第6話 巨大な蛇
「こなくそーーーー」
空中で足裏のスラスターを吹かせて無理やり回避行動に移る。遠くに見えた巨大な蛇の顔はこちらを一瞥しただけで地に伏せるのが見えた。見えない壁のようなものにぶつかったと思ったら、その見えない壁が色づきとっさに飛び下がった。
「はぁ、何だアレは」
「蛇なのかな……それにしては大きいわね」
「大きいなんてもんじゃないだろ」
モニターに映し出されているのは、鱗に覆われた長大な体だ。パッと見ただけでもディーヴァの五倍ほどの高さがありそうだ。その全長は森の木々にかくれていて正確にはわからないが、ここからではその全体が見えないほどの長さがあるようだ。
森を進むこと一週間、二日ほど前から見え始めた断崖へ向かい進んできた所で出くわしたのがこのでかい蛇とも竜とも言える存在だった。最初の邂逅はあまりにも高い断崖を見上げながら進んでいた所で、大きな大木が横たわっていると思いその上へと飛び上がり着地したときだった。
急に揺れ動いた足下に地震かと思い驚きながらあたりを見回した時、その顔とモニター越しに目があった。かなりの距離があるはずなのにあまりにも大きい頭だった。その時になって足下のそれがこちらを見ている大蛇の体なのだとわかり逃げ出す羽目になったのが先程のことだ。
「姉さん、あれって倒せると思う?」
「どうかしらね、手持ちの武器だと難しいのではないかしら」
「だよなー、あの鱗の感触だとこっちの銃なんて豆鉄砲と変わらないよな」
「ブレードも効かないでしょうね」
「ならアレを避けて進んで、どこか登れる場所を探ささいと駄目だろうな」
全周天モニターで、ぐるりと周りを見てみるもどこまでも続くと思われる断崖がそびえ立っているのがわかるだけだった。どうやらこの場所は巨大な窪地になっているようで、進んでいるうちに標高が少しずつ高くなっているのがわかった。
いやもしかするとこちら側だけに断崖があるのかも知れないが、今更反対側に同じ時間を掛けて進むには食料が心もとない。断崖までの距離はまだあるが、そこまでたどり着くことができれば登るのはどうにでもなると思う。それだけのスペックをこのディーヴァは持っている。
「このあたりに動物なんかがいないのはアレが原因なんだろうな」
「あら、見てケイカあの蛇の体が透けていくわ」
「うわっ、迷彩まで付いているのかよ、本当にアレは生物なのか?」
動かなくなっていた大蛇がいつしか、その姿を背景へと溶け込ませるようにあやふやとなり、目を凝らしてよく見ないとその存在を捉えることができなくなっていた。モニターの表示をディーヴァに自動処理させることで問題なく見えるが、肉眼だと全くその姿を捉えることは出来ないと思う。
「とりあえず行動するなら夜まで待ったほうが良いかな」
「蛇って夜行性だったかしら? ただピット器官で感知しているのならどうにかなるかも知れないわね」
「ピット器官って熱感知のやつだよな」
「ええそうよ。とりあえず夜になればディーヴァの装甲温度も下がるでしょうから見つけられにくくなるのではないかしら」
姉さんが尻尾をゆらゆらと揺らしている。
「まだ夜まで時間があるし迂回できないかを調べるか」
「それが良いわね」
先程こちらを見ていた頭とは逆方向に進んでいく。視界にはディーヴァによって自動処理された蛇の巨躯が見えている。かなり進んだはずだけど未だに蛇の巨躯は途切れない。一キロほどの長さかと思ったけどどうやらそれは間違いだったようだ。進み始めた頃はまだ昼前だったのに、すでに日が沈み始めている。それなのに未だに大蛇の体は途切れない。
「こいつどれだけ大きいんだよ……、深夜になるまで休憩するか」
「そうね、私が警戒しておくからケイカは一度寝なさい」
「そうだな、頼むよ姉さん」
シートベルトを外し軽くストレッチをしてから座席を倒して横になる。もしかしてこの蛇はこの窪地をぐるりと囲んでいるんじゃないだろうな……、流石にそれはないか。
◆
「ケイカそろそろ起きなさい」
姉さんの呼ぶ声で目を覚ます。寝起きが良いのですぐに意識は覚醒する。
「なにか変化はあった?」
「なにもないわね、動きすらしていないわ」
「それじゃあ超えて行かないとだめか」
ディーヴァのモニタ越しに見えるのは巨大な壁のような鱗に覆われた体。あれにバレないように超えていくのは可能なのだろうか。
「最初にあいつの頭を見たところからここまではかなり距離があるはずよ、あの頭が私たちを見つけて何らかの攻撃をしてくるまでは時間があるはずだわ」
「見つからないのが最善、見つかっても全力で逃げればどうにかなるか」
「わからないけど、これだけ進んでも途切れないことから超えていくしか無いと思うのよ」
「それしかないか、スラスター全開で飛び越えることができれば良いんだけど」
「ディーヴァとともにタイミングを計算しておいたからタイミングは任せてちょうだい」
「了解、それじゃあ行くか」
なるべく音を出さないように蛇の巨躯へと近寄っていく。
「ここから飛べばうまく超えられるはずよ」
「わかった。これよりディーヴァを戦闘モードに移行、音声入力に切り替え」
その場で飛び上がりながら背中と足裏のスラスターを吹かす。機体の中からでもわかるほどの轟音が辺りに鳴り響いてるのがわかる。その証拠に先程まで全く動きを見せなかった壁のような蛇の鱗がうごめいているのがわかった。かなりの遠くから一対の赤い光が暗闇の中でもはっきりとこちらを見ているのがわかった。
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