第6話
「まあ、本当に炎が青いのね」
「これは凄いな、初めて見た。レベッカ嬢、竜を倒してくれたこと感謝する」
「兄上。この者の言うことを信じるのですか」
王太子がお礼を言うと、第二王子が眉をひそめた。
「どこまでが本当か分からないのに」
「だがこうして実際に青い火を出しているじゃないか。こんなことが出来るのは魔術師だけだろう」
「だからといって彼女が竜を倒したことにはならないでしょう。自演かもしれないし……」
「ルーカス。それは失礼だろう」
王太子の低い声に、第二王子ははっとした顔を見せた。
「レベッカ嬢、弟がすまない。彼は疑い深くてね」
「いいえ、気にしませんから大丈夫です」
確かになんの証拠もないのだ。初対面の人間の言葉を信用されなくても、疑われても仕方ない。
本当に気にしていないことを理解してもらおうと、私は満面の笑顔で答えた。
「……すまなかった」
何故か顔を赤らめて、視線を逸らせながら第二王子は答えた。
「いいえ、本当に大丈夫です」
「……そうか」
「まあ」
「ルーカスがそんな反応するなんて珍しいな」
まだ顔が赤い第二王子を微笑みながら見ていた王太子が私に向いた。
「レベッカ嬢。改めて感謝する」
「魔術師として魔物を倒すのは当然です。あの、それで……ご報告したいことがあるのですが」
「報告?」
「実はあの時、赤竜が現れた噴水のあたりで、魔物誘引薬の匂いがしたんです」
「誘引薬だと?」
「はい。おそらく誰かが、赤竜をあの場所に誘き寄せたものと思われます」
そう言うと三人は顔を見合わせた。
「――実は、王都の東端にある塔の結界が弱まっていたと、夜会の翌日教会から報告があった」
しばらく考えて、王太子は言った。
「ああ、どうやって王都内に入ったのか疑問でしたが。そこから入った可能性がありますね」
赤竜ならば多少の結界は越えられる。
おそらく塔から王宮まで誘引薬で赤竜を導いたのだろう。
(東の塔……それって、ゲームで赤竜が棲みついたところなんじゃ)
やっぱり、ここはゲームの世界なのだろうか。
「その結界はどうしたのですか」
「教会の魔術師たちが戻した。原因は調査中だ」
「ではひとまず安心ですね」
「その誘引薬もまだ残ってないか調べさせた方がいいな」
「それは無理だと思います。誘引薬は短時間で蒸発してしまいますから」
いつまでも残っていると、その場に魔物を誘き寄せ続けてしまう。
だから長くても半日は持たないよう作られている。
「だが竜を王宮へ誘き寄せた者がいるのは確実だ」
王太子はため息をついた。
「目的は夜会か? 混乱させるためか? ……しかし竜を使うなど」
「あの場には王都にいるほとんどの貴族がいた。もしも竜が暴れていたら大惨事になっていたかもしれないな」
第二王子が言った。
「そうですね。竜は臆病で神経質な魔物です。大声や悲鳴を上げた相手を襲う可能性は高いですから」
「つまり、庭で竜を見た者が騒ぐと暴れるということか」
「……その誘引薬の匂いがしたのは噴水の所だったと言ったね」
王太子は私を見た。
「はい」
「夜会の時にいつもその場所にいるのは警備担当者か……ドリスくらいだな」
そう言って王太子はドリス様を見た。
(そういえば、いつも息抜きに噴水の所に行くって……)
え、それってまさか……。
「狙われたのは私ということかしら」
ドリス様が呟いた。
「まさかアグレル侯爵家が……」
「そこまで推測するのは早いな」
王子二人の顔が険しくなる。
え、どうしてドリス様が狙われるの!?
「うちのシェルマン公爵家と仲が悪い家があるの」
疑問が顔に出ていたのか、ドリス様が私を見て言った。
「権力争いというやつね。私が王太子妃になることに反対しているの」
「私が望むのはドリスだけだかな」
ドリス様の肩を抱いて王太子が言った。
きゃー、仲良し!
「……では、その何とか侯爵家がドリス様を狙って赤竜を誘き寄せたと?」
「その可能性があるということだ。……父上に報告しないとならないな。ドリスの警備も強化しないと」
そうか、また襲われる可能性があるのね。
「レベッカ嬢、重ねて今回のこと感謝する」
王太子が頭を下げた。
「いえ、何事もなくて良かったです。魔術師としてまた手伝えることがあればおっしゃってください」
魔物を使って人を襲わせるなんて許せないもの。
「……ねえ、もしも竜を倒したのがレベッカさんだと知られたら、レベッカさんの身も危ないんじゃないかしら」
ドリス様が言った。
「私ですか?」
「そうだな」
王太子が頷く。
「私は大丈夫です、自分の身は守れますから」
「それは魔術師としてだろう。政治的な立場は弱いはずだ」
「それは……」
確かに、うちは伯爵家の中でも領地の大きさや地位は平均より下の方だと聞いている。
私も三ヶ月前まで庶民、しかも他国にいたからこの国のことはほとんど知らない。
「レベッカ嬢も警備を増やして……だがそれだと逆に怪しまれるな。魔術師であることは極力知られない方がいい」
「そうだわ」
ぶつぶつ言っている王太子の隣で、何か思いついたのかドリス様が顔を輝かせた。
「レベッカさんをルーカスの婚約者にするのは?」
「は?」
私と第二王子は同時に声を上げた。
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