第46話 Aランク

「寝ると呪いの靄が晴れるんだね」

やっとスレプフリープスが終わったマルコが、くったりした炎天猿帝から離れて、3人と話す。

「死んだからな」

「死ねば呪いは無くなるわ」

「グッジョブ」

「………なんて?」

「だから死んでるんだよ、その猿は」

「平和な死に顔ね」

「穏やかな最期」

「………なんで?」

「寝たからだ」

「寝たからね」

「寝たから」

「………なんだって!?」

ガバっと猿を振り返るマルコ。

「「「おつかれ」」」


マルコは知らなかったが、白夜猿も炎天猿帝も寝ると死ぬ。


肉食動物は、草食動物を食べる。

なぜか?

肉食動物は、草を消化できないからだ。

草を消化できないので、草を食べることができない。

しかし、草に含まれる栄養が生きるために必要だ。

なので、草を草食動物に消化してもらっといて、自分は消化が済んだ草ごと草食動物を食べる。

アビノンがお腹を壊したように、肉食動物にムリヤリ草を食べさせると、消化不良を起こして死ぬ。


白夜猿も炎天猿帝も同じである。

この猿たちは、睡眠という必ず無防備になる時間を無くすため、睡眠を他種族に頼り、他種族の睡眠を奪うことにした。

つまり、睡眠が不要になった訳では無い。

睡眠は必要なままなのである。

しかし、睡眠という機能は排除した。

結果、眠りは必要だが、眠れない体が出来上がったのだ。


そのため、コイツらをムリヤリ眠らせると、体が睡眠に耐えきれず、死んでしまう。

自然界では絶対に起こらない。

睡魔使いという、相手をムリヤリ眠らせる術を持つ者だけが起こしうる。


クララが言った、不眠大猴に対するカウンターとして睡魔使いを、というのはこういう意味である。

奪眠の呪いの解呪方法でもあるのだが。


「はえー……そうだったのか……」

自慢の愛刀をスルリと引っこ抜き、血糊を片付けるフェノンに説明を受けたマルコが、現実感の欠片もない顔で、頷く。

危険度:高に該当するモンスターを自分が倒したことが信じられないから。


「でも、なんでこんなまどろっこしい真似を?」

フェノンがそのまま倒せただろう、と思う。

効きの悪い魔法に頼らずとも倒せたはずだ。

事実、霧はかなり薄くなっており、回復能力が尽きるのも時間の問題だった。


「そんなのマルコに華を持たせるために決まってるじゃない?」

「そうそう」

「やったな、炎天猿帝を倒したとなれば大手柄だ」

棒読みの3人の目は、猿に釘付けだ。

「………そういうのはいいからさ?」

「炎天猿帝は、素材として捨てる所が無い」

「私たちの攻撃だと破損が多くなるから」

「買取価格がガクンと下がる」


「……眠らせて殺すと破損が少なかったんだね」

「ほぼ完品だ!」

「完璧な仕事よ!」

「笑いが止まらない」

イェーイ!とハイタッチする3人。


「イェーイはいいけど、あんなデカいのどうやって持って帰るんだよ?」

「「「??」」」

何言ってんだコイツ?みたいな顔を向ける3人。

「いや、どうって馬車があるじゃないか」

「ミスリル製の軽くて頑丈なヤツがね」

「ペガサス6頭立ての」

イェーイ!とハイタッチする3人。


「それ他人ひとのだろ!?」

「「「……え!?」」」

「え!? いや、えっておかしいだろ!?」

「頼めば貸してくれるでしょ?」

「貸してくれたとしても8人でいっぱいだったじゃん」

「誰が相乗りと言った?」

「借りるのよ」

「私たち4人と1頭なら乗る」

「メクジラさんは!?」

「歩く」

イェーイ!とハイタッチする3人。


「いや、おかしいし無理だろ!」

「大丈夫だ」

「その自信はなんなんだよ!?」

「え、だって」

「あんな醜態晒してるわけだし」

「断れないだろう」

フェノンたちの指した方を見る4人。

「「「「………」」」」


「……アレはいいのか?」

マルコが渋い顔で聞く。

「いいかどうかは知らんが、なってるんだから仕方ないだろう」

「レアではあるわね」

「撮っとく?」

「止めなさい」

スマホを取り出すメルを止めるマルコ。


部屋のすみっこには、猿に装備をムリヤリ剥ぎ取られ、大事な所とか全部オープンになってる色男3人が転がっていた。


流石Aランクの存在感だった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る