第19話 この世界ではオーバースペックのようだ

『てめぇ舐めてんのか』


 テレスティアがハルバートを振り上げて、こちらに向かってきながら振り下ろしてくる。俺はディーヴァをステップさせて回避しながらすれ違いざまに蹴りを一発入れる。


『なん、だ』


 通り過ぎた後、流れるような動作で振り返るがテレスティアは背中を向けたままだ。しばらくしてやっとこちらに気がついたのか振り返りハルバードを構えた。そのまま待っていても相手が動く気配がない。仕方がないのでこちらから近寄っていくと今度はハルバードを横薙ぎに振るってきた。


『うおぉぉぉぉ』


 あえて紙一重で回避をしながら、こちらも軽く反撃する。本当に軽くなので操縦席にまでは衝撃波いていないと思う。


『なぜ当たらない』


 外部スピーカーから発せられた声がこころなしか泣きそうに聞こえるけど気の所為だよな。


「ケイカ流石にかわいそうだからそろそろ止めてあげなさい」


「へ? かわいそうってなんで?」


「はぁ、流石に相手には実力差が伝わっているようよ」


「んー……ん? そうなのか」


 姉さんと会話しながらもずっと続けられているハルバードの攻撃を避け続ける。


『ケイカ様、敵部隊は全て沈黙ました』


 アーシアからの通信で、俺達を抜いていった部隊は無事制圧されたらしい。そういう事ならこちらもさっさと終わらせたほうが良いかな。そういう事なら倒しますかとモニターに映るテレスティアに目をやると最初に見たときよりも装甲が凸凹になっている。


「誰がこんな酷いことを」


「ケイカでしょう」


「そうだと思った」


 やけくそ気味に振り下ろされてきたハルバードの攻撃をくぐり抜け、懐に潜り込みディーヴァで操縦席のある辺りに掌底を叩きつける。それと同時に極小の衝撃波を送り込んだ。テレスティアは衝撃波に押され一歩二歩と後ろに下がり、そのまま背中から倒れて動かなくなった。


「えっと生きてるよな?」


「大丈夫でしょ……待って、なにか様子がおかしいわ」


 倒れているセレスティアに視線を向けると、ゆらりとオーラのようなものがセレスティア全体を包んでいるのが見えた。


「なんだあれは」


「わからないけど嫌な感じがするわ」


 ここは攻撃するべきかと迷っているうちにセレスティアは立ち上がった。セレスティアの全身を包んでいたオーラはいつしか黒色に染まっていた。


『おぉぉぉぉ』


 そんなうめき声が聞こえたと同時にセレスティアが腕を横に振るった、すると黒いオーラから複数の炎の塊が生み出され、こちらに打ち出されてきた。


「なん、だ、ってんだ」


 ディーヴァを急制動させて炎の塊を回避する。炎の塊は地面にぶつかると爆発してその場を黒く染めた。


「魔法ってやつかしら?」


「魔法? あっちの世界の敵が使ってた解析不能だったっていうあれか」


「アーシアなにかわからない?」


『通称魔法と呼ばれるものに間違いありません、ただその原理や使用条件などは不明です』


 あの黒い炎の塊に触れては駄目だという直感のもと回避し続ける。


「なにか対策みたいなものはないのか?」


『記録は一つだけございます。エネルギー源である魔石を破壊してください』


「セレスティアの魔石の位置はわかるか?」


『データを送りました』


 アーシアから送られてきたデータのお陰でセレスティアの魔石の位置にターゲットアイコンが点灯する。


「姉さん操縦は俺がするから、タイミングと射撃は任せた」


「わかった、カウントダウンするわね。五、四、三、二、一」


「「ゼロ」」


 俺はゼロのタイミングでエネルギーガンの照準をターゲットアイコンに合わせる。それと同時に姉さんがエネルギーガンを撃った。エネルギーガンのビームがセレスティアの装甲を貫き、魔石が破壊されたのがなぜか感じられた。


 魔石が破壊されたためかセレスティアからは黒いオーラは消え去り再び地面へと倒れた。


『おい、ケイカ、ケイナなにがあった?』


 どうやら今の戦いはリュウドたちの位置からは見えていなかったようだ。ただ装甲がボコボコになり穴まで空いているセレスティアを見て、尋ねてきたのだろう。


「わからない、けど多分生きている」


『そうか。おい、中から引きずり出して拘束しろ』


 リュウドに着いてきていた人騎から何名かがセレスティアに向かい、搭乗口を外部から強制解放させる。中から引っ張り出された第二王子の姿が見えた。気絶はしているようだけど生きているようだ。


『よーし生きているな、とりあえず館に運んで軟禁しておけ、あくまで丁重にな』


 念の為か縄で拘束して後に馬車に乗せられ第二王子はドナドナされていった。


『あー、それでケイカ、頼めるか?』


「了解、とりあえず格納庫にまでは手分けして運んでもらえるかな」


『それにしても一気に五十騎も手に入るとはな』


「えっあれって返さなくてもいいの?」


『どうだろうな、返還を要求されたら金と交換だろうな。まあ五十騎あっても持て余すからな、第二王子といっしょに引き取ってもらう』


「それじゃあ、修理だけでオーバーホールはしなくていいな」


『ああ、それで頼む』


「ということだからアーシアお願い」


『かしこまりました、軽くスキャンをした結果、修理だけでしたら三日もあれば終了いたします』


 どうやらオーバーホールをしないのならそれほど時間はかからないようだ。元々動いていたもだし、パーツ交換だけで済むならそんなものかも知れないな。


『それじゃあ済まないがよろしく頼む』


 そう言ってリュウド達は屋敷に戻っていった。


「それじゃあ俺達も戻ろうか」


「そうしましょう」


 そういうと姉さんはヒト型機械体から出て白猫の姿になり俺のすぐ横で丸くなった。その背中をなでながら改めて今日の戦闘を振り返る。テレスティア、別に操縦していた第二王子の腕が悪かったわけではないと思う。


 ただ機体が性能を十分に発揮できていなかった。まずは武装面、よく見ると各部位にエネルギ砲が接続されていた名残があったのだけど、肝心のエネルギー砲が接続されていなかった。元々無かったのか、ロストしたのかはわからないけどエネルギー砲が使えていればもう少しまともな戦いができたのかも知れない。


 まあそうなっていたらそうなっていたで、こっちもフル武装で戦えばいいだけなんだけどな。それにしてもあんなできの悪いハルバードだと、仮に直撃していてもこのディーヴァには傷をつけれてもそれまでだろうな。自己修復もあるからほとんど無傷と変わらないだろう。


 技術格差というか、この世界ではディーヴァはオーバースペックすぎるな。もしかするとオーバーホールされたイーファもこの世界では十分オーバースペックな機体に仕上がっている気がする。まあそれでも俺と姉さんが本気を出せばフルスペックのイーファだとしても問題なく倒せるだろうな。


 研究施設の格納庫にディーヴァを置いて研究施設に入る。


「おかえりなさいませケイカ様ケイナ様」


「ただいまアーシア」


「お風呂の用意は出来ておりますので、汗を流されてはいかがですか?」


「あー、そうだな、そうする」


「それではごゆるりと」


 アーシアに見送られながら姉さんと一緒に風呂場に向かう。風呂から上がったら今後の予定をもう一度組み直さないといけないだろうな。脱衣所で専用スーツを脱いでそのまま風呂場に入る。体を一通り洗った後に湯船に入りながら、器用に湯船に浮かんでいる姉さんと一緒に今後の予定を軽く話し合った。

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