第5話 ここに来る前
森を進み始めて今日で三日が過ぎたがまだ森を抜けることが出来ないでいた。途中で湧き水を見つけられたので、しばらく水に困ることはない。ちゃんと飲めることは確認済みなのでお腹を壊すことはないと思う。
食料の方だけど、カロリーバーは三日に一本食べれば問題ないし残りはまだある程度ある。水も確保できたしサプリも1ヶ月分くらいはあるだろうか。そこらの獣やら虫を食べることは考えたくないけど、一ヶ月以内に研究施設へたどり着けなければその辺りも考えないといけない。
それと今のところ脅威となる動物や敵とは出会っていない。移動中は自動制御で進んでくれるので結構暇だったりする。そういう事で移動しながら姉さんと情報のすり合わせをした。
「それでさ結局なにがあったと思う?」
「襲撃のこと? そうねどこかからゲート実験に関する情報が敵に漏れたのではないかしら」
「やっぱりそうなのかな、研究施設って前線とは離れたところにあるからな、目的もなく研究施設を襲うには無理があるよな」
「それに、他の施設には目もくれずに実験準備をしている所に直接来たみたいだったわね」
「そうなのか?」
「ケイカはまだ思い出せていないかも知れないけど、あの時は襲撃されるまで警報のたぐいは全くなってなかったのよ」
「ごめん、やっぱ思い出せない」
「ケイカは搭乗する時に怪我をして死にかけていたからね、前後の記憶が飛んでいても仕方がないわ、うまく記憶の移行が出来たかもわからないし」
「いや姉さんは悪くないから、そう言えばその時の様子ってディーヴァに記録されてないのかな」
「あの時はディーヴァが待機の状態だったからね、記録されていないみたいよ」
「結局俺が怪我をして、敵の攻撃を受けてそのままゲートをくぐったってことだよな」
「その前にケイカの治療をしようとしたのだけどね、傷は酷いし戦闘は激しくなるし、敵の攻撃でゲートに落ちてしまって、コールドスリープの始まるまでの僅かな猶予で記憶の移行を済ませたのよ」
「そして姉さんはその白猫にってことだな。改めてお礼を言わせてもらうよ、助けてくれてありがとう姉さん」
「どういたしまして」
お互い顔を見合わせて「「ふふふ」」と笑いあった。ゲート自体が元々は敵が使っていた技術なので、まだ色々と解明されていない事が多い。ただゲートを人間がそのままくぐるには危険だという事はわかっていた。そしていくつかの実験を重ねて提示された解決方法が、ゲートに入ってから抜けるまでコールドスリープによる仮死状態となることだった。
そして満を持して俺と姉さんがゲートを通って異世界へたどり着けるかの実験当日に襲撃が有り、今に至るというわけだ。ただわからないのは俺達が現在目指している研究施設の情報収集衛生がこの世界にあることだろうか。
流石に施設を通せるようなゲートは作られる予定も技術もなかったはずだ。敵から鹵獲し今回実験で使おうとしたゲートでさえまだ解明できていないと聞いている。そしてその情報が敵に知られていたというのは問題だろうな。今となってはその情報も伝えることが出来ないのだが。
「そういえばさ、結局ゲートを抜けてから何日くらい過ぎてたんだろうな。ディーヴァに絡まっていた蔦の状況からして一日や二日ってことはないよな」
「正確にはわからないけどコールドスリープが発動してから解除されるまでに一ヶ月は経っているわよ」
「えっマジ?」
「記録ではそうなっているわね、私もこの白猫に移行した影響でゲートの中を移動している途中でスリープ状態になっていたみたいでね、目を覚ましたのはケイカが目覚める少し前だったのよ」
「もしかしてあの転がってきたときか?」
俺が前部座席で隔壁の開放操作をした時のことだ、あの時後部座席から転がってきたからな。
「その前ね、その時にコールドスリープ解除の操作をしたのよ。別にあそこに隠れていたわけじゃ似合わよ、コールドスリープが解除されるまで一時間移乗かかるって表示されてたからスリープモードにしていただけだからね」
「そうだったのか、姉さんが解除してくれなければ、いつまで仮死状態だったんだろうな」
「そうね、本当ならゲートを超えたタイミングで解除される設定だったはずなんだけどね、後で一度チェックしておいたほうが良いわね」
「そうするよ、もう使うことはないかも知れないけどな」
「もし帰りのゲートをくぐる時必要でしょう」
「それもそうだな、なんだかもう帰れない気がしていた」
「わからなくもないわ、ゲートは敵が持つ技術だからね、それを使おうとするなら敵の本拠地に乗り込むことになるでしょうからね」
気がつけば日が沈みかけて辺りが暗くなり始めていた。
「今日はここまでかな」
「そうね、夜の移動は控えたほうが良いわね」
あたりを見回し隠れられそうな場所を探す。ディーヴァがもたれかかっても問題なさそうな大木があったのでそこにディーヴァを座らせて待機モードに切り替える。こうすることで自動でステルス状態になりレーダーなどに反応しなくなる。動物や適性生物にどれだけ効果があるかはわからないが、敵機から見つかる可能性は減らせる。
ずっと座った状態だったので伸びをしたりストレッチをして体をほぐす。水とサプリを飲んで座席のシートを倒して寝転ぶ。全周天モニターには綺麗な星空が映されている。そして赤い光を放つ衛生も映っている。
「姉さんお休み」
「おやすみなさいケイカ」
そろそろ森を抜けられないかなと思いながら目を閉じ、俺は眠りについた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます