第4話 目指す先
「姉さん、起きて」
俺は追い込まれていた、これを解決するには姉さんが必要だ。ゆさゆさと白猫の体を揺すって寝ている寝さんを起こそうとする。
「ふぁぁ~、どうしたのよケイカ」
「姉さん大変なんだどうしよう」
「いったいどうしたのよ」
「──ってどうしたら」
「今なんて言ったの、もうちょっと大きな声で言ってくれない?」
「だから、トイレってどうしたらいいんだよ」
目の前の白猫の表情が「何言ってるのこの子は」と呆れ顔に見える。いや猫の表情とかわからないけどそういうふうに見えている。いやそれよりもトイレだ、そろそろ我慢の限界なんだが、どうしたらいいんだよ。
「そのまましちゃえば?」
「ふぁっ! 何いってるんだよ」
「専用スーツを着ているのだからそのまましても問題ないわよ、ケイカのスーツも対応していたはずだけど」
「そうなのか?」
「とりあえず座席に深く座りなさい」
姉さんの言う通りに座席に座る。
「それじゃあ、そのまま出していいわよ」
「そっかーっておい」
「ポチッとな」
姉さんがそう言ってから尻尾で器用にホロモニターを操作するとシートベルトが俺を椅子に固定した。
「ちょーーー、こんな時に冗談は」
抜け出そうとしても抜け出せない。シートベルトを解除しようとした時、ついに俺は限界を迎えた……。
俺の精神が復活するまでしばらくお待ち下さい──。
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「もうお婿に行けない!」
手で顔を覆って首を振る。きっと俺の顔は真っ赤になっていることだろう。
「お婿って、いまのケイカは女の子でしょうに、私としても自分のあんな表情を見せられるとは思わなかったわよ」
「そんなこと言われても自分じゃどういう顔をしてたかわからないし」
「それに戦闘中なんかで急にしたくなったら、今回の様に処理するのだから慣れておきなさい」
「こんなの慣れたくない」
なにがあったかはご想像にお任せしようと思うが、特に汚れることはなく綺麗に処理されているし、スーツの中も清潔だ。ただ俺の尊厳が色々と危なくなっただけの話だ、なんというかその開放感的なものやスーツを着たままいたすという背徳感的なものがあれです、はい。よしもうこの話は終わりだ。
気を取り直して水と栄養剤を流し込み食事を終える、カロリーバーは食べずに温存しておく。このままここでじっとしていてもそのうち食料が切れて積むことになる。その前に食料や水を確保したいし、元の世界に帰る手立ても探さないといけない。一番いいのは友好的な現地人を見つけることができればいいのだけど。
「姉さんどちらの方向に進むのが良いかな」
「そうね、その前に今いる山の頂上まで登ってみるのはどうかしら、そこから見渡せばなにか見つかるかも知れないわよ」
「わかったよ、それじゃあまずは頂上を目指すか」
ホロモニターを正面に持ってきて、機体をチェックする。特に問題はないようなのでそのまま起動させると、ブゥーンと起動音が鳴ってホロモニターに各種パラメーターが表示され機体が起動する。
この機体は試作実験機ディーヴァと呼ばれている。誰がその名前をつけたのかは知らないが、Divine(神聖な) valkyrie(ヴァルキュリア)からdivaとなったようだ。ご存知の通り二人乗りのディーヴァなのだけど、前後の座席で特になにか違いがあるわけではない。複座の理由は色々あるようだけど俺は詳しく知らない、姉さんなら色々知っているようだけど。
全天周囲モニターが一つの欠けもなく表示される。後ろだけはディーヴァが寝かされているために真っ暗のままだが、ディーヴァの上体を起こすと問題なく映っているのが確認できた。人と変わらないくらいに滑らかな動きをするディーヴァだが、その動きはBMICをトレースする事により実現している。
つまりディーヴァは究極的に自分で操縦をしなくても思考するだけで動かすこともできる。ただそうしてしまうと操縦者の脳に負荷がかかるために普段はセーフティーがかかっている。
山は結構な高さがあるようで登り切るまでにそこそこの時間がかかった。頂上まで登りきった所で周りを見回すが見える範囲全てが森で木々に覆われていた。ただ一点だけ昼間だというのに遠くの空に赤い光が見えた。
「姉さんあれってもしかして」
姉さんに声を掛けながら望遠で赤い光を拡大する。
「まさか、どうしてあれがここに」
拡大された赤い光、それは研究所が打ち上げたであろう観測用の衛生だった。見間違えるはずがない、あの赤い光は毎日研究施設から見ていたものだ。
「もしかしてあそこへ行けば研究施設があるのか」
「その可能性は高いわね、流石に敵があれを打ち上げたとは思えないわ」
試しにデータ通信を試みてみたけど、距離があるためかもしくはデータの送受信がされていないのかわからないけど、情報を得ることは出来なかった。
「姉さんあそこを目指せば良さそうだね」
「そうね、それが一番生き残る可能性が高いと思うわ」
「よし目的地は決まったな、行こうか姉さん」
俺は研究施設のあるであろう方向へとディーヴァの歩みを進めた。
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