異世界探索スタート

「あのここどう見ても渋谷にしか見えないんですけど?」

「まずは誰かに話を聞いてみるか」

「異世界だろ? 言葉通じるのか?」

「聞いて、ねぇ、私の話聞いて」


 私のことなど無視して天道先輩と和泉先輩は勝手に話を進める。


「なぁなぁ! そこの人!」


 コミュ力が高いのか、はたまたただのバカなのか。近くにいた人に天道先輩は声をかけた。


「え~、ちょ、ナンパ系な感じ~?」


 天道先輩が話しかけた人は、真っ黒い肌にケバい化粧、盛に盛られたカラフルな髪に青色のネイル、その手にはデコレーションされたスマホ、俗に言う黒ギャルという人種だった。セーラー服を着ているから恐らくは女子高生だろう。

 何でその人に声をかけたの、この人。もっと他にいるでしょ。


「ちょっと聞きたいんだけどさ」


 頼むから『ここは異世界ですか?』みたいなアホな質問だけはしないで。一緒にいる私までアホだと思われちゃう。


「ここって異世界?」


 言っちゃったよ……。

 私は顔を抑えて項垂れた。


「え~、超ウケる。やーしぶじゃん。やーしぶ」

「やーしぶ?」

「とりま、うちオデマルでパチポリなんで、ジャネバイ」


 黒ギャルはそう言って、走り去ってしまった。


「やーしぶとか聞いたことないぞ」

「それに意味分かんねぇ言葉喋ってたぞ。絶対日本語じゃねぇ」

「しかも、あの見た目狂気じみていた。あんな人間、俺様たちのいた世界にはいなかったぞ」

「ってことはつまり……」

「「「ここは異世界か!」」」


 マジかこいつら。

 網嶋先輩以外の人たちはさっきの人との会話でここが異世界であると思い込んでしまった。

 アホアホコンビはともかく、朱鷺坂先輩までそっち側に行かれると私の負担が大きいんだけど。主にツッコミの面で。


「言葉通じないとかやべぇだろ。予想してたけどこれ結構厳しいな」


 言葉通じないとか天道先輩は人のこと言えません。特大ブーメランどころか自傷行為です。


「はぁ~、あれ日本語って言うのは変かもしれないですけど、別に異世界語って訳じゃないですし、見た目もああいう人は稀にですけどいますって」

「一ノ瀬はあの難解な言葉を理解できるのか?」

「理解できる、と言うか、まぁなんとなく分かるくらいですけど……」


 言えない、大学デビューのお手本にしていたなんて。こっちに引っ越してきて、あの言葉と格好が普通でないこと早めに知らなければ、私もああなっていたかもしれない。


「とにかく、やーしぶって言うのは渋谷ってことです。彼女も言ってましたし、やっぱりここは異世界じゃないですよ」

「ははぁ~ん、さては一ノ瀬……」


 何やら天道先輩が不敵な笑みを浮かべて私を見る。

 やばい、もしかして私が黒ギャルの勉強をしていたことがバレた……?


「異世界だって認めたくて、適当なこと言ってるな?」


 バカでよかったー! ってそうじゃない。


「いや、やーしぶは本当に渋谷ですって!」

「でも、俺は聞いたことないぞ?」

「俺様もないな」

「アタシも聞いたことねぇぞ」

「うん、まぁ、確かに普通の人は言わないですけど……」

「とにかく、話は聞けないみたいだし、その辺探索してみようぜ」

「はぁ、もういいです……」


 私はこれ以上言っても無駄だと思い諦めた。どうせ、辺りを見て回ったらただの渋谷だと気づくだろうし。

 それよりも、ここが異世界じゃないとしても、私たちはどうやってここに飛ばされてきたんだろう? 考えられるのは瞬間移動だけど、そんなのってあり得るの……?

 異世界だと思い込んでいる彼らは楽しそうにはしゃいでいるが、私は不安でいっぱいだった。

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