第50話 溶けたアイスクリーム
「……アビノンさんはいない、ですか?」
「……まだ帰って来ておられない、と?」
「……そうですか」
「……いえ、え、いやお構いなく。また改めますので。え? ええ! あ、いや、ほんとに…。ええ、ええ、本当にお気遣いな、え? あ、そうですか? ああ、ええ。え、じゃあ少しだけ? いやいや本当に大丈夫ですから」
と、言うわけでアビノンの家に上がることになったマルコたちだった。
一同は、一通りの公式行事を終えた。
まあ疲れた。
疲れたしそろそろ帰ろうかという前に、もう一度きちんとアビノンに督促をしておこうということになり、ご自宅突撃と相成った。
アビノンの家は、さすが騎士団長の家で、普通の家を1サイコロとするなら、4サイコロぐらいありそうな豪邸だった。
パステルブルーの豪邸。
壊すことなく玄関から入ると、迎えてくれたのはディープパープルとショッキングピンクの2色の髪をして、長い耳にたくさんのピアスをしたパンキッシュなエルフで、アビノンのお母さんだった。
救国の英雄の突然の来訪に、有頂天になったお母さんは、アビノンがいないので帰るという4人をむりやり家に上げたのである。
〖めちゃくちゃいい人なんだけど?〗
〖あの
〖どうする?〗
3人はママエルフをマルコに押し付け、作戦会議をしている。
〖この方に督促するのは、なかなか勇気がいるな〗
〖良心が痛むわね〗
〖どうする?〗
エルフだか溶けたアイスクリームだがわからなくなっているママエルフを横目に結論がでない。
いい人過ぎて、アビノンの残念エピソードを語るのが申し訳なくなっているのだ。
そうこうしていると『ただいまぁー』と帰って来た人がいる。
パパエルフことクヌギ国6代目騎士団長ビシウィである。
「いやー、メクジラさんは凄いねー。トゥレスさんにちょっと手合わせしてもらったんだけどさー、ぴょーいって剣を弾かれちゃったよ。あれだけの人の剣が折れたっていうんだから、大変なはな…なあ゛!?」
ご機嫌に帰って来たビシウィが驚く。
家に、スーパースターがいたからである。
しかし、そこは歴戦の戦士。
そして、鉄壁の公務員。
「大変失礼いたしました。お越しいただいてるとは思わず、不敬な態度を。平にご容赦賜りたく。少々お待ち下さいませ」
ビシリと謝ると、つきたてのお餅みたいに、引っ張ったらどこまでも伸びそうになってる妻の腕を掴んで家の奥へ引っ張っていく。
〖強敵が増えた〗
〖間違いなくいい人ね〗
〖困ったな〗
見ただけで分かるできた人の登場に悩む3人。
家の奥の方から、『どうして?』とか『どうする!?』とかガヤガヤ聞こえて来る。
〖国難が去って、大変な時期の貴重な憩いの時間を邪魔してしまったのは無遠慮だったな〗
〖今日は改めた方がいい〗
〖そうね〗
3人が頷き合う。日が悪かった。
「いえ、大変お待たせしました」
「失礼いたしました」
エルフに戻ったママエルフを連れて戻ってくるビシウィ。
「それで、うちのアビノンに何か御用があったようで?」
平静を装っているが緊張している。
「いえ、たま…」
フェノンが暇乞いを告げようとしたその時。
「アビノンはフェノンに借金してるんです」
「「「「「!!」」」」」
会議に参加してなかったヤツが爆弾を放り込んだ。
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