第15話 機体のエネルギー源

「それでは、まずは簡単に現在の世界情勢を、と言いましてもわかるのはこの国と周辺国のみとなります」


 翌日から早速セリカがやってきて授業が始まった。持ち込まれた機体関係はアーシアが取り仕切っている。セリカは持ってきている紙束の一つをテーブルに広げた。


「まずここが現在地となります、ここから南の荒野を越えた先には禁足地アスガルがあるのですが、ケイナ様はここから来られたのですね」


「ええ、大きな蛇がいたわね」


「よく無事に脱出できましたね、あそこにはミズガルズと呼ばれる蛇が何千年と生きているといわれて……えっ、まさか本当に存在したのですか? 遭遇して無事だったのですか?」


「やーあれは本当に死ぬかと思ったよ、なんなら後で映像記録を見せてあげるよ」


「映像記録ですか? 何かはわかりませんがよろしくお願いします」


 映像関係の技術がないのだろうか、あまりわかっていないように思える。まあ、こうして始まった勉強会は三日続き、大体の世界情勢と地理を知ることが出来た。


 まず俺たちがいるこの大陸はラスプ大陸と呼ばれていて、その端の端にこのオーディル王国があった。魔王が猛威をふるっていた時代では人間族に残された最後の国だったようだ。


 この世界には人族とは別に存在する種族などを一括りで人間族と呼ばれている。俺たちと似た外見をしている人族、主に森で狩猟などをして暮らしているエルフ族、砂漠や荒野で暮らしているダークエルフ族、鉱石などの扱いに長けたドワーフ続、獣の特徴を持った獣人族、有名なのはこんな感じだとか。他にも種族はあるらしいのだけどほぼ出会うことは無いのでとそれ以上は聞けなかった。


 そういった種族が集まり最後の抵抗を続けていた所へやってきたのが所長たち俺たち異世界人だったというわけだ。そこからは敵の使っていた機体を鹵獲し改修と改造をすることで、現地の人たちにも使えるようにして反撃に出た。


 そのうちに他にも同じように飛ばされてきた研究所や施設なども協力して、まずはラスプ大陸を取り戻した。続いてとなりの大陸も取り戻して、魔王が居城を構えていた大陸中央へ攻め入り魔王を倒した後に、大半の人はあちらの世界に帰った。


 そしてゲートの破壊のために一部は残り、一通り後処理を済ませた後は各研究所や施設に戻ったという話だった。それから五百年近く経ったいまでは、世界各国で内乱なんかも起きてたりして、世界情勢は乱れているようだ。


 セリカが帰った後に、俺と姉さんとアーシアがここ以外の施設や研究所に付いて話してわかったことは、ここともう一箇所は日本の研究所と施設なのだけど他の三箇所は他国のだということがわかった。


 その辺りはアーシアが所長から情報共有されていたようだ。なにも知らずに他国の施設に行っていれば中にはいるのにはかなり苦労する事になっただろうな。ただわかっていれば対処法はいくつかある。問題はここのように施設を閉鎖しているかと言ったところだろうか。


 リュウガがまだ若い頃は各施設との定期連絡はとれていたようだけど、リュウガが亡くなると同時にこの施設は完全に閉鎖されて、外部との通信なども行われなくなった。上空に飛ばしている観測衛星も機能を停止させただの目印の役割しか果たしていなかったようだ。


 観測衛星に関しては今は通常運用に移行して情報収集に努めている、ただほかの施設とコンタクトを取ろうとしたのだが、他の施設からの返答は今のところない。そのことからほかの施設もここ同様閉鎖されていると見ている。


 どのみちまず目指すのは同じ日本から飛ばされてきたもう一つの施設、第一研究施設に向かう予定ではある。距離的には千八百キロと言ったところだろうか、元々この第四研究施設は四国にあったわけで、向かう先の第一研究施設は北海道にあった。


 距離的にはあちらの世界でなら二日もあればたどり着けたのだろうけど、あちらの世界のように道が舗装されているわけでも無いので、移動には一週間ほど見ておけば良さそうだ。観測衛星から得られた現在の地理データを元に計算をしても大体同じくらいの日数が導き出された。


 他に得られた知識としては、魔物の存在だ。俺たちの遭遇したあの巨大蛇は例外であれほどの大きさの魔物はめったにいないとのことだった。流石にあんなものが闊歩している世界は嫌すぎる。


 大体の魔物は体内に魔石というものを持っていて、人騎はその魔石をエネルギーとして使っている。魔物については獣型からヒト型、虫型に植物型と色々といるようだ。ちなみに俺たちの世界に侵攻してきてた敵はヒト型の魔物になる、ゴブリンやオーク、オーガなんかがそうだ。


 そいつ等が使っていた機体は魔物自身の身体の中にある魔石をエネルギーとして使ってたようで、機体を鹵獲した機体はそういった魔物の魔石をエネルギーとして使うよう改造された物というわけだ。そういったわけで、魔石はいい値段で取引されているので回収できるなら回収して売れば良いと教えてもらった。


 ディーヴァやイーファの様に元の世界で作られた機体のエネルギー源も魔石ということをアーシアに教えてもらった。このあたりの情報は本来は機密扱いだったけど今は解禁され共有されている、この世界で機体を維持し運用するには必要な情報として許可されたようだ。


 ではその魔石の供給源はというと、あちらの世界に侵略してきた魔物のものを使ったということは容易に想像できる。大体の魔物の魔石は握りこぶしよりも少し小さいくらいなのだけど、メンテナンスの一環で見せてもらったディーヴァの魔石は人の頭くらいの大きさがあった。


 そういえば、敵の中にドラゴンがいたなんて話もあったけど当時は誰も信じていなかった。ただ今回ディーヴァの魔石を見たことで、これがそのドラゴンのものだったのではないかと思えた。


 ディーヴァの普通ではあり得ない武装周りの秘密はこの魔石によるものが大きいのかも知れない。試作実験機とはいえ、色々と盛り込まれている武装の数々を動かすにはこれくらいの魔石が必要だったのかも知れないけど、よく手に入れたなと呆れと共にあの所長ならやりかねないなとも思えた。


 ディーヴァのメンテ、外から持ち込まれる機体の修理、この世界の情報収集と基本知識の習得などなど、気がつけば施設に辿り着いてから十日近く経っていた。

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