第16話 そろそろ行こうか

「リュウド、あなた達には世話になったわね。そろそろ私たちは旅に出ようと思うわ」


「ケイナの姉さん、こちらこそ機体の修理にオーバーホールや訓練など世話になりました」


 いま俺と姉さんはリュウドに招かれて領主の館に来ている。今の姉さんの姿は白猫ではなく人の姿をしている。その姿はアーシアの予備パーツを寄せ集めたものになっているが、顔の合成皮膚は俺の体というか元の姉さんとそっくりに作られていた。ただ俺の今の身体よりも数年歳を重ねたような見た目になっている。今の俺と二人で並べば姉妹といったところだろうか。


 今の姉さんは生体チップを移植したわけではなく、あくまで白猫の体をヒト型機械体に収めることで動かしている。簡単に言うとお腹をパカリと開ければ白猫が中に入っているという感じだ。


 どうしてこの機械体を用意したのかというと、ディーヴァの操縦が楽になるからだ。白猫のままだと思考操作や音声操作が基本になる、それだとどうしてもタイムラグが発生したり細かな操舵が出来ないということで、アーシアが用意してくれたというわけだ。ただ寝さんは猫の姿のほうが楽なようd,普段はこの機械体は使っていない。


「それでいつお立ちに?」


 いつしかリュウドが姉さんを丁寧に扱うようになっていたがこれには理由がある。機体を使っての模擬戦、生身での模擬戦などでコテンパンにやられたからだ。俺とは違って姉さんは機体運用から格闘戦に武器を使った模擬戦なんかもそつなくこなす。使い慣れていない機械体でも本来の肉体と同様に使いこなせているからすごいと思う。


「何もなければ二、三日後かしらね」


「そうですか、なにか必要なものがあれば手配しましょう」


「ありがとう、なにかあったらお願いするわね」


「それで遺跡の方はどうされるので?」


「私たちが来る前の状態になるわね、ごめんなさいね流石にこの世界の人たちに好きにさせるわけにはいかないのよ」


「いえ、お気になさらずに、少しもったいないとも思いますが手に入れたら手に入れたで争いの種になりますからね」


「そう言ってもらえると助かるわ、それよりも私たちから奪おうとは思わなかったの?」


「あー、最初に招かれるまでは少し考えてはいたんですよ、ただ中に入る時や入った後にこれは無理だと感じましてね。隠されているようでしたがそこかしこから監視といつでも制圧できるようになっているように感じましたので」


「よく気づいたわね、まあそれがなくても各所がロックされているから、私やケイカのように、研究所職員でもない限り十全に施設を利用できないからね」


「残念な事といえば、カフェオレがもう飲めなくなることですかね」


「あらカフェオレでいいなら簡単に作るためのものを数年分用意してあげるわよ」


「本当ですかケイナの姉さん」


「ええ、お世話になったお礼も兼ねて他にも施設にある食料なんかも提供するわよ。どうせ残していても肥料として再利用されるだけだからね」


「助かります」


「セリカとイリナもなにか欲しいものがあれば用意しますよ、特にセリカにはこの世界のことをいろいろと教えてもらいましたからね」


 セリカとイリナは姉さんとリュウドとは少し離れた場所で、俺とソファーに座ってお菓子を食べている。この二人は俺を見たままの性別だと思っているようで、何かと世話になっている。俺もわざわざ中身が男だと言う必要もないと思って言っていないわけだけど、この世界での女性としての振る舞いや考え方なんかを教えてもらえたのは助かった。


 最初は訝しげに思われていたけど、元の世界とこちらの世界で違うのだろうと勝手に納得してくれたので、まあなんだ色々と助かったとだけ言っておこう、詳細は聞かないでくれ。


「石鹸とシャンプーがいただけるなら」


「模擬戦」


 セリカはシャンプーと石鹸をご所望のようだ、こちらの世界だとどちらも存在はするらしいけど貴重で、研究施設に保存されているものに比べると品質がいまいちだった。俺も旅に出るときにはそこそこの量を持っていくつもりだ。


 イリナが言う模擬戦は、同じ機体を使っての模擬戦となる、イリナが乗る機体はかなり昔に壊れて保管されていたものを施設でオーバーホールすることで蘇ったイーファににた機体になる。それと同じものが現在この領地には三機あり、リュウド、セリカ、イリナが使っている。


 たびたびセリカに借りた機体で姉さんとイリナは模擬戦をしていたのだけど、イリナは一度として触れることすら出来ずにいるようだ。そういう事で模擬戦をしたいのだろう。


「石鹸とシャンプーなら俺がレシピを用意するよ、このあたりの素材で作れるようにしたものをさ」


「ケイカさん、ありがとうございます」


 セリカに手を捕まれ見つめられる、感動で目がうるうるしているように見えるけど、流石に大げさではないだろうか。


「一撃入れる」


 いや、まあそれはいいんだけどなぜ俺を睨む、戦うのは俺じゃないからなと思っていたら、イリナに首を振られた。


「ボクはケイカと模擬戦がしたい」


 姉さんに目を向けると頷かれた、どうやら俺が模擬戦をしないといけないようだ。


「わかった、イリナは俺でいいんだな?」


「うん、ケイカがいい」


 最初の出会いは敵対的だったのに、今となってはすごく懐かれているんだけどなにが契機だったのか全くわからない、まあ嫌われるよりはいいと思うけどさ。

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