第51話 秘書
「「しゃ、しゃ、しゃ、借金んっ!?」」
声が裏返るパパとママ。
「はい」
爽やかなマルコ。
「ハジテメノ洞窟で倒れてる所に出会ったんです」
経緯を話し始めるマルコ。
「それで、起きた所に3人が帰って来たんです」
聞き取りやすい柔らかな声で語るマルコ。
話は進む。
「2人が人前なのにいつも通りに振舞ったものですから、アビノンもびっくりしたんでしょうね。クモネコみたいなんて言っちゃって」
「「くも゛っ……!!」」
ハハハと軽やかに笑うマルコと、我が子の非常識極まりない暴言に青くなるパパとママ。
「その後、お腹が痛いって倒れちゃって。エルフ病って言うんですね。初めて知りました。僕が出した食事のせいだーとか言われちゃって」
ハハと苦笑いするマルコ。
青ざめるを通り越して息が出来ないパパとママ。
エルフの生態を隠しているのはエルフだ。なので、エルフの食性などを人間が知らないのは割りと普通だ。
なので、国を出たエルフは自己防衛と自己責任が基本となる。与えられたものを判別せずに食べ、しかも、命の危機を救ってもらった相手にお前が渡した食事のせいだなど、絶対に通用しない。
その仕組みを作ったのはエルフだ。
騎士団長を務めるだけあってビシウィはその辺の事情に明るい。
だから息が出来ない。
「次からは気をつけろって許してもらったはもらったんですけど」
ハハと笑おうとして笑えてなかったマルコ。
「「ヒエエッ」」
美の女神が一目惚れするレベルの美形の目が笑ってないと………ものすごく怖い。
パパとママの顔は滝のような脂汗にまみれている。
〖フェノン…助けてあげて〗
〖フェノン! アンタしかムリよ!〗
このままでは血でも吐きそうな2人の姿にいたたまれなくなったリナとメルが頼れるリーダーに応援を頼む。
〖………〗
しかし、フェノンは人好きのする穏やかな笑みを浮かべたままだ。
『『あ、これムリなヤツだ』』
2人は悟った。
〖〖…うん…〗〗
2人は小さく頷き合う。
〖内容はともかくずっと聞いてたい声よね〗
〖至福〗
全てを無視して、マルコの声に溺れることにした。
「と、ときにしゃ借金というのは、いかほどで…?」
プルプル震えながら、ビシウィが尋ねる。
話を聞く限り明らかにアビノンの不手際だ。
それに救国の英雄であるし、短い付き合いの中、多少、思い切りのいい人柄とはいえ、理不尽なタイプでもない。
で、あるならば筋を通せば理解はしてもらえるだろうという結論である。
それに、いっても一国の護衛を預かる騎士団の団長。
それなりに稼いではいる。
入院費と多少の迷惑料程度であればなんとかなるという自負もある。
ビシウィの質問に、ニコニコしていたフェノンがするりと書類を出す。
新進気鋭の青年実業家と、優秀な秘書のようである。
書類は当然、借用書の複写である。
その封筒にある仲裁者の判にドキリとするビシウィ。
その効果は立場からよく聞き及んでいる。
ドキリとする反面、安心する。
仲裁者は公平で公正でなければならないから。
「こちらが書面になります」
優雅な所作で提示される書類。
ビシウィも大人の余裕をもってゆったりと確認…なんてできなかった。
ひったくるように書類をつかむ。
「な゛」
その額面にビシウィが固まった直後、後ろから覗き込んだママエルフが気を失った。
リナとメルが慌てず立ち上がると、手際よく介抱を始めた。
「こ゛れ゛は゛…」
なんとか絞り出たのがこれだった。
ビシウィは失念していた。
ほぼ自給自足、鎖国状態の国の
「2枚目に、明細がありますのでご確認下さい」
敏腕秘書は
「3枚目には、仲裁者の考えた返済プランがございます」
明細などどうでもいい。仲裁者が確認したのだ。バサッバサッと紙をめくるビシウィ。
「………」
穴が空くほど返済プランをにらむ。
「……払える」
ポツリとつぶやく。
「払える! これなら払える! 払えるぞー!!」
遂に叫ぶビシウィ。
楽ではないが。
ウソだ。ちょっと見栄をはった。
正直そこそこキツいが、なんとかなるプランが書いてあった。
安堵でへにゃへにゃと崩れ落ちるビシウィ。
「たっだいまぁー」
そこに新たな声が響いた。
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