第44話 高笑い

「切り出しナイフって……こんなオモチャじゃ…?」

「む! オモチャじゃないぞ! 私の大事なものの1つだ!」

プンプンと怒るフェノン。

「よく見てみろ!」

切り出しナイフを見せるフェノン。

「んー? ん?」

「ハイハイ、イチャついてないで仕事よ仕事」

「シールドも有限」

パンパンと手を叩いて、2人を引き剥がす2人。

「あ、ああごめん」

「そうだな。そういう状況ではないな」

ゴホン、と咳払いするフェノン。

「ラゴ!」

フェノンが呼ぶと、その背後にスっと黒い影が現れる。

黒光りする鱗。

長くしなやかな体。

見るものを威圧する鋭い爪。

神秘性を秘めた深い色合いの瞳。

フェノンの幻視獣、幻獣種・ドラゴン【ラゴ】。

発現者のあらゆる身体能力をドン引くほど引き上げる。

最初、ミミズみたいだった幻視獣は、ダンゴムシみたいなのになり、イモリになり、ヘビになり、ワニとなり、ムササビになって、シラサギを経て、コイとなり、ちっさな龍になって、大きな龍へとポコポコ進化した。

誰かと違って。

そして、進化する度に、バカみたいにグレードアップした。

誰かと違って。


「アルティメットモード」

気合いも気負いもなく呟く。

しかし、変化は激烈。

背中の龍がゴアーっと吠える。

大気が震え、黒い靄が吹き飛ぶ。

辺り一面の光を吸い込むように、濃くなる影にフェノンが包まれる中、小さな切り出しナイフが、眩く光る。


そこに現れたのは、黒い鎧を纏ったフェノン。全身真っ黒な中、手甲から伸びる分厚く斜めに切り出された刃だけが白い。

幻獣種なのに機械種のように物質化を果たし、鎧となり武器となる。ラゴの特殊スキル、アルティメットモード。

フェノンの奥の手だった。


「圧巻」

「卑怯よね、これ」

「初めて見た」

「「そうなの!?」」

「この姿は時間制限があるから、頼むぞ」

「あ、ああ。気をつけて」

フェノンに慣れたマルコですら威圧感を覚えるその威容。

「では、行ってくる」

――ドンッ――

轟音の後に残ったのはヒビ。

ミサイルが爆発しても、溶岩が流れても、液体窒素に晒されても傷すらつかなかった謎の素材に入ったヒビ。


「ギョドゥベペェー!!」

猿の咆哮が響き、吹き荒れていた魔法が止む。

「大丈夫かな?」

「大丈夫よ」

「やるべき事をやる」

「あ、ああ。……で、何をすれば?」

「プランCよ」

「久しぶり」

「あの…?」

ちょっとニヤニヤする2人に嫌な予感しかしないマルコ。


「ランバ! アブソリュートレールガン・カタパルティ!」

ガションガシャンとリナの正面に、ベルトコンベアみたいなのが出来る。

「待て!アブソリュートレールガンってあれだよな!? 無力化したモンスターを弾丸にしてとんでもない速度でぶっぱなすモードだよな!?」

「そうよ。初速は音速の5倍よ」

しれっという音が聞こえた。

「まさか!俺をぶっぱなす気か!?」

「そうよ。アブソリュートレールガンには弾がないからね」

しれっという音が響き渡る。

「カタパルティって何だよ?」

「雰囲気よ! さあ!乗って!」

「嫌だよ!」

全力で拒否するマルコ。

「パーフェクトシールド」

「いっ!? 体が動かない!?」

イヤイヤするマルコがカチンと固まる。

「よし、こうで、こうで、いや、こうの方がカッコイイ。そして、こう」

メルが人形で遊ぶように、マルコに黒刀を持たせ、正眼に構えさせ、レールガンに乗せる。

写真をパシャリ。

黒刀を構えたその姿は、どこの剣豪かと思うほどだ。

実力は1ミクロンも伴わないが。


「さあ、フェノンが命懸けで猿を食い止めてる間に、チャージするのよ」

「いや、猿の悲鳴とフェノンの高笑いしか聞こえないけど!?」

『まだだ、お前はまだまだやれるぞ! 根性を見せろ! ハアッハッハァー』

ドゴンバガンと重機がコンクリを砕くような音がする度、猿の悲鳴と楽しそうなフェノンの声が聞こえる。

赤い毛に覆われた腕や足や頭がビュンビュン飛び回る度に、黒い靄がギュンギュン使われて、かなり視界が良くなって来ている。

「フェノンにも制限時間がある、早く」

「ホントか!?」

「……嘘は言ってない。さあ早く」

「ホントの事を言えぇ!」

「どの道、マルコの動きは私たちで封じてるんだから、逆らうだけムダよ」

「鬼か!?」

「「早く」」

「くそぅ…覚えてろよ…チャあージぃあ!」

マルコが半ばヤケクソに叫ぶと、ネムがふわりと浮かび上がり、ピカピカモコモコが始める。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る