第8話 進むは荒野
崖から下のほうを覗き込むと、雲に覆われていて地上がどうなっているのか見えなかった。背後の上がってきた方を見ても見える範囲は雲で覆われていてあの大蛇の姿も見えない。
「今日はこのままここで夜を明かしましょうか」
「それが良さそうだね」
大蛇からの逃走で緊張していた体をほぐすように軽くストレッチをする。少し休んだおかげか目が冴えてまだ眠れそうにない。
「ちょっと外の空気を吸ってみようと思う」
「眠れないならそれも良いかもしれないわね」
姉さんには俺がまだ眠れそうにないのがバレバレだったようだ。ホロモニターを操作して搭乗口を開くと外から冷たい空気が中に入ってくる。専用スーツを着ているおかげで寒くはないが、吐く息が白いことから空気の冷たさがわかる。
「標高が高いからか空気が冷たい」
「そうみたいね、今の私にはわからないけど」
「あー、ごめん」
「何を謝っているのよ、私は気にしていないわよ」
「うん」
空を見上げると、俺達が目指す場所である観測用の衛生が放つ赤い光が、最初に見つけたときよりもかなり近い位置にあるのがわかった。
「あそこの下まで後何日くらいかかるかな」
「そうね、三、四日といったところかしらね」
「そっか、それくらいで着くなら水も大丈夫そうだね」
「水ならほら、ケイカが出したものを浄水したのがあるから大丈夫よ」
「出したものを浄水? えっ、そうなっているのあれって」
「そうよ言ってなかったかしら?」
「き、聞いてないよーーーー」
「いざという時の大事な水分だからね」
「くっ、極力今ある水を節約する」
「無理はしないようにね、夜明けまでそれほど時間はないけど少しは寝なさい」
「わかったよ」
ディーヴァに乗り込み座席を倒して横になり目を閉じる。
「それじゃあおやすみ姉さん」
「おやすみケイカ」
姉さんと話したのが良かったのかすぐに寝ることが出来た。
◆
side:ケイナ
少し無理をしたかも知れないわね。でも無理をしただけのことはあったわ、おかげでこうして無事に脱出ができたのだから。
私の体のケイカはよっぽど疲れていたのか気持ちよさそうに寝ている。死にかけたケイカに体を明け渡したことを私は後悔はしていない。ケイカは私の大事なたった一人の弟なのだから、あのまま助けずにいたら私はきっと目覚めた時、みずから命を絶っていたと思うわ。
見知らぬ場所、見知らぬ世界、そんなところでたった一人、それも死んだケイカを目の当たりにして生きていようとは思えないものね。後悔があるとしたらこの白猫に搭載されていた記録チップが旧式だったことかしらね。そのせいでいくらか記憶が飛んでいるし復旧の見込みはない。ただ研究施設へたどり着ければもしかしたらという思いはある。
ただ研究施設が今も稼働しているかは疑問に思っている。偵察用衛生に何度かアクセスを試みているのだけど、あちらからは全くの返答はない。この距離なら双方向でやり取りできるはずなのだけどね。その事からあちらからこちらへアクセスする手段が無いのか、アクセスを試みられる人材が存在しないのか。
私としては後者なきがしているが、ただ衛生を飛ばした人物はいるとも思っている。それもこれも研究施設にたどり着けばわかること。どんなに時間がかかっても一週間もあればたどり着くと思っている。
ただそれまで私のこの体が持てば良いのだけどね……。
◆
姉さんの様子が少し変に思えた。なにもないタイミングで言葉が止まったり、眠っている時間がなんだか多くなった気がする。無理やりエネルギーを使った影響だと思うが今の俺には何も出来ない。できることと言えばなるべく早く研究施設にたどり着くことだけだ。
断崖を超えた先は中のような森林ではなく、荒野が広がっていた。進み続けて二日経ったが途中で何度か戦闘も発生した。襲ってきたのはディーヴァの半分くらいの大きさのワームだった。突然地面から襲ってきた時はびっくりしたが、ブレードで倒すことが出来たのは良かったが、ワームの体液がディーヴァにかかり気持ち悪かった。
他にも二足歩行のトカゲを見かけたが、ディーヴァを見ると逃げ出していった。リザードマンとでも言えば良いのだろうか、ああいう生物を見るとやはりここは異世界なのだなと改めて思った。
「姉さん大丈夫か?」
「ええ、大丈夫よ」
姉さんは大丈夫だというが、前まではゆらゆらさせていた尻尾も力なく垂れている事から、あまり大丈夫ではなさそうだ。
「距離的にあと一日くらいだよな、このまま徹夜で進むからなんとか耐えて欲しい」
「ケイカ無理はしなくていいからね」
「こんなの無理なうちに入らないよ」
障害物のない荒野だから偵察衛星を目印に進んでいく。偵察衛星は相変わらず反応を返してこない事が心配だ。生きている人が誰もいないくらいならまだいいが、施設の設備が使えないようだと姉さんを診ることが出来ない。
不安が募るが今はただ進むことしか出来ない。スリープモードになっているのか丸くなって全く動かない白猫の体を軽くなでてからディーヴァを進める。姉さんお願いだから俺を独りにしないでほしい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます