第11話 今は何年後?
「知らない天井……、知ってる天井だな」
目を覚ますと医務室のベッドに寝かされていたようだ。掛けられていた掛け布団を剥がした所で自分が今下着姿なのに気がついた。直ぐ側のテーブルの上に服がおいてあったので着用する。服はこの施設の職員が着ていた制服だったけどサイズが少し大きめでぶかぶかだった。
ブーツが見当たらないので置いてあったスリッパを履いて医務室を出て手術室へ向かう。さて今は何時くらいなんだろうか、姉さんが手術室に入ってからどれくらい時間が経ったのだろうか。手術室の隣室に入るとアーシアが立っていた。
「ケイカ様お目覚めになられましたか」
「寝てしまったようで運んでくれたんだね、アーシアありがとう」
「いえ、少し制服が大きかったようですね、新しい制服をブーツとともに後ほどご用意致します」
「お願いするよ。それで姉さんの方はどんな感じかな」
「予定よりも少し早いですが処置は全て終わっております」
手術室を見てみるとマニュピレーターは見当たらず、丸まっている白猫の乗ったストレッチャーが移動して、控室であるここへ入ってきた。
「姉さん」
俺の声に反応したのか白猫の体がピクリと動いた。しばらく見ていると、白猫は起き上がり室内を見回した後に、俺とアーシアの方を向いて口を開けた。
「ケイカ、ありがとう助かったわ。アーシア久しぶりね、あなたも大変だったわね」
「姉さん、良かった」
「ケイナ様おかえりなさいませ」
アーシアが姉さんに頭を下げて挨拶をしている。姉さんはストレッチャーから飛び降りてアーシアの肩にのる。アーシアはそんな姉さんを落とさないようにバランスを取っている。
「それじゃあ色々と確認したいことがあるから所長室へ行きましょうか、そこに色々と私たちにメッセージが残されているのよね」
「かしこまりました、所長よりお二人へメッセージなどをお預かりしておりますので、そちらも合わせてご説明させていただきます」
「よろしくね、それじゃあケイカ移動しましょうか」
「わかった」
アーシアとその肩に乗る姉さんの後をついて歩き、医療棟から研究棟へと移動する。研究棟というのは名前の通り、様々な研究が行われていた場所だ。俺達が落ちることとなったゲートがあった場所でもあるし、主にディーヴァを始めとする機体や通常兵器とは別の武器の研究をしていた施設になる。
所長室はその施設の最上階である五階にある。エレベーターに乗り最上階へと移動する。普段なら俺たちは来ることのない場所だが、誰に止められることもなく所長室へと入り込んだ。
「ロックなんかもかかっていないんだね」
「後々戻られる可能性のある方たちのために、一部を除いて全ての権限が解除されております」
「そうなんだ」
所長室に入ると部屋が明るくなる。外は既に日が暮れているようだけど、この施設は隠密性を保つために中の明かりが外へ漏れることはない。逆に外の明かりはちゃんと中へ入ってくるような作りになっている。
窓辺に立ち下を除いてみると、そこかしこに明かりがたかれているが、松明や篝火ではないことから、この世界の技術レベルも現代寄りのように思えるけど、流石にこの施設で運用されている技術レベルまではなさそうだ。
「それじゃあアーシアお願いするわ」
所長室の奥にある所長の机の上に乗った姉さんが手招きをするのでそこへ行くと椅子に座るように言われた。所長の椅子なんて初めて座ったがなんというか偉くなった気がする座り心地だった。
「こちらになります、こちらがケイナ様へ、こちらがケイカ様へ。そしてこちらがお二人が揃って戻られた際にとのことでした」
アーシアが三枚のデータチップをテーブルに置く。
「そうね、別に一緒に見てはダメということはないでしょうから一緒に見ましょうか」
姉さんはそう言って、机にあるデータスロットへ尻尾を起用に使って差し込んだ。すると机の上にホロモニターが出現してデータチップのなかみが再生された。
『やあケイナ君、君がこれを見ているということは我々はここへ戻ってこなかったということだろうね』
ホロモニターに女性が映っている、歳は四十歳ほどで黒髪にめがねを掛けている。普段は厳しいがプライベートのときは優しい人だった」
『この映像を記録してからどれくらい後になって君がこれを見ているかはわからないが、我々が戻ってきていない事から君が元の世界へと戻る可能性は無いと思ってもらっていい』
姉さんも俺も所長の話を食い入るように見続けた、まずは姉さんように用意されたもの、次に俺のために残されたもの、最後に二人が揃っている時に見るように残されたものを、そしてすべてを見終わった時にアーシアにあることを確認した。
「アーシア、今はこの映像が撮られてからどれくらいの年月が過ぎているの? そしてその間に戻ってきた人はいたの? 教えてちょうだい」
姉さんの質問にアーシアが何の気概もなく答える。
「この記録が撮られた時より四八三年六ヶ月十七日が経過しています」
アーシアのその答えを聞いて俺と姉さんは顔を見合わせた、姉さんの表情は猫にも関わらず驚いているという事がひと目でわかるものになっていた。
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