第15話 これって繁栄?

工事が始まって2ヶ月を過ぎ、五島藩への苦情は相変わらず続いていたが、現地、三井楽はこれまでにない賑わいぶりであった。

          他でもないアドメニア合衆国の軍人達が、三井楽の食堂に出入りするようになったのである。

   やがて、様々な飲食店が出来ていった。

真っ先に出来たのが、居酒屋「ぶんちゃん」という一杯飲み屋であった。続いて、キレイどころを集めたスナック「レイチェル」、和食どころ「よし」。

   飲食店ばかりでなく、骨董品などを扱う「古ー事」、漢方医学で治療する「ガマ医院」。

4ヶ月も経つころには、パチンコ店「オニヨメプラザ」、そして、その横には、消費者金融「シカリ」まで出来ていた。


   こうした所には、軍人達だけでなく、地元で農地を売り敷地造成に雇用されなかった年老いた農民達や漁業の不漁で補償を受けた漁民達も出入りするようになっていた。

   三井楽の昼間は、「オニヨメプラザ」の界隈だけが、やけに人通りが多く、かつてのように、通りで農産物・魚介類を売り買いする人々の姿は、全く見られなくなった。「古ー事」には、軍人達が訪れては珍しいものを買い入れ、アドメニア合衆国にいる家族に送っていた。

パチンコで勝った人たちは、そのまま「ぶんちゃん」や「よし」に入り、一時すると「レイチェル」に流れ込むのである。

   やがて、「レイチェル」で盛り上がった人々も自宅へ帰る時間となるのであるが、店の横にある空き地では、まだ帰りたくない軍人や地元の人達が憂さ晴らしに喧嘩を始める始末。したたか打ちのめされ怪我をした飲兵衛どもは、「ガマ医院」に運び込まれるのであった。

いかに屈強な漁師や農民たちも軍人達に手出しも出来ず、ちょっかいを出しては殴られる、ちょっかいを出しては殴られる、の繰り返しであった。

   三井楽は、農業や漁業の村ではなく、歓楽街となったのである。


   敷地造成が始まって半年もすると工事も終わりに近づいたのか、人夫の数も徐々に減らされ、平らな広い道路のような所に砂と石灰のようなものを混ぜて流し込む作業が行われていた。

これまで造成に関わってきた多くの農民は解雇され、鉄条網の外へと解放されていた。

こうした農民の多くは家を新築したり、先祖代々の墓を新しく作ったりで喜んだものの、仕事が終わってしまうと他にすることも無く、パチンコ店に出入りするしかなかった。


現地で三井楽の状況を把握するために滞在している盛次にとって、この賑わいを手放しで喜んでよいものか、複雑な心境であった。

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