第9話 辿り着いたその場所は

 朝日が登るとともに辺りが草原へと変わった。日が昇るとともに進行方向に、研究施設を囲むように街のようなものが目に入る。街は元の世界とは全く違う石造りの不揃いな建物となっているようだ。


「姉さん、目的地についたみたいだよ」


 ディーヴァを勧めながら白猫に声を掛けるが反応が返ってこない。片手で白猫の背中を揺すってみるも同じく無反応だ。


「姉さん!」


 白猫を抱き寄せ閉じている瞳を開けると瞳が赤く光っているのがわかった。


「赤くひかってるって、確かエネルギー残量が殆ど残っていないときだったよな」


 なんでだ、この白猫の体はディーヴァと連動していてエネルギーも自動で補充されるはずなのにどうしてだ? いや今はそんなことどうでもいい、このままじゃ姉さんの記憶が消えてしまう。この街を突っ切って急いで研究施設に行かないとだめだ。


 そっと白猫の体を脇において、ずっと歩かせていたディーヴァを走らせる。街の住人がディーヴァに気がついたのか逃げ出すのが見えたがそんなのかまっている暇はない。ただまっすぐに研究施設を目指す。途中にある建物をなるべく壊さないように進めるが、そのせいでうまく進むことができないでいる。


『おい、そこの人騎止まれ!』


 俺は静止の声を振り切り街中を駆け抜ける。追ってくるのは見たことのない二機の機体、ベースは元の世界へと侵攻してきていた敵の機体に似ているような気がする。


『くそっ、応援を呼べ、これ以上遺跡へ近づけさせるな』


 銃などの遠距離武器がないのか、はたまた街への被害を気にしてか、攻撃をしてくる気配はない。


「姉さん、もう少しでたどり着くから耐えてくれ」


 全く動く気配のない白猫に語りかける。泣いている場合じゃないのに涙が溢れて視界がぼやける。前方にディーヴァの進路を塞ぐように敵機が複数現れる。


「背面スラスター起動」


 ディーヴァの背中からスラスターが飛び出し爆音とともにディーヴァが空を舞う。そのまま敵機の上を通り抜けたところでスラスターを切り再び駆け出す。もう少しだ、もう少しで入口が──。


『貴様何者だ、ここは我が伯爵家が管理する遺跡だぞ』


 どこかディーヴァに似た、いやディーヴァ型量産機イーファが研究施設の入口を塞ぐように立ちふさがっている。


「邪魔をするなー!」


 外部スピーカーで叫んだ俺の声に驚いたのがイーファが若干戸惑うように動きを止める。


『女の子?』


 その隙に再び背面スラスターを使いイーファを飛び越え研究施設の入口まで辿り着いた。研究施設は稼働しているようで、事前の入所申請は普通に受理された。そのおかげでタイムロスなどもなく格納庫へ入ることが出来た。


 格納庫に入るとディーヴァを膝立たせ搭乗口を開くと白猫を抱いて機体の外へ飛び出す。ディーヴァは膝立ちしても搭乗口から地上までの高さは十五メートルほどある、だけど調整体である姉さんの体ならこれくらいの高さは問題なく飛び降りることができる。一気に飛び降り膝の屈伸を利用して着地した。


『おい、待て!』


 閉まり始めている格納庫の入口から呼び止める声が聞こえたが無視をして施設内へと進む。ちらりと背後に目をやると、防衛システムに阻まれたイーファが格納庫に入れずにいるのが見えた。


 俺が施設内に踏み込んだタイミングで施設の機能が目を覚ましたようで、あかりがつぎつぎとついていく。


「誰かいないか」


 俺の声に反応をしたのか、施設の奥の方から足音が聞こえてくる。しばらく待っているとメイド服を着た女性が俺の前まで来て立ち止まった。


「おかえりなさいませケイナ様、所長よりメッセージを承っております」


「アーシア、それは後回しにして姉さんを助けてくれ」


 俺は抱いていた白猫を目の前の、ヒト型補助ロボットRCA通称アーシアに指し示す。


「承知いたしました、詳細は後ほど伺いましょう」


 ストレッチャーが滑るようにやってきたのでここに姉さんを降ろす。するとストレッチャーから複数のマニピュレーターが白猫の体を調べながら移動を始める。


「それではケイカ様どうぞこちらへ」


「俺がケイカなのがわかるのか?」


「失礼かと思いましたがケイカ様とケイナ様をスキャンさせていただきました」


「そうなんだ、それより姉さんは助かるよな」


「エネルギー不足と何らかの負荷により生態チップが限界を迎えております、現在応急処置をしておりますので問題はありません」


「そうか、助かったよアーシア」


「いえ、それよりもこの後です。残念ながら当施設ではクローニング及び有機体の作成が不可能となっております、ですのでケイカ様とケイナ様の新しいお体を生成することができなくなっております。ですので、ケイナ様の処置はどういたしましょうか」


「なぜできなくなっているんだ?」


「この地へと辿り着いた時点で設備が深刻なダメージをおいまして修復可能となっております」


 だとすると、俺はまだ姉さんの体のままということか。いや有機体が無理なら俺と姉さんのチップを交換したらいいんじゃないのか? ここの施設なら多分可能だろう。それをアーシアにたずねてみると、それも無理だということになった。


「それじゃあ姉さんはどうなるんだよ、その白猫の中にあるチップは限界なんだろ」


「それでしたら緊急処置として施設内に残されているケイナ様の記憶データと現在の生態チップ内のデータを統合して、新しい生態チップをそちらの死と猫へ戻すことは可能です」


「その整体チップをこの姉さんの体に入れることは出来ないのか?」


「現在のこの施設では不可能です」


 つまり現状では出来ないってことだな、まあ仕方がない。姉さんが無事なだけでもよかったって考えないとな。医療棟へ辿り着いた俺たちは手術室へとたどり着き、手術の準備が始まる。俺は手術室の外からガラス越しに手術の経緯を見守ることになった。

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