第13話 アドメニア合衆国人登場、姿を見せる基地
五島藩が、大騒ぎになったのは11月中旬のことであった。
なにせ、幕府の事業と聞かされていたのに、工事に現れたのはアドメニア合衆国の軍人達であった。幕府の関係者といえば、通訳として長崎奉行所の役人数人が同行しているだけであった。
軍人達は、到着すると日をおかず買い取った敷地の周りに鉄条網を張り巡らした。それこそ、あっという間の作業で翌年1月下旬までには、敷地内に宿舎のようなものや途轍もなく大きな倉庫などが作られた。
2月になると農地を譲った農民達の家々に通訳を伴ったアドメニア合衆国の軍人が訪れて、ある指示を行っていた。
<2月末までに、敷地内の寮に入るように。工事が終了するまでは、誰とも面会は出来ないこと。工事終了までの生活の面倒は、全て、アドメニア合衆国軍が保障する。もちろん、給料も支給する。>
とまどい不安になりながらも、指示に従うしか方法がなかった。他に生活する術がなくなっているのであるから。土地を売った農民のほとんどが、わずかな着替えを風呂敷に包み、妻や子に別れを言って、その鉄条網の中に入っていった。
一方、五島藩主・盛利のもとには、三井楽はもとより、藩内の全ての地区から不安と戸惑いの声が寄せられていた。
何が始まるのか、そう問われても誰一人答えることが出来なかった。ただ、何かの敷地造成で、皆には迷惑は掛けないと繰り返すのみであった。不安になっているのは、領民達のみでなく、盛利自身が一番不安に怯えているのであった。それは、他でもない先日ブログに書き込みがあったように外国人が乗り込んで来たからである。
「盛次、しばらくは三井楽に滞在し、事情を調べ、事の成り行きを見極めてはもらえぬか。」
「父上。調べるのは結構でござりますが、外国の方々は協力してくれるのでござりましょうか。」
「うむ。長崎奉行の役人も同道しておると聞いておるゆえ、その方々を通じて話しを伺えばよろしいのではないかのー。」
盛利の指示で三井楽に向かった盛次であるが、長崎奉行所の役人を通してアドメニア合衆国の軍人と接触はしたものの、工事の具体的内容はついに聞きだすことは出来なかった。仕方なく三井楽で様子を見守るしかない盛次であった。
3月に入ると三井楽の白良ヶ浜(しららがはま)に、途轍もなく大きな船が入り、その船の舳先からは、次々に大きな鉄の塊の車が下りてきた。その車が通った後は、まるで最初から何もなかったかのように、白々とした土がむき出しになるのであった。
それらの車は、鉄条網で囲われた敷地の大きな倉庫に入り込んでいった。
その次の日から、早くも工事が始まった。
鉄条網の中の畑という畑を、あの鉄の塊のような車で押しなべて行くのである。畑の麦も畑の周りの椿の木も残らず踏み潰し、ただ平らにする作業が始まったのである。
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