第47話 太っ腹

「エルフの魔力がここまで厄介だったとはな」

ゲッソリしたウノが言う。

当然、服は着ている。

「猿帝の呪いは眠りの他に能力を奪う、それはそうなんだが……」

同じく暗い顔のドス。

「幻視獣を奪うなんて聞いたことがない」

影を背負ったトゥレス。

「視界を覆うほどの呪いというのも異常ですしね」

どうしていいのか分からないと表情が語っているクアトロ。

「エルフの魔力を取り込んだせいで、呪いの力が劇的に底上げされたんだろうが……情けない」

「奪眠の呪いの対策はしていたが、幻視獣を奪われて、ぶん殴られるとは……不覚」


「それよりもあの辺のエルフがグーグー寝てる間にこれからのことを決めよう」

仁王立ちしたフェノンが、部屋の隅っこでヨダレを垂らしてガーガー寝ているエルフを肩越しに指さす。

「終わったことは悔やんでも仕方ないわよ」

「感傷じゃ腹は膨れない」

「鬼か!?」


「報酬の交渉は、Aランクの方が適任だな」

「小娘にはムリだもんね」

「出る幕がない」

息ぴったりにウンウンと頷く3人。

「「「「………」」」」

反論しないメクジラ。


「後片付けについても、Aランクの方が適任だな」

「私たち火力特化だもんね」

「出る幕がない」

やはり、息ぴったりな3人。

「「「「………」」」」

反論しないメクジラ。


「報酬の分配については、どう思う?」

「建設的な意見が聞きたいわね」

「平等な評価が必要」

頭の上に『分かってるよな?』と書いてある。


「3:7だ。俺たちは3でいい」

ウノは潔かった。

「ん?聞こえないんだが?」

フェノンは時々耳が悪くなる。

「お前らマジか!?」

愕然とするトゥレス。

「事後処理全部押し付けて、7持って行くなら充分だろ!?」

「まあそうね。余り欲張るのも良くなしい。分かったわ。7:3ね」

ウンウンとわざとらしく頷くリナ。


「ところで、私は不勉強なんですが……」

突然、敬語になるフェノン。

4人の背筋がぞわりとする。

「クエスト中のAランクパーティというのは、公的な権限を多分に含むとお伺いしているのですが…」

「……そうだが? だから、事後処理を任せるんだろう?」

「……ええ、そうですよね」

「……何が言いたい」

「いえ、例えばですが、クエスト中に、他国の玉座を控える謁見の間で、局部を丸出しにして昼寝していた、などと知れたらどうなるのかな?と、思いまして」

当たり前だが、Aランクの股か…ではなく沽券に関わる。

「「「「!?」」」」

「いえ、とは言っても、先輩方は、激闘の末の不幸な事故だったわけですが、物の伝わり方というのは怪しい所が…」

「に、2.5:7.5だ」

「でも、そんな場面を見ているのは幸い私たちだけですので、そんな大事になりはしないと思うのですが…少々、心配に……」

「……2:8だ」

「いえ、要らぬ心配ですね」

「これで、この問題大丈夫」

「「「「は?」」」」


「いえ、先輩方のクエストがなんだっかなーと思ってまして」

「何って、エル……あっ!おい!?」

慌てるウノ。

「ええ、先輩方の受注クエストはハリオオカミの討伐だったかと」

「待て、お前ら、正気か!?」

慌てるドス。

「でも、見てないんですよねぇ? ハリオオカミ探してるとこ。まさかのクエスト放棄なんて、Aランクが!?」

あごに手を当て、うーんとあざとく小首を傾げるリナ。

「「「「………」」」」

「まあ、それを知ってるのも私たちだけなんですがね?」

「1.5:8.5だ」

「8.8:1.2ですか」

「さすが太っ腹」

満足そうな3人。

「もう煮るなり焼くなり好きにしやがれ」

涙目のウノ。


「……さっきから気になってるんだが」

ドスが地獄の底から響くような声を出す。

「それは、なんだ?」

ギギギとホラーな音がしそうな挙動で、リナの後ろを指さす。

「え?これ? 白猿の落し物です」

ペカンと笑顔で答えるリナの後ろにあったのは、ベコベコに歪み、曲がりまくった盾の成れの果てだった。


「ど、どうするつもりだ?」

青ざめるドス。

「イイモノっぽいので売りますけど?」

え?当たり前じゃん?みたいなリナ。

「止めろ…」

震える声のドス。

「猿から拾ったんですぅって、トータルズさんとかに売ったらいい値段になるんじゃないかなーって」

てへっと可愛く笑うリナ。

Aランクパーティ【トータルズ】。

ピザが大好きなパーティで……メクジラとはそれはそれは仲が悪い。


「止めろ! 返せ!」

当たり前だが、見る人が見れば、メクジラのドスのスパイクシールドだと一発で分かる。

オリハルコンを初めとするレア素材を混ぜて作る超硬合金のスパイクシールドなど、そうそうあるものじゃない。

というか、オーダーメイドだから世界に1つしかない。

「え?返せ?」

「……ごめんなさい、いくらでしょうか?」

ドスがプルプルしながら頭を下げる。

「さあ? トータルズさんがどれくらい出してくれるか、見当がつかないので……お気持ち次第かと」

「頼む。これで譲ってくれ」

ライバルのトータルズに、壁役が猿に盾を奪われ、しかも、その猿をCランクの女の子が倒したなどと知れたら、笑い者どころでは済まない。

『黙っててやろうか?』などと言い出したら、ケツの毛まで毟る勢いで搾られ続けるのは目に見えている。

身の破滅である。

ドスは真っ青なんだか真っ赤なんだか分からない顔色で、相当な値段を提示した。


「うむ。いい話し合いになったな」

「双方にとって有益な時間だったわ」

「良い良い」

満足そうな3人。


「いいわけが、あるかー!!」

そして、マルコがキレた。


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