異世界の襲撃者Ⅱ
「貴様ら何者だ?」
空から降ってきたその人は私たちを睨み、そう聞いてきた。
「てめぇが何もんだよ?」
「答える気はないか。それも致し方あるまい。ならば、排除するのみ」
長身の男から放たれた不穏な言葉。
それに合わせるように私たちの周囲を刀や拳銃で武装した集団が取り囲む。
「なんだこいつら。どっから湧いてきやがった?」
「ざっと見て50人ってとこか?」
先輩たちはめちゃくちゃ落ち着いているが状況はどう見ても最悪だ。
「なにこれなにこれなにこれ!!!!????? 銃刀法! 銃刀法!」
「おい、一ノ瀬。はしゃぐな」
「これがはしゃいでいるように見えます!?!?!?」
「見えるな」
とんでもない誤解をされているが、今はそれどころではない。
「分かりました。ここは謝りましょう。そう、穏便に」
「いや、いいぜ。やるってんなら、相手になる」
そう言って天道先輩は腰に下げた木刀を抜き、相手に向ける。
「先輩! 悪ふざけしてる場合じゃないですって! 相手は武器持ってるんですよ! 木刀のチャンバラで何とかなるわけないじゃないですか!? バカなんですか!? ああ、バカでした! バーカ! バーカ!」
私は天道先輩の白衣を思いっきり引っ張って先輩の愚行を止めようとする。
「まぁまぁ、一ノ瀬。落ち着きな」
「網嶋先輩からも何とか言ってください」
「とりあえず、手を放そうか。彼らの邪魔をするべきじゃない」
網嶋先輩は私の手にそっと触れ、天道先輩から放す。
「大丈夫。彼らなら何とかしてくれるから」
「何とか? 何とかって何ですか!? 何とかなるんですか!?」
「錯乱しているところ悪いけど、後ろ」
「へ?」
網嶋先輩に言われ、後ろを振り返ると刀を振りかざした人が……。
「うわぁああああああ!! 刃物! 刃物!」
私は咄嗟に頭を押さえ、しゃがみ込む。
し、死んだあああああああああああああ!!!!!!
……………………。
「ってあ、あれ……?」
いつまで経っても刀が襲ってこず、不審に思い、ゆっくりと顔を上げると……。
「おいおい、いきなり後ろからとか、マナーがなってねぇな」
朱鷺坂先輩が左腕で刀を受け止めていた。
「腕! うでぇえええええ!!!!」
「相変わらず、うるせぇやつだな。問題ねぇ、よ!」
朱鷺坂先輩は腕で刀を防御しつつ、右拳で相手を殴りつけ吹っ飛ばした。
「朱鷺坂先輩!!!! 腕は! 腕は平気なんですか!??!」
「ああ、見ての通り問題ねぇ」
ぱっと見、腕から血は流れていない。
「え? あれ? 嘘? なんで?」
「秘密は、これさ」
朱鷺坂先輩は左腕を勢いよく振った。
すると、鎖が飛び出してきた。
「鎖を仕込んでいたの……?」
全然気が付かなかった。っていうか、いつもそんなもの巻いているの?
「知らないのか? チェーンを巻くのは乙女の嗜みだ」
知りませんよ。そんな中二病の嗜好。
「さて、とっとと片付けるか」
朱鷺坂先輩が左腕を振るとそれに合わせて鎖が鞭のように撓り相手を襲う。
それだけで一気に3人倒したが、敵はその隙をついてきた。
「右側ががら空きだぞ!」
メリケンサックを付けた敵の攻撃が朱鷺坂先輩を捉える。
「バカか。片腕だけな訳ねぇだろ」
そう言うと朱鷺坂先輩は右腕を振るう。すると、その裾からも鎖が飛び出し、そのまま敵を吹き飛ばした。
「こいつを使うのは久しぶりだ。加減が難しいが、死んでくれるなよ?」
左側の鎖を飛ばし、敵の一人を絡めとる。そして、そのまま手前に引き、自分の元に引き寄せ、右拳を叩きつける。
「一人で行くな。一斉に行くぞ」
朱鷺坂先輩の周りを10人ほどが取り囲み一斉に攻撃を仕掛けてきた。
「あめぇよ」
朱鷺坂先輩はクルクルと回りだした。それに合わせ、鎖も朱鷺坂先輩を囲むように展開されていく。
「“チェーンディストラクション”」
回転をピタッと止め、両腕をバっと広げる。すると、遠心力によって勢いを付けた鎖が一気に敵を弾き飛ばした。
「おぉ……すごい……」
その豪快な戦いっぷりに思わず感嘆の声が漏れた。
「朱鷺坂先輩が強いのは知ってたけど、ここまでだなんて」
「紗月はいつも相手を殺さないように手加減していたからね。あの鎖も人相手じゃまず使わない。久しぶりに使えて楽しそうだ」
「楽しそうって……。そんなお気楽な状況じゃ……。いくら朱鷺坂先輩が強いって言っても相手は何十人もいて……」
「それなら心配ないよ。ほら、あっち」
網嶋先輩が指差した方向、そこには和泉先輩の姿が。
「な、なんだ、こいつ……」
「素手なのにつえぇ……」
どういう状況か分からないけど、何故か相手が和泉先輩相手に怯んでいた。
「彼の足元を見てみなよ」
「足元? ……え?」
和泉先輩の足元には既に5人、意識がない状態で転がっていた。
「な、ななな、なにが起きたんです?!?」
「見てれば分かるよ」
網嶋先輩の言う通りに黙って和泉先輩を見ていた。
「ねぇ、アンタら素人?」
「な、なんだと?」
「だって、弱すぎるもん」
「この、言わせておけば!」
ナイフを構えた敵が和泉先輩に迫り、その白刃を振り下ろす。
「…………」
和泉先輩はそれに怯えることなく、ナイフを持った右手首を左手で掴み、反時計回りに回す。それと同時に右手で相手の右肩を思いっきり押す。
すると、敵はバランスを崩し、その場に倒れこむ。
握りの甘くなった右手を見逃さず、ナイフを奪い取り、その柄で倒れこんだ相手の額を叩く。
「がっ」
額を強く打ち付けた相手はそのまま意識を失った。
「こいつ!」
和泉先輩の後ろにいた敵が銃を構え発砲する。
が、それを事前に察知していた和泉先輩は振り返らず、後ろに向かって奪い取ったナイフを投げつける。
「っ!」
銃を持った敵はそのナイフを避けるが、そのために、狙いがズレて味方に向かって銃を撃ってしまった。
「射線上に味方がいるのに撃つなっての」
味方を撃ってしまった。その動揺した隙をついて距離を詰め、敵の右腕を左脇で抑え込み、右手で敵の右肘をしたから打ち上げ腕をへし折る。
「ぐあ!」
その痛みで蹲った敵の頭を蹴り飛ばす。
「おし、銃ゲット」
先ほど右腕を追った際に、今度は銃を奪い取っていた。
「…………え? なに、あれ?」
おおよそ、私が和泉先輩に抱いていたイメージが大きく崩された。
「CQCくらいは聞いたことあるだろう?」
「え、ええ。まぁ、ありますけど。軍人が使う近接格闘ってやつですよね。え? まさか、和泉先輩のあれってそれ?」
「少し違う。あれは篤史が自分好みに改造した対人格闘術」
「いや、あのその細かな差異とか正直分からないんでいいんですけど。なんで、それをあの人が?」
「近接格闘位できなきゃインテリヤクザの道は遠いと言って、ネットを参考に1人でコソ練していた」
独学でそれ出来る能力あるなら、もっと座学どうにかなったでしょ。
現代社会の一般人じゃ恐らく全く必要ないであろうスキルであるが、今回に限ってはそれが有利に働いた。
このままこの人たちに何とかしてもらおう。
とそんなことを思っていた束の間。
「きゃ」
「おっとわりぃ」
天道先輩が急に後ろに下がってきて私に当たってきた。
「ちょっとなんですか! 先輩も逃げてきたんですか?」
「バーカ逃げるかよ。攻撃躱してたらちょっと下がりすぎちまっただけだ」
「期待はしてませんけど。木刀なんかで勝てるんです?」
「まぁ見てろって。俺の極めた天道流をな!」
うわぁ、出た。先輩の自己満自己流剣術。あんな小学生のお遊びレベルのチャンバラ剣術が本物の武器を持った人たちに通用するわけないじゃん。
「ふっ!」
不安たっぷりな私を置いて、先輩は敵のど真ん中へと向かっていく。
「天道流唯式六ノ型……」
天道先輩はギュッと木刀を引き、切先を相手の方へ向ける。
「“虎龍突き”!」
そして、その切先を思いっきり前へ押し出した。
「がぁ!」
「くっ!」
天道先輩の攻撃を食らった連中はことごとく吹き飛ばされていた。
「見たか。これが天道流!」
なんか先輩がこっちを見てドヤ顔をしてくるのだが、一言言わせてほしい。
そうはならんやろ!
ただの突き技でどうしてあんなに人が吹き飛ぶの! どういう原理!?
チート? もしかして先輩チーターなの? 異世界転生してきた? 前世の記憶あるの?
「一ノ瀬の驚きもわからないでもない。けど、遥翔のすごさはこんなもんじゃないよ」
私の心を読んだかのように網嶋先輩がそう言った。
「これ以上って、一体どんな……」
それはすぐに分かった。
「よっ! ほっ! とっ!」
天道先輩は敵の攻撃を軽々とかわしていき、木刀であるいは蹴りでカウンターを決めていく。
「天道流唯式五ノ型“陽炎”!」
「どわー!」
「天道流唯式四ノ型“雪月花”!」
「どふっ!」
なんかよく分からない技でどんどん敵を倒している。
「“陽炎”あれは木刀の姿をぼやかせ剣筋を全く見せない大技だ。そして、“雪月花”は三撃必殺。同じ個所に三度攻撃を当てることにより、どんな鋼鉄でも破壊することが出来る大技だ」
なんか、網嶋先輩が天道先輩の技を丁寧に解説してくれた。
てか、大技ばっか。小学生の格ゲープレイじゃん。
「次はてめぇだ! アンタがボスなんだろ? なら、アンタたおしゃ俺たちの勝ちだ!」
天道先輩は敵の後ろに待ち構えているスーツ男に向かっていった。
「威勢がいい。だけではないな。既に常人を超えた戦闘スキルを持っているようだ」
長身の男は何やらぶつぶつと呟いていた。
「天道流唯式一ノ型……」
両手でしっかりと木刀を握り、長身の男に突っ込んでいく。
「“神薙”!」
真一文字を描くように天道先輩は木刀を振り抜こうとした。
けど……。
「なっ!」
「だが、攻撃が軽すぎる」
長身の男は軽く右腕でガードしただけでびくともしなかった。
「ふむ、この感じ。やはり、神性を持っていないな? 神子ではないのか?」
「は? 神子? 神性? 何の話だ!」
「世界を渡ったというのに、そんなことも知らないのか。貴様ら本当に何者だ?」
長身の男の戸惑いがこちらにも伝わってくる。
これはちゃんと話し合えばわざわざ戦わなくても平和的解決が見込めるかも!
「なんにしても、殺してしまえば問題あるまい」
ダメでしたー!
「ごちゃごちゃうるせぇな! やるなら本気で来やがれ!」
天道先輩はなんの考えもなく真正面から向かっていく。
「では、そうさせてもらおう」
「っ!」
長身の男の姿が一瞬にして消えた。
いや!
「先輩後ろ!」
「!」
気づいたがすでに時遅し。
その男は天道先輩の背後を取り右手の手刀を振り下ろす。
「あぶ……」
危ないと言おうとしたその瞬間。
「うちの大将は取らせねぇよ」
朱鷺坂先輩が間に割って入って鎖で長身の男の攻撃を阻止した。
「…………」
だが、彼はそんなもの意に返さず、空いている左手でまた攻撃を仕掛けようとした。
「動くな。頭ぶち抜くぞ」
それを読んでいた和泉先輩が長身の男のこめかみに銃口を突き付けた。
よかった。2人が来てくれたおかげで、天道先輩が助かった……。
え、けど待って? 今、あの男に3人がかりってことは、他の連中は……?
どうなったのかと思い周囲を見渡してみる。
「………………すご」
そう言葉が漏れた。
いつの間にか50人ほどいた敵が全員のされていたのだ。
「撃てるものなら撃ってみろ」
「あ?」
男と和泉先輩が睨み合う。そして、そこには間違いなく殺気が漏れ出ていた。
今にも殺し合いを始めそうなそんな雰囲気。
これー私、逃げてもいいかな? いいよね?
私はゆっくり気づかれないように後ろに下がる。
「ちょっと待ってください!」
「え?」
その瞬間、誰かが息を切らしながら走ってきた。
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