第7話 隠元の策略
次の日の朝、いつものように遅く出勤してきた無題に、西山は社長の指示を伝えていた。
「無題君、社長から、ダミーを作ってでも五島藩の殿のブログに集中させてくれだって。」
「それはいいんですけど、僕の給料が振り込まれていませんけど・・・。」
「はあ?そりゃあ、そうでしょうが、だって、4ヶ月も行方不明だったのよ、貴方。首にならないだけ、ありがたく思わないと。」
「でも、妻が給料を楽しみにしていまして・・・。」
「いらないでしょう。4ヶ月も海外旅行を楽しむくらい裕福なんだから。おまけに、職場にお土産も買ってこないくらいケチなんだし。」
「いや~、海外旅行といっても、妻の実家に帰っていただけで・・・。」
「奥さん、オーストラリアの人?」
「はい。・・・行方不明といっても、五島藩の調査もしてきたのですから。」
二人のやり取りを横で聞きながら、隠元は、いつものように窓の外に眼をやり、五島藩に対する戦略を構想していた。
少し離れたビルの屋上には、梅雨の終わりを告げるような強い雨に打たれながらアジサイが辛抱強く立っているのが見えた。
それを見ながら隠元は、つぶやいた。
「それほど時間をかける余裕もないし、直接、懐に飛び込むか・・・。」
「社長、僕の給料ですけど、出していただけないのでしょうか。」
「西山君、1月分ぐらい出してやれよ。一応調査はしてきたのだから。それと、西山君はブログ仲間を大勢持っていると言っていたけど、何人くらい持っているの?」
「私のブログ仲間ですか?100人くらいかな?」
「そうか。私の知り合いと無題君の知り合い、う?無題君は?」
「さっき、社長が給料出してやれ、って言われた時には、外に出て行きましたよ。」
「あいつ、知り合いとか、多いのかな?」
「いないでしょう。これまで、友達と飲み会とか聞いたことないですもん。結婚できたのが不思議なくらいですよ。」
「じゃあ、ダミーを100件作るように言っておいてくれ。あとは、昨日話したとおりだ。」
「はい。でも、どのように褒め上げるのですか?」
「うん。そこは準備が出来てからにしよう。」
隠元は、五島藩主のブログに書き込みを始め、何がしかの手ごたえを感じていた。少なくとも、顧客として取り込むには、これまでの客よりはやりやすい相手であることは確かであった。
五島藩主は世間を知らないうえ、かなりお人好しのようであった。なにせ、隠元が書き込むようになって、わずか数回であるにもかかわらず色々相談するようになっていた。
隠元には、五島藩主・盛利が何かに焦っている様子も読み取れていたのである。
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