第17話 模擬戦
全周天モニターの前面にはイーファ改が映し出されている。なぜ改を付けたかと言うと、単純に壊れていたものをなおす際に、途上者の意向を聞いて改良されたからだ。俺が今借りているイーファ改もセリカが自分に合わせてカスタマイズされているものだ。
モニターに映っているイーファ改の武装は剣に見立てた普通の鉄パイプと盾だ。俺の方も同じ武装になっている。ルールとしては一発でも機体に攻撃が触れれば勝ちとなる。ある程度のダメージなら自己修復で治るけど、流石に実践仕様の武器だと危険なので模擬戦では使えない。
「それではケイカ対イリナの模擬戦を開始する、双方準備はいいな」
『大丈夫』
「問題ないです」
「それでは、始め!」
リュウドの開始の声とともに前へとイーファ改を進める。いつも乗っているディーヴァとは若干操作性やクセが違うが問題ないだろう。まずは様子見でイリナの攻撃を軽くいなして反撃に移る。それは相手も同じようでこちらの反撃に合わせて後ろに下がる。俺は追撃をすること無く横へ相手を中心として円を描くように移動する。
イリナがそれに合わせて向きを変えるがどこかぎこちない事から、機体の操作に慣れていないのがわかる。オーバーホールが済み、自分のクセに合わせて改良してからまだ何日も経っていないだろうし、今まで動かしていたのは人騎だった事からイーファ改の操縦にまだ慣れていないのかも知れない。
イリナが戸惑っているうちに、一瞬だけ加速してイリナの側面へ回り込んだ所で、飛ぶようにイリナに向かって近づき攻撃を加える。といっても攻撃に使うのは鉄パイプではなく盾を使い、イリナがとっさに攻撃に使った鉄パイプに盾をあてて跳ね上げ、そしてがら空きとなった胴体へと鉄パイプを軽く当てる。
「そこまで!」
お互いに機体を開始位置にまで戻して礼をする。そのまま機体を格納庫まで移動させて膝たちにさせて機体から降りる。正直に言ってしまうと攻撃が原始的すぎる、スラスターも使わなければエネルギーガンやエネルギーライフルもなし、近接武器でさえも鉄を叩いて作った剣や斧ってどうなんだろう。
技術が流出していない証拠なんだけど、この程度の武装なら、ディーヴァ一体で殲滅できるという評価には頷けてしまう。この世界の機体事情からするとディーヴァのスペックや武装はチートということになるんだろうな。
ただ人騎とは違って、イーファにはちゃんとスラスター機能も付いているし使用もできる、武装に関してもイーファならエネルギーガンやエネルギーライフルも使えるし、エネルギーソードも使える。
逆に人機はそれらを使うことが出来ない、元がゴブリンやオークのような大した魔石を持たない魔物が乗っていた機体だということもある。元の世界に攻めてきていた的にはあれ以上の上位機体が多数あったはずなのだけど、どうやら鹵獲は出来なかったようだ。なにか出来なかった理由があったのだろうね、自爆機能がついていたとかだろうか。
「負けてしまいました、さすがはお姉様です」
そう言いながらイリナが抱きついてくる。振り払うわけにも行かずされるに任せているが、女の子に抱きつかれると変な気分になる。いや今の俺は姉さんの体なわけで女なんだけど、それでもなんと言っていいのかわからない。
最初に出会ったときはほんとこちらを警戒していたのにな、何が琴線に触れたのかいつしかベタベタしてくるようになった。リュウドが何度かたしなめてはくれたが処置なしということで何も言わなくなった。
俺自身もどうしていいかわからず、されるに任せている。ちなみにケイナ姉さんには普通の態度で接している。機械体のときも白猫の時も特に拒否反応を示さずに、礼節を持って接しているように見える。アーシアに対しても同じ扱いなのでよくわからない。
中身が俺、つまりは男だということをわざわざ言う必要はないと思っているけど、少し後ろめたい気持ちもあったりする。まあ旅に出れば別れるわけだしここにいる間くらいは良いかと思ってされるに任せている。
「イリナもなかなかだと思うよ、ただもう少し機体に慣れないと行けないかな。方向転換がうまく出来なかったでしょ?」
「そうですね、その場で機体の方向を変えるのに手間取ってしまいました」
「ああいった場合は、機体のサポートに任せたほうが良いと思う」
「サポートですか、あまり慣れないもので普段から切っているんですよね」
「セリカもサポートを使ってないみたいだから今回は使わなかったけど、ディーヴァでは普段から使っているから」
「わかりました、今後はサポートを使ってみようと思います」
「まあ結局は本人の使いやすいようにしたら良いと思う、元の世界でも完全マニュアル操作の化け物みたいな人もいたからね」
「そうなのですね」
「まあ例外中の例外だから参考にはしないほうが良いよ」
ケイナ姉さんと合流して今日は施設に戻ることにしたので、模擬戦を見ていたリュウドとセリカとイリナたちと挨拶を交わして別れる。
「戻ったら出発の準備をしないといけないわね」
「だな、情報も十分集まった、問題は他国の施設だろうけどそこはアーシアのハッキングに期待するしか無いか」
「有機体が作れる施設が使えればいいけど、もし有機体を作る設備が無かったとしても部品を回収して設備を直せばいいわね」
「その手があるか、それじゃあ必要な部品をアーシアにまとめてもらわないとな」
「そうね」
姉さんと共に研究施設に入るとアーシアが出迎えてくれる。ほんの少しだけ旅に出ずに、このままここで姉さんとアーシアと共に生きていくのも良いかも知れないなと思っていた。
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