第12話 残されていたメッセージ
「四八三年って嘘……ではないのよね」
「はい」
「それじゃあ、所長が言っていたことも全部本当ってことよね」
「はい、私が知る限りでは、ただし所長と皆さまが当施設を出て以降は、一度を除いて外部の情報が得られておりませんのでその後の詳細は不明です」
「えっと、その一度ってのは誰かが戻ってきたって事? その時の記録なんかは残っていないの?」
「はいございます、リュウガ様より当施設を訪れたものに対してのメッセージをお預かりしております」
「へ? リュウガってあのリュウガだよね」
つい聞き覚えのある名前に対して聞いていた、リュウガというのは俺の二歳年下の弟のようにかわいがっていた男の子だ。
「当施設でケイカ様、ケイナ様と共にお暮らしになっておりましたリュウガ様です」
「そう、あの子がね、早速そのメッセージを見せてもらえるかな」
「では、再生致します」
どうやらデータチップとは別にアーシアが直接メッセージを保存していたようだ。アーシアの手首からケーブルが伸び机に接続されるとホロモニターに八十代ほどの男性が映し出された。どこか俺の知っているリュウガの面影のある老人だった。
『アーシア、これで大丈夫かな?』
アーシアに確認をして返答を受けたのか頷いている。
『私の名はリュウガという、このメッセージを残すのも最後になるかもしれない』
そうして始まったリュウガの話は、所長たちと旅立った後からの旅路に付いてと戻ってきてからの話が語られた。途中でアーシアに前回入れたメッセージの整合性を確認している様子も映し出されていた事から、毎回このメッセージは古いものを消して新しいものに入れ替えていたことがわかる。
『この施設を訪れこのメッセージを見た君が、私同様に良き人生を送れることを願っているよ』
そう言ってリュウガのメッセージは終わった。それを聞き終えた俺と姉さんはしばらくの間無言になっていた。
「あのリュウガがね、色々あったみたいだけど幸せな人生を送れたみたいでよかったじゃない」
「そうだね、流石に俺たちより先に亡くなるとは思っても見なかったけどね」
「それも五百年近く前にね」
「はは、そうだね」
「それにしても、所長の話とリュウガの話を合わせると、私たちはもう元の世界に帰れないということになるわね」
「そうみたいだね、でもさ戻りたいかと言われると戻りたいとは思えないかな、どうせ戻ってもろくな人生は送れないと思うからね」
「それもそうね、むしろ五百年後の未来なんて戻ってもどうにもならないでしょうから、むしろ良かったのかも知れないわね」
姉さんの言う通り、戻る手段があったとしても五百年後のあちらの世界に戻っても意味はないだろうね。所長とリュウガの残してくれたメッセージの中身を姉さんとまとめて見ることにした。
「事の起こりは私たちがゲートへ落ちたところからになるのね」
所長がいうには、俺たちがゲートへ落ちた後、襲撃者を巻き込むようにゲートが暴走をして爆発とともにこの研究施設もこの世界へと流されてきたようだった。その時に少なからず三分の二の職員が亡くなったようだ。
この世界にたどり着いた所長たちは、この世界の人たちと接触を持ち、事情を知ることになった。当時のこの世界には魔王と呼ばれるものがいて、その魔王の軍勢が全世界を支配する一歩手前にまで来ていたようだ。
そしてその魔王こそが俺たちの元いた世界を侵略しようとしていた者たちと同一のものだと知ることになった。そこからは所長たちと、この世界の人たちが協力して少しずつ敵の乗る機体を鹵獲し人間でも使えるようにした。
そうして少しずつ魔王軍が支配する地域を開放していき、最終決戦を迎える所で残されたのが所長のデータチップだったようだ。所長がいうには、最終決戦で魔王を倒せたらここには戻らずに魔王軍が所持するゲートを使い元の世界に戻るつもりであることや、戻った後はこの世界の人たちにゲートを壊してもらうことなどが語られた。
そしてこの研究施設はゲートを通り戻ることのなかった俺たちのために、全てをアーシアに託しておくと、もし魔王を倒したうえで元の世界へ戻ることを望まない人たちにも使えるようにしていったということだった。
そして戦いの結果は、リュウガがメッセージに残していた。リュウガと他数名はこの世界に残ることを選んだ。元々調整体ということで戻ってもあまり良い結果にはならないということで、他の施設の者たちと共にこの世界へ残ることにしたようだ。
そう、この世界には俺たちがいたこの施設と合わせて合計五つの施設がこの世界にたどり着いていたようだ。どの施設も敵のゲートを使っての実験途中に襲撃を受け同じように飛ばされてきたのだという。
魔王軍との戦いを終えたリュウガをはじめとする残ることを決めた人たちは、施設の周りに自分たちの街を作り、中には国を作ったものもいたようだ。リュウガは元からこの辺りを収めていた国と交渉をして、この施設の周りを領土として貰い受けたようだ。
リュウガは極力この施設を利用せずに街を発展させていき、毎年記録を残すようにメッセージを上書きして、後の世に何らかの理由でこの施設を必要とするもののためにメッセージを残したということだった。
さて、ここで一つ問題が出てきた。俺と姉さんの身体のことだ。姉さんはこのままでも良いと言っているが、人として暮らすのならやはり人間としての体は必要だと思う。アーシアが言ったようにこの施設では有機体を製造する施設がゲートを通ったことが原因でなおすことが出来ていなかったようだ。
念の為に施設を見せてもらったが確かにどうしようもないほどに壊れ残骸しか残っていないようだった。ではどうするかというと、この施設同様のものがあと四つあるということで答えは決まっているだろう。大体の位置は所長のデータチップに残されていた。
その施設で有機体を作れるかはわからないし、一生涯この施設で暮らすという選択肢もあるが、どうせなら世界を見て回りたいという思いもあった。そういうことで、俺と姉さんは他の施設を巡る事に決めた。目的は俺の体を生成して生態チップを移植することだ。
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