そうだそうだ! こっちはいつでも殺れんだよ! なんなら、今すぐにでもぶっ殺してやろうか!? あぁ!?」
だめだー……プライドの高そうな先輩二人が敵の言葉にブチ切れたー。
誰か止めてくれないかな~~~チラッ。
「はぁ~」
私の視線に気づいた朱鷺坂先輩はため息をつきながら天道先輩と和泉先輩の頭をぶん殴った。
「は? いって! なにすんだ!」
「あ、ああ、ああああああああ」
天道先輩は朱鷺坂先輩の胸倉をつかみ、和泉先輩は思った以上にダメージが入ったのか蹲って頭を抱えている。
「お前らが間に割って入ってくると話がややこしくなる。少し黙ってろ。気になることがあっても黙ってろ。殺されそうになっても黙ってろ。死んでも黙ってろ。言うことが聞けないならアタシが今ここで殺してやる」
「「はい、すみませんでした」」
朱鷺坂先輩の圧に負けた2人は反省したのか分からない片言で返事をし、その場に正座した。
「すまない。こちらのバカは抑えた。話は私が聞こう。戦いを止めに入ったということは何か話すことがあるのだろう?」
「ありがたいです。また喧嘩になったらどうしようかと。っとそうでした。まだ、自己紹介がまだでした。僕はサイト。で、こっちの怖そうな人はヤナギさんです」
サイトに紹介され和服男改めヤナギはこちらに一礼をした。
意外と礼儀正しい人なのかな?
「じゃあ、アタシたちも……」
朱鷺坂先輩が未来研の紹介を終えて、サイトが本題に入る。
「君たちを疑って申し訳ないです。この世界に悪い人が来るかもしれないってみんな思ってたからつい……」
「この世界……つまり、ここは異世界と言うことでいいのか?」
「はい。とは言っても皆さんから見たらですが」
え? やっぱりこの世界異世界なの!?
「それにしても私たちの世界と大差ないんだけど……」
「そうなんですか? でもまぁ、そういうこともありますよ。異世界なんてたくさんあるんですから」
「なに!? 異世界が沢山だと!!!!!」
やはりと言うべきか、天道先輩が食いついた。
「落ち着け」
それを見逃さず、朱鷺坂先輩が頭を押さえつけた。
「異世界がいくつもあるってどういうことですか? ここだけじゃないんですか?」
「そうです。異世界は神様の数だけありますから」
「神様……? え? 神様って実在するの?」
「しますよ。どの世界にも必ず一柱の神がいらっしゃるはずです」
「それじゃあ、私たちの世界にも……?」
「絶対いるはずですけど、見たことないんですか?」
いや、見たことないって言うか。私たちの世界の神様は想像上の人物であって実在するものではないんだけどね。
「ここで立ち話をするよりその神とやらに会った方が話は早そうだ」
「え、ちょ、マジに信じるんですか!?」
「信じるかどうかは会ってから決めればいい。それにあちらさんは行く気満々みたいだけど?」
その網嶋先輩が差した方を見ると……。
「聞いたかよ! 神様だってよ!」
「なんでも願叶えてくれんのか!?」
「いいねぇ、アタシは一発殴って見たかったんだ。神ってやつを」
若干バカ3人が誘いに乗る気満々だった。
内1人は物騒なこと言ってるけど。
「それとも、一ノ瀬だけ一人残る?」
「い、行きますよ!」
なんか怖いし罠っぽい気もするけど、一人にされるよりはマシ。
そんなこんなで私たちはサイトの案内に従い渋谷の街を歩く。
「ここです」
そうして連れてこられたのは、渋谷にある小さな神社だった。
「まさか! ここに本当に神様が奉られているんですか!?」
「いや、違います。ここは中継点です」
「中継点?」
「では、行きますよ」
私の言葉などそっちのけでサイトは空に円を描く。
すると、そこから急に光が発せられ私たちを包んでいく。
あれ? この感じさっきも……。
光が強くなり視界が奪われて、目をつむったほんの一瞬。
次に目を開いたとき、そこは……。
「え? 嘘……」
辺りを見渡すとそこは先程までいた神社ではなく、白い地面に真っ青な天井。目の前には、和テイストの屋敷が建っていた。
「うわ!? すげぇ! 雲の上だ!」
天道先輩が言う通り、白い地面と言うよりは雲と形容した方が正しい。いや、それも少し違う。雲であれば、踏むことは出来ず触ることも出来ない。足踏みすると柔らかく反発するそれは綿のようと言った方が正確だろう。
「これは驚いた。一体どういった原理で瞬間移動したんだ?」
網嶋先輩はこの光景よりもここへ一瞬にして移動した手段の方に興味があるようだった。
「うは! めっちゃ跳ねる!」
和泉先輩はぴょんぴょん跳ねてこの綿の地面を楽しんでいた。
「んで? 神ってのはどこだ?」
「主はこっちです」
朱鷺坂先輩にせかされ、サイトは私たちを屋敷へと案内する。
「土足厳禁ですから、ここで履き物を脱いでください」
そう言われ、私たちは広い玄関で靴を脱ぎ、さらに奥へと案内される。
ふへ~、ほ~、と感嘆の声を漏らしながら、私たちは美しく作り込まれた屋敷を見渡しながら、サイトの後についていった。
「ここです」
そうして、私たちが通されたのは大きな和室の広間だった。
「ん? 誰もいないけど?」
「あっちを見てください」
何もないその和室の一角、サイトの差した方向には、私たちがいる場所より一段高くなっていた。そして、そこにいたのは和服を着た、長い黒髪のお姉さんだった。
「よくぞ参った。異邦の者よ。わらわがこの世界の神である、イザナミじゃ」
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