第48話 マルコ無双

「どうしたんだ?」

「急に大きな声出さないでよ」

「ビックリした」

「いいわけないだろ! なんだよコレ? ただの恐喝じゃないか!?」

珍しくマルコは怒り心頭だった。


「恐喝ではない」

「取り引きよ」

「そうそう」

「言い訳するなよ!! 見ろよ、ウノさん泣いてんじゃん!」

泣きそうではあるが、ウノはまだ泣いてない。

『泣いてない』と言いたかったけど、言わない方が良さそうなので黙っていた。


「ただでさえ、猿にボコボコにされて、しかも、その猿をCランクどころか、こないだ登録したばかりのEランクにトドメをさされたんだぞ!? 悲惨どころの騒ぎじゃないんだよ!!」

マルコは止まらない。

「幻視獣奪われたなんて聞いたことないだろ!? 歴史に名前が残る不手際なんだよ!? 追い討ちかけてやるなよ!!」

「「「…でも」」」

「でもじゃない!! 挙句に武器まで奪われて、ケッチョンケッチョンにやられて、ボッコボコに凹んでるんだよ」

「「「………」」」

むぅーと膨れる3人。

マルコに言われると余計に辛いメクジラ。

「クアトロなんて、戦闘に参加すらしなかったんだぞ? 俺ですら城に入って、しかもトドメ指したのに!! 本物の睡魔を見せてやるとか散々イキり散らしてたのに、ショボーン、シュホボーンって、ちぃっちゃく、ちいいっちゃくなって体育座りして、背中まるーんて丸めて、地面を指でいじいじしながら、僕の魔法が全然効かないんでちゅって泣いてたんだぞ? めちゃくちゃいい気味じゃないか! もっと酷い目に会えばいいんだ」

「そこはそうなのね」

「とにかく、アコギなマネはしないこと!いいね!」

「「「えぇー…」」」

「えー、じゃないの!!」

「でも」

「百一匹屋のワンダフルーツパフェ」

食い下がろうとするリナ。

しかし、マルコが機先を制す。


「え?」

「百一匹屋のワンダフルーツパフェ食べに行こうよ」

「え? 一緒に? ホント!?」

ドガッシャーンと盾を倒して、胸の前で手を組むリナ。

「うん。一緒に行こう」

パーっと笑顔になるリナ。

「ウソ! ほんとに! え! つ、ツインでもいいかな…?」

今度は顔を赤くして聞くリナ。ツインというのは1つのパフェを2人で食べられるように飾ってあるバカップル仕様のことである。

「もちろんだよ」

「約束だからね! 約束! 絶対よ!」

たゆんたゆん揺らしながら喜ぶリナ。

ちなみに、金を出すのはリナである。

ヒモだから。


「リナが落ちた」

「情けないな」

浮かれるリナを冷めた目で見る2人。

「そういえば今度ヒラケタ市立美術館で、ゲホゲホの絵画展やるよな?」

「!!」

ピクんと反応するメル。

「おいっ! メル?」

フェノンが呼ぶが聞こえてない。

「あの『ひまわりの種』が初展示だろ? メル行きたがってたよな?」

ブンブンと首が取れそうなほど頷くメル。

こう見えて美術館とかが大好きなのである。


「良かったら一緒に行ってくれないか?」

ブオンブオンと頭が地面に付きそうなほど頷くメル。

「……その後、ディオワールドゲームセンターも行っていい?」

うるうるした目でマルコを見上げるメル。

メルはゲーセンも好きだ。

「いいとも!クレーンゲームでも、メダルゲームでもいくらでも付き合うよ」

「『ヒモっこぐらし』のぬいぐるみ取ってくれる?」

上目遣いになるメル。

「やってみるよ! クレーンゲームはできるからさ」

1セボンも出さないけど。

ヒモだから。

「……約束」

細い小指をひょこんと出すメル。

「うん」

指切りする2人。


「だらしない」

陥落した2人を忌々しそうに見るフェノン。


「フェノン」

マルコがフェノンを呼ぶ。

「なんだ? 私は簡単には折れないぞ!ココデネルの新作発表会が近くにあるし、コレカラ市にアサダの新店が来月オープンする。マスベリーの新メニューも気になるし……一緒に行こうと言うなら検討の余地は余るほどあるがな!」

身構えるフェノン。

「知ってるよ。フェノンがネムラゴのリーダーとして、頑張ってるのをさ」

「む?」

「パーティメンバーのためにも、しっかり稼ごうとしてるのも分かる」

「むむ?」

「でもさ、それはウノさんも同じだと思うんだ」

「むむむ?」

「今回は、メクジラさんが貧乏くじ引いたけど、次はネムラゴかもしれない。その時に助けてくれるのがメクジラさんかもしれない」

「……」

「だから、今回は譲ろうよ。情けは人の為ならずって言うし、さ?」

「………」

「ダメ?」

「………ダメではないが……」

「ないが?」

「なぜ、私にだけ正論なんだ!? ここは2人みたいに物で釣るべきだろう!?」

ドンドンと足を踏むフェノン。

笑うマルコ。

「ああ!もう! もういい!フィフティフィフティでやろう。実行が私たち、実務がそちらだ!元々イリーガルな仕事だしな! ただ、貸しだからな! 機会があった時はちゃんと返してくれ!」

「あ、ああ。ありがとう。恩に着る」

先程までの悪どい姿はどこへやら、顔を真っ赤にして腕を振り回しながら照れ隠しのように叫ぶフェノンに戸惑いながら、ウノが返事をする。

「ありがとう、フェノン。クエスト報酬入るからさ、今度、買い物行こうよ。そんな高いのはムリだけど」

「!! 絶対だぞ! 絶対!!忘れるなよ! 忘れたらマルコのご飯をメルに作らせるぞ!」

「絶対に忘れないよ」

笑うマルコ。


「リナ、その盾も返すんだ」

「はーい」

上機嫌なので気にもならない。

「ちゃんとエルフからふんだくってくれ! 行くぞ!」

「あ、ああ。任せてくれ」

急転直下の事態に弱冠戸惑いながら、ウノが頷く。


ひらりと踵を返すフェノンを先頭に、右手をリナ、左手をメルにつかまれて、マルコが去って行く。


「……なんつーか、すげーもん見たな」

トゥレスがつぶやく。

「3人を目の前で同時に口説き落とすのは、流石に出来ん」

ドスもつぶやく。

「俺、帰ったら、プロポーズしよう」

ウノがこぼす。

「え? アインスさんですか? ついに?」

トゥレスが驚く。

「ん、いや、アインスとは別れたんだ」

「え!? マジで!?」

「ああ」

「じゃあ誰に?」

「いや、デザイナーやってる子でさ、まだ若いんだけど、でけえ企画のチーフやってて、すげーちゃんとしてんだ。でもまだまだ甘い所もあるからよ、俺が側で力になってやるよ。プラプラ遊んでちゃいけねえって、今のアイツマルコ見てたら思った」

「へぇー。ウノさんがねえ」

「これで振られたら笑えねえけどよ」

ハハっと笑うウノ。

「よし、サクッとこの話まとめて、ドカンと報酬もらって、ビシッと決めるぜ」

バシッと立ち上がるウノ。

「「頑張れよ!」」

友情を見せる2人。



「待ってろよ! ―――シンコ!」


「ちょっと待てえええーー!!」

クアトロの絶叫が響いた。


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