第16話 補償額など

寛永18年12月。

五島藩家老の七里善喜は、この半年の被害補償額の集計を行い愕然としていた。

     赤瀬漁場 5,400両(3網分)

     一般農民   50両

     一般漁民  600両


  合計して、6千50両に上っていた。1両を約10万円で換算すると、6億500万円になるのであった。

  報告を受けた盛利は、その額に実感を持てなかった。


   「七里、赤瀬漁場の補償は、途方も無く大きいのー。」


   「はい。確かに。しかし、内訳はこのようになっておりまして、間違いはございません。」


     1網・・・船10艘、漁民30人従事、1回の水揚額20両

6ヶ月・・1網の網揚げ回数90回

補償額・・20両×90回×3網=5,400両

    

    「ふむ。赤瀬漁場は、これほど大きなものであったのか。じゃが、この計算で行くと、幕府から受け取った6万両は、たちまち、なくなるではないか。」

    「はい。これは半年での被害補償額ですので、現在のペースで推移いたしますと5年も持ちませぬ。」


   七里の言葉に、一堂、つばを飲み込んでいた。


    「あー、いや、いや。そうは言いましても、もう、工事も終盤のようでございますゆえ、被害補償が長く続くとは考えられませぬ。」

    「そ、そうか。終わるのか。」


  盛次の工事は終わるとの説明に、盛利は胸をなでおろすと同時に、無意識に浮かせていた腰を下ろし、一堂を見渡した。

   

   「皆、本年は何かと気苦労の多い年であった。本当に、ご苦労であったのー。僅かではあるが、餅代を支給するゆえ、家族そろって良い年を迎えるように。それでは、七里、後は頼むぞ。」


     安心した盛利は、家来達に餅代を支給する約束をすると、そそくさと自室に帰っていった。


     一方、江戸の「藩制問題研究所」では、冬のボーナスではなく、退職金の話しが行われていた。


     「二人とも、これまで色々お世話になった。私ね、年が明けるとアドメニア合衆国に留学しようと考えているんだ。それで、この事務所も今月限りということで、これ退職金だ。受け取ってくれ。」

     「・・・・。」

     「僕も妻の実家の農場を手伝うことにしたので、やめようと思っていたんですよ。」


     いつも誰よりも大騒ぎする西山須美子は、一人、呆然としていた。やがて、隠元から手渡された包みを開け、のけぞるように驚くのであった。


     「社長。こ、こんなに頂いていいんですか?えー、と。500両ですけど・・・。」

     「え?これ、そんなに入っているの?」

     「この1年数ヶ月の我が社の働きは、それだけの価値があったということだ。すまんが、会社の解散を理解してくれ。幸い、無題君は、奥さんの実家に行くというから、良かったが、西山君は、どうする?」

     「・・・、今日は忘年会のことでも話そうかな、なんて、思っていたんですから、会社を辞めて何をするか、なんて言われても・・・。」

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