第7話 ぎりぎりの脱出

「姉さん、起こしたついでだ、あれを踏み台にして一気に断崖まで行く」


「わかったわ、周囲の警戒は任せなさい」


 わざと蛇の巨体を飛び越えないで、一度スラスターを切って鱗に覆われた体へと着地してディーヴァを駆けさせる。嫌な予感がしてディーヴァを走らせながら蛇の頭に視線を向けると、先程よりも近づいてきている気がする。


「姉さん、あれヤバくない?」


「ケイカ急ぎなさい」


「わかっているって」


 蛇の体のギリギリまで駆けた所でその巨体を蹴り、再びスラスターを全開にしてディーヴァを空へ飛ばす。まだかなりの距離があるはずなのに、赤い一対の光がどんどんと近づいてくるのがわかる。


 スラスターエネルギーの限界ギリギリまで使い切ってから地上へ降りて駆け出す。スラスターが再び使えるまでは走るしか無い。先程よりも一対の赤い光、蛇の瞳がこちらに近づいてくる。


「あいつまだ追ってきてるよ」


「もしかするとあの蛇の縄張りってこちらがわ全部なのかも知れないわね」


「どんだけ広いんだよ」


「内側に比べれば狭いと思うわよ」


「そりゃそうだけどさ」


 ディーヴァによって自動処理された視界にはすでにディーヴァを丸呑みできるくらいの蛇の顔が迫ってきているのが見える。


「ケイカ、めいっぱい近くで照明弾を撃ちなさい」


「それだ! 照明弾装填」


 音声認識に従ってエネルギーライフルの弾が照明弾へと切り替わったのを確認する。それをディーヴァの腰のホルスターから抜きとり手に持たせる。段々と近づいてくる前方の断崖と巨大なヘビの顔。


「姉さん!」


「わかっているわ」


 蛇の頭に追いつかれる前に断崖までたどり着くことが出来た。


「反重力グラビティゼロ起動」


 姉さんの声と同時にディーヴァは断崖の壁を駆け上がりはじめる。反重力と言っても完全に重力の楔から解き放たれるほど強力なものではないが、それでも一時的とはいえディーヴァの重量をかなり軽減できる。


 ディーヴァが断崖を駆けるのを追って蛇が大口を開けて迫りくる。その大きさはディーヴァの五倍以上の大きさに見える。


「照明弾撃つよ、操縦お願い」


「了解、やっちゃいなさい」


 姉さんにディーヴァの操縦を任せてエネルギーライフルを構える。くるりとディーヴァの上半身だけが反転される。全周天モニターの正面に蛇の顔がドアップで映り込み、その大きさにビビりながらも照準を合わせて照明弾を放つと同時に再びディーヴァの上半身が反転される。全周天モニターが照明弾の光を遮るように一瞬暗くなるが構わず壁を駆け上がる。


「ケイカ、あの蛇まだ追ってきているわ、どうやら照明弾は効かなかったようね」


「やっぱり目を頼らないでピット器官を使って追ってきてるってことだな」


「そうだと思うわ」


「このまま走って逃げられるかな」


 姉さんは俺の背後を確認してから首をふる。


「無理そうね、こうなったら一か八かグラビティゼロを切って全エネルギーを背面スラスターに送り、全開放で崖の上にでるしかないかしら」


「それしか無いかっ」


 背後に蛇の口が迫る中、タイミングを見計らい壁を蹴る。


「グラビティゼロ停止」


 ガクンと機体が重力に引かるが、そのおかげで蛇の口から逃れることに成功した。目の前を蛇の頭が口を閉じ通り過ぎる。


「余剰エネルギー背面スラスターに供給開始」


 ディーヴァに狙いを定め蛇が一度下がり、再び飲み込もうと大口を開け迫ってくる。


「腕部アンカー射出」


 アンカーを上へと飛ばし壁に打ち込み無理やり機体を上方へ引き上げる。蛇は再び噛みつくタイミングをずらされ、蛇の顔がディーヴァのすぐ下へとうまくその鼻っ面にディーヴァを着地させそのまま鼻先を蹴って更に上へと飛び上がる。


「ケイカ準備できたわよ」


「オーケー、背面スラスター最大開放!」


 背後に再び蛇の顔が迫る中、普段は収納されている背面スラスターが飛び出し、最大出力でその力が開放される。スラスターの炎を顔に浴びた蛇はなんとも言えない叫び声を上げ、空気を震わせながら倒れていくのをモニター越しに確認できた。


 ディーヴァはそのまま上昇していきいつしか雲を突き抜け、ついに断崖の切れ目が見えた。だけどそこでエネルギーを使い果たしたのかスラスターが突然停止した。


「もう少しだけ行けーーーー!」


 残りの全エネルギーを無理矢理スラスターへと供給させるが、それも一瞬の事で内部電源までもが落ちて機内は暗闇に包まれた。ダメか、折角ここまで来たというのに……。


「まだよ、腕部アンカー射出!」


 白猫の体が一瞬だけ光り、僅かな間だけ機内に光が満ちた。それと同時に姉さんの声に応えるように、ディーヴァがアンカーを射出したのが全周天モニターに映し出され再びモニターが消えた。


 ディーヴァが壁にぶつかった衝撃が機体内部に伝わってくるが、落下による浮遊感は感じられない。


「「はー、なんとかなった」わね」


 ほぼ同時に同じ言葉を発したことがおかしくて、姉さんと顔を見合わせて笑った。暫く笑っていると機内の電源が復帰した。ホロモニターを見るとエネルギー残量が一%と表示されていた。


「エネルギーがある程度回復したら上に上がりましょう、それまでケイカは休んでなさい」


「わかったよ、姉さん」


 姉さんにそう答えて、俺は座席に深く座ると目を閉じた。

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